タイ投資委員会(BOI)が主導する国際エレクトロニクス展示会「Thailand Electronics Circuit Asia 2025」(THECA 2025)が8月20日から22日まで開催され、成功裏に閉幕した。単なる業界イベントではなかった。これは、タイをアジアの電子エコシステム・ハブとして確立するための国家戦略の核心となる舞台だった。過去3年間で2,000億バーツを超える海外直接投資を引き寄せたタイのエレクトロニクス産業が、次の成長段階への決定的な転換点を示した。
タイランド4.0からの長期戦略
タイ政府のエレクトロニクス・ハブ戦略は、決して一朝一夕に生まれたものではない。「タイランド4.0」政策のもと、労働集約的な製造業から価値創造経済への転換を目指し、エレクトロニクス産業を5つの重点産業の一つに位置づけてきた。東部経済回廊(EEC)では、チャチュンサオ、チョンブリー、ラヨーンの3県を対象に、「インテリジェント・エレクトロニクス」分野の企業に対し法人所得税の長期免除や外国人土地所有許可などの優遇措置を提供している。
この長期ビジョンに、米中貿易・技術戦争という短期的な触媒が加わった。半導体産業が国家安全保障上の戦略要衝と見なされる中、グローバル企業は「チャイナ・プラスワン」戦略を本格化させた。タイは充実したインフラと産業集積の歴史から、戦略的な代替拠点として浮上している。
BOIの積極的インセンティブ政策
この好機を捉えるため、BOIは極めて戦略的な投資誘致策を展開している。ウェハー製造は最高位の「A1+」分類で最大13年間の法人所得税免除、先端PCBプロジェクトには最大8年から10年の免税期間を設定した。2024年3月にはPCB製造業へのインセンティブを改定し、ラミネーションや穴あけ、めっきなどサプライチェーン全体を対象に拡大している。
さらに、地政学リスクへの迅速対応も見せた。米国の対タイ関税引き上げの動きに対し、BOIは2025年7月に「新グローバル時代におけるタイ企業の競争力強化措置」を発表。タイ製部品の使用率基準を満たす企業に追加で2年間の法人所得税50%減税を付与する措置を導入した。
投資ラッシュの具体的成果
BOIの戦略は具体的な成果を生んでいる。2022年から2025年6月までの期間に、先端エレクトロニクスおよび半導体分野で500件以上、総額7,000億バーツを超える投資奨励申請を受理した。このうち、PCB分野だけで180件、総額2,000億バーツを超える「投資のビッグウェーブ」が到来している。このタイに2,000億バーツPCB投資ラッシュにより、タイのPCB産業は製造業から高付加価値産業への歴史的変革を遂げつつある。
注目すべき投資例として、台湾Foxconnグループの子会社による105億バーツ(約3億600万米ドル)の投資がある。これは半導体製造プロセス用の高精度機械部品を生産する川上工程への投資で、タイのエコシステムの技術的深度を劇的に向上させる重要なプロジェクトだ。日本のMektec Manufacturing社も9億2,000万バーツを追加投資し、成長するEV産業向けフレキシブルプリント基板の生産能力を増強している。
THECA 2025の戦略的成果
8月20日から22日にバンコク国際貿易展示場(BITEC)で開催されたTHECA 2025は、この投資成果を世界に披露する重要な舞台となった。展示スペースは前回の倍となる12,000平方メートル、世界から500社以上の企業が出展し、実際に7,000人を超える来場者を集めた。
主要テーマとして掲げられた「グローバル統合」と「未来のエレクトロニクス・エコシステム構築」では、量子コンピューティング、AI、デジタルツインなど最先端技術に焦点が当てられ、タイが現在の製造ニーズに応えるだけでなく、次世代技術のハブとなることを世界の投資家に印象付けた。
出展企業は川上(43%)、川中(46%)、川下(11%)という構成で、タイが目指す完全なサプライチェーンを来場者が一目で理解できる設計となっていた。BOIフォーラム、ビジネスマッチング、80,000人規模のジョブフェアも併設され、政策、資本、労働力という産業発展の三つの柱を同時に強化する場として機能した。
今後の展望と課題
タイは世界のPCB市場シェアを現在の4%から10%への拡大を目標に掲げている。目標達成の鍵は人材育成だ。政府は2030年までに84,000人から86,000人の専門人材育成を計画し、全国6つの国家トレーニングセンター設立を進めている。この計画の成否が、タイが真のイノベーション・ハブへと変貌できるかを左右する。
BKK IT Newsとしては、地域内競争の激化も注視している。ベトナムは低コストを武器に、マレーシアは53億米ドルの政府資金投入で先端半導体分野への飛躍を狙っている。タイは既存の強力な産業基盤を活かし、最も強靭で統合されたサプライチェーン構築という独自戦略で差別化を図っている。
企業の選択肢として、この動向は複数の対応策を示唆している。サプライチェーンの多様化を検討する企業にとって、タイのエコシステム完成度は魅力的な選択肢となる。人材開発への投資も重要だ。官民連携によるトレーニングプログラムへの参加を通じ、必要な技能を持つ労働力確保を図ることができる。地政学的リスク管理の観点からも、タイの中立的立場は安定した事業展開を可能にする。
THECA 2025は、タイのエレクトロニクス産業が迎えた歴史的転換点を象徴するイベントとなった。今後3年から5年が、タイがアジアのエレクトロニクス地図における中心的ハブとしての地位を確実に確立できるかどうかの決定的な期間となる。
参考記事リンク
- Thailand’s Bold Play at THECA 2025 to Become Asia’s Next Electronics Powerhouse
- BOI welcomes PCB giants from 11 countries to THECA 2025, highlighting Thailand’s booming electronics industry. – EIN Presswire
- รัฐบาลไทย-ข่าวทำเนียบรัฐบาล-บีโอไอ เปิดฉาก THECA 2025 ดันไทยสู่ระบบนิเวศอิเล็กทรอนิกส์ครบวงจรแห่งเอเชีย
- BoI prepares chip strategy – Bangkok Post
- Thailand BOI Approves 10.5 Billion Baht Investment by Foxsemicon Integrated Technology’s Subsidiary to Make High-Precision Machinery Parts and Equipment for Semiconductor Sector