米国が中国向け半導体製造装置使用許可を撤回 ~Samsung・SK Hynixの中国工場に深刻な打撃~

米国が中国向け半導体製造装置使用許可を撤回 ~Samsung・SK Hynixの中国工場に深刻な打撃~ タイ国際外交・貿易
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2025年8月29日、米国商務省産業安全保障局(BIS)がSamsung、SK Hynix、Intelの中国事業体を「検証済みエンドユーザー(VEU)」プログラムから除外する最終規則を発表した。この措置により韓国半導体大手の中国製造拠点は今後、米国製半導体製造装置を1台輸入するごとに個別のライセンス申請が必要となる。より深刻なのは、商務省が技術アップグレードを目的としたライセンスを原則として承認しない方針を明示した点だ。数十億ドル規模の先端工場が現在の技術レベルに固定される運命にある。

VEU制度の歴史的転換点

2007年に設立されたVEUプログラムは、対象国に所在する信頼性の高い事業体への輸出ライセンス取得負担を軽減することを目的としていた。米国のサプライヤーは個別許可を都度申請することなく、包括的な許可の下で指定デュアルユース品目を輸出できた。このシステムにより輸出プロセスは「より容易に、迅速に、そして確実に」なっていた。

SamsungとSK Hynixは2022年にVEUステータスを付与され、2023年に無期限化された。この例外措置は、バイデン政権による2022年10月の包括的な輸出規制の数少ない抜け穴として機能していた。米国の同盟国が中国で事業を展開しつつ、米国の輸出管理原則を遵守するための妥協点と見なされていた。

トランプ政権はこの措置を「バイデン時代の抜け穴」と位置づけており、ジェフリー・ケスラー商務次官(産業安全保障担当)は「米国企業を競争上不利な立場に置く」抜け穴を閉じるためのものであると述べている。

Samsung西安・SK Hynix無錫への深刻な影響

Samsungは中国西安市に2つの大規模製造工場を運営しており、これらは同社唯一の海外メモリ半導体生産拠点である。西安工場はSamsungのNAND総生産量の35~40%を占め、世界最大のNAND型フラッシュメモリ製造拠点として機能している。Samsungの世界市場シェア32.8%を考慮すると、西安工場は全世界のNAND供給量の約11.5~13.1%を生産している計算となる。

SK Hynixの無錫工場は、同社のDRAM生産の最重要拠点でDRAM総生産量の約40%を担っている。SK Hynixは2025年第1四半期にDRAM市場で初めてSamsungを抜き世界シェア約36%で首位に立ったため、無錫工場は同社のグローバルリーダーシップを支える基盤そのものである。

今回の措置により、両社は年間約1,000件の追加ライセンス申請が発生すると予測されている。しかし真の厳しさは事務手続きの煩雑化ではない。技術アップグレード禁止により工場は現行技術レベルに固定され、時間とともに競争力を失っていく。半導体産業は絶え間ない技術革新によって定義される産業であり、新プロセスノードへの移行ができない工場は徐々に陳腐化する運命にある。

サプライチェーン全体への波及効果

Applied Materials、Lam Research、KLA Corpといった米国大手半導体製造装置メーカーは深刻な打撃を受けている。2025年の直近四半期報告によれば、中国市場は各社の総収益の30~35%を占めており、このニュースが報じられると株価は下落した。

一方で米国のメモリメーカーMicron Technologyは、韓国ライバル企業の混乱から利益を得る可能性が高い。SamsungとSK Hynixの中国生産に制約が生じるため、顧客はより安定的で地政学的にリスクの低いサプライヤーとしてMicronに目を向けるという論理である。

中国国内では、NAURA Technology Group(北方華創)、Advanced Micro-Fabrication Equipment Inc.(中微公司)、Shanghai Micro Electronics Equipment(上海微電子装備)といった装置メーカーにとって好機となる。SamsungやSK Hynixが既存設備の維持・補修のために、これらの中国サプライヤーから装置を調達せざるを得ない状況が生まれる。

地政学的競争の新段階

韓国政府は安全保障上の主要同盟国である米国と、経済的に重要な中国との間で困難な立場に置かれている。韓国の産業通商資源部は「グローバルな半導体サプライチェーンの安定」にとって中国工場の重要性を強調しつつ、国内企業への「影響を最小限に抑える」努力を続けている。

米国の輸出規制の効果は、オランダのASMLや日本の東京エレクトロンなど同盟国の協力に依存してきた。今回のVEU失効は、米国が同盟国に対して結束を求め、封じ込め戦略のあらゆる抜け穴を塞ぐという強いメッセージを送るものである。

今後の市場構造変化

BKK IT Newsとしては、この措置により企業の製造拠点多様化が加速し、「フレンドショアリング」が本格化すると予測する。フレンドショアリングとは、政治的・経済的に友好な同盟国や信頼できる国家に生産拠点を移転させる戦略である。従来のオフショアリング(低コスト国への移転)から、地政学的安全性を重視した立地選択への転換を意味する。米国のCHIPS法などがこの流れを後押ししており、企業はコスト効率より政治的安定性とサプライチェーンの安全保障を優先する傾向が強まっている。

グローバルサプライチェーンはより断片的で重複の多い、非効率的な構造になる可能性がある。最終的には消費者のコスト増につながる恐れがある。

中国は技術的自給自足を追求する以外の選択肢がない。国内の装置メーカーやメモリメーカーへの大規模投資がさらに強化される。中国は最先端技術では依然として数年遅れているが、成熟プロセス技術では急速な進歩を遂げており、7nmチップの生産能力を実証している。

企業が検討すべき対応選択肢

この地政学的現実を踏まえ、関連企業にとって複数の戦略的選択肢が考えられる。

サプライチェーンのさらなる多様化と地政学的リスクを織り込んだ研究開発投資が重要となる。製造拠点の地理的分散、技術依存度の見直し、代替調達先の確保などが検討課題となる。

同盟国間での戦略的連携強化も選択肢の一つだ。日本、韓国、台湾、東南アジア諸国との協力体制を構築し、中国市場への依存度を段階的に調整する企業も増える。

技術革新への継続的投資により競争優位性を確保する企業戦略も重要だ。地政学的変動に左右されない独自技術の開発、新興市場での事業拡大、高付加価値製品へのシフトなどが考えられる。

もはや企業、投資家、政府は、グローバルテクノロジーエコシステムが恒久的に断片化され政治化されたものであるという前提で行動する必要がある。この新たな地政学的現実への適応が、企業の長期的競争力を左右する決定的要因となる。

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