8月7日、トランプ大統領がIntelのリップブー・タン氏CEOの即時辞任をソーシャルメディアで要求した。背景には、タン氏が過去に運営した投資会社を通じて中国企業に投資していた経歴がある。この事件は単なる政治的圧力を超えて、グローバル企業の経営陣が直面する新たなリスクの象徴となっている。
攻撃の発端と政治的圧力
事態の発端は、トム・コットン上院議員が8月5日にIntel取締役会に送付した書簡だった。書簡では、タン氏が投資会社Walden Internationalを通じて中国企業に2億ドル以上投資し、その中に人民解放軍関連企業8社が含まれていると指摘した。
さらにコットン議員は、タン氏が前職のCadence Design Systems社CEO時代に、同社が米国の輸出規制対象である中国国防科技大学に違法に技術輸出した問題を追及した。Cadence社はこの違反で1億4000万ドル以上の罰金を支払っている。
コットン議員の書簡から2日後の8月7日、トランプ大統領がTruth Socialに「IntelのCEOは著しく利益相反しており、即刻辞任しなければならない」と投稿した。Intel株価は発表直後に3%から5%下落し、市場に大きな衝撃を与えた。
Intel内部の権力闘争
この外部攻撃は、Intel社内の深刻な経営課題と重なって発生した。ウォール・ストリート・ジャーナルの報道によると、フランク・イェアリー会長率いる取締役会は、タン氏のAI企業買収計画を停滞させていた。この遅延により買収対象企業は別の買い手に接近する機会を得た。
また取締役会は、製造拠点投資のための数十億ドル規模の資金調達を2026年まで延期していた。対立の核心は、Intelがファウンドリ事業から完全撤退すべきか否かという戦略的方向性の違いだった。
タン氏は3月のCEO就任以来、全従業員の15%から25%に相当する大規模人員削減を実施し、オハイオ、ドイツ、ポーランドでの製造プロジェクトを中止または延期してきた。これらの急進的なコスト削減策は、Intelの競争力回復を目指すものだったが、取締役会の一部からは懐疑的な見方もあった。
防戦の限界と新たなリスク
Intelの対応は後手に回った。同社は「米国の国家安全保障に深くコミットしている」との公式声明を発表し、政権との対話を約束した。タン氏自身も従業員向けメモで、40年以上の米国市民であることを強調し「この国を愛している」と反論した。
しかし、この標準的な危機対応は、新たな政治環境では十分でない可能性がある。IntelはCHIPS法に基づき80億ドル以上の政府補助金を受け取っており、コットン議員はこれを「米国納税者の資金を責任ある形で管理する受託者」としての役割を果たすべき根拠として活用した。
業界への波及と今後の展望
この事件が示すのは、戦略的に重要な産業の企業経営陣が、もはや純粋な経済主体として活動できなくなったという現実だ。CEO候補者の国籍、投資履歴、過去の所属企業が政治的攻撃の正当な対象となる新たな前例が確立された。
取締役会は今後、候補者をビジネス手腕だけでなく、地政学的な耐性についても審査する責任を負うことになる。戦略的に重要な産業における理想的なCEO像は、政治的に安全と見なされる、より「クリーン」で国際的な経歴の少ない人物へとシフトする可能性がある。
BKK IT Newsは、このような政治的動機に基づく企業攻撃が、米国の技術的優位性の礎であったグローバル人材の流入を阻害するリスクがあると考える。外国生まれの経営幹部や研究者は、自身の経歴が攻撃材料にされかねない米国での指導的役割を、もはや受け入れがたいリスクと見なすかもしれない。
企業への提言
この新しいリスク環境において、企業は地政学的リスクを積極的に企業戦略に統合する必要がある。具体的には、リーダーシップと戦略を政治的ショックに対してストレステストするシナリオプランニングの活用、地政学的インテリジェンスの企業戦略への組み込み、そして戦略的コミュニケーション体制の構築が重要となる。
取締役会の受託者責任も拡張され、企業のリーダーシップに対する政治的攻撃から会社を保護することも含まれるようになった。予見可能な地政学的リスクに備えることを怠れば、注意義務違反と見なされる可能性もある。
純粋に商業的なCEOの時代は終わりを告げた。未来は、市場、テクノロジー、そして大国間政治の複雑な相互作用を乗り越えることができるリーダーと取締役会のものとなるだろう。
参考記事リンク
- Intel CEO should resign immediately, no other solution as he is Highly … – Times of India
- Trump says Intel’s CEO must resign, sending its stock tumbling – PBS News
- Cotton to Intel: CEO’s Ties to China are Concerning – U.S. Senator Tom Cotton
- Intel’s stock tumbles after Trump says its CEO must resign – AP News
- Intel CEO addresses ‘misinformation’ as Trump calls for his resignation – Silicon Republic