トランプ政権、半導体に100%関税発表 ~「米国で建設するか関税を払うか」の二者択一でサプライチェーン再編が加速~

トランプ政権、半導体に100%関税発表 ~「米国で建設するか関税を払うか」の二者択一でサプライチェーン再編が加速~ タイ国際外交・貿易
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2025年8月6日、ドナルド・トランプ米大統領は輸入半導体に対して「約100%」の追加関税を課すと発表した。Appleのティム・クック最高経営責任者(CEO)が米国内製造業への1,000億ドル追加投資を表明した席での発表は、「米国で建設するか、さもなくば支払うか」という強烈なメッセージを世界の半導体業界に突きつけた。

免除条項が生む企業格差

この関税政策の核心は明確な免除条項だ。米国内で半導体製造施設を建設中、または建設を確約した企業は関税が完全免除される。既に巨額投資を決定しているTSMC(台湾積体電路製造)、サムスン電子、インテルなどの「エリート企業」は免除対象となる一方、米国内拠点を持たない中小専門メーカーは100%の懲罰的コストに直面する。

政権は偽りの約束に対する警告も発している。「建設すると言っておきながら建設しなかった場合、後日それを請求する」として、関税の遡及適用を明言した。これにより企業は数十億ドル規模の設備投資か、事業継続困難レベルのコスト増のいずれかを選択せざるを得ない。

CHIPS法からの戦略転換

この政策はバイデン前政権の「CHIPSおよび科学法」からの根本的決別を意味する。CHIPS法が500億ドル以上の補助金という「アメ」で投資を誘致したのに対し、今回は100%関税という「ムチ」で強制する。

興味深いことに、現在免除の恩恵を受けるTSMCやサムスン電子の米国投資は、元々CHIPS法のインセンティブが促したものだ。新政権は前政権の成果を事実上乗っ取り、補助金哲学を否定しながらその投資実績を自らの強硬策の成功として再定義している。

市場の意外な反応

「100%関税」の威嚇的発表にもかかわらず、フィラデルフィア半導体株価指数(SOX)は上昇した。投資家は即座に免除条項に注目し、主要企業が既に必要な米国投資を実行済みと判断した。市場は業界への広範な脅威ではなく、準備不足の競合を排除する「清算イベント」として解釈した。

Nvidia、Apple、AMD、クアルコムといったファブレス設計企業は、アリゾナやテキサスで施設開発中のTSMCやサムスン電子を利用することで関税回避が可能だ。一方、米国拠点を持たない欧州・アジアの中小チップメーカーは深刻なリスクに晒されている。

地政学的な階層化進む

同盟国は既存協定を盾に対抗している。韓国は最近の貿易協定による最恵国待遇で関税率15%を主張し、欧州連合(EU)も同様に15%上限を主張している。台湾はTSMCの1,650億ドル投資を理由に免除を確保した。

対照的に中国企業のSMIC(中芯国際集成電路製造)やファーウェイは免除対象外となり、レアアース輸出規制など報復措置が予想される。この政策は貿易相手国を経済貢献度と政治的忠誠度で階層化する地政学的選別メカニズムとして機能している。

AI産業への隠れた脅威

重大かつ過小評価されているリスクがAI産業への影響だ。TSMCが製造する高性能GPU搭載のAIサーバーコストが50-75%上昇し、3兆ドル規模の米国AI基盤構築を頓挫させる危険性がある。

巨大テック企業はコスト吸収可能だが、AIスタートアップや大学研究室は競争から締め出される。チップ製造の安全保障強化が、より重要なAI開発領域の競争力を決定的に損なう可能性がある。

企業が直面する戦略的選択

この100%関税は単なる貿易障壁ではない。世界の半導体サプライチェーンを米国内に強制再配置させる地政学的ツールだ。効率性よりも安全保障を優先する分断された新時代の到来を告げている。

BKK IT Newsの見解では、短期的には米国製造業投資を加速させる一方、消費者物価上昇、同盟国との摩擦、AI競争力低下という深刻なリスクを内包している。企業は免除対象外サプライヤーへの依存度を緊急点検し、サプライチェーン多様化戦略の見直しが急務だ。

グローバルIT業界は効率性から強靭性へ、統合からブロック化へという歴史的転換点を迎えている。この地殻変動の影響は今後数年にわたり世界経済に波及し続けるだろう。

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