Thairath調査で判明 ~タイAI利用者が過半数、仕事活用は25%~

Thairath調査で判明 ~タイAI利用者が過半数、仕事活用は25%~ AI
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タイのAI利用者が半数を超える状況が明らかになった。タイラット・ポールが2025年7月15日から21日に実施した調査で、3,177人の回答者のうち54%がAI利用経験を有していることが判明。さらに26%が業務でAIを活用しており、タイのデジタル化が一般市民レベルまで深く浸透している実態が浮かび上がった。

過去5年間の布石

これらの数字が示すタイのAI普及は決して突発的な現象ではない。政府が2020年から推進してきた「タイランド4.0」戦略と、それに続く2022年の「国家AI戦略(NAIS)」が下地を築いた成果である。特に東部経済回廊(EEC)での外国投資誘致策や、デジタルインフラの整備が功を奏している。

昨年後半から今年前半にかけて、AWS、Microsoft、Google、NVIDIAなど巨大IT企業がタイに総額約300億ドルのデータセンター投資を相次いで発表した。これらの投資は単なる設備投資にとどまらず、一般市民が気軽にAIサービスにアクセスできる環境を整備する基盤となった。政府のクラウドファースト政策も相まって、AI利用の急速な拡大を後押ししている。

また、タイの通信大手True IDCとAlibaba Cloudの戦略的提携や、AISの国産クラウドサービス「AIS Cloud」開始など、国内インフラ整備も着実に進展してきた。これらの基盤整備により、今回の調査で示されたような高い利用率が実現している。

日常に根ざしたAI活用

調査結果で最も注目すべきは、AI利用が特殊な技術分野に留まらず、一般的な業務や日常生活に深く根ざしている点だ。利用目的の内訳を見ると「業務支援」が26%、「その他の支援」が13%、「生活相談」が8%、「グラフィック・動画制作」が8%となっている。

プラットフォーム別では、ChatGPTが38%で最多。これに続くGeminiが16%、その他のプラットフォームが40%を占める。興味深いのは利用頻度の高さで、利用者の23%が毎日、21%が週2-3回の頻度でAIを活用している。これは単なる実験的利用ではなく、生活や業務の一部として定着していることを示している。

一方で課金については、91%が無料サービスを利用している。ただし、有料サービス利用者の59%が業務目的で利用しており、62%が毎日利用していることから、本格的なビジネス活用では投資対効果を認めて課金する傾向が見て取れる。有料利用では49%がChatGPT、21%がGeminiを選択している。

国際調査会社Jobsdb by SEEKとボストン・コンサルティング・グループの「Decoding Global Talent 2024: AI Edition」では、タイの生成AI利用率が62%に達し、職場での利用率も48%に上ることが報告されている。これは東南アジア地域平均を4%上回る水準で、タイがAI導入においてASEANをリードする立場にあることを裏付けている。

政府戦略の効果と今後の課題

政府のAI政策は明確な成果を上げている。当初は規制重視の方針だったが、2023年後半から開発促進に大きく舵を切った。AI法案の成立を4-5年先送りし、代わりに実践的なソフトガイドラインを次々と発表。この柔軟なアプローチが民間の積極的なAI導入を促進した。

タイAI国家戦略2027年計画で取り上げたように、政府は2027年までに1000万人のAIユーザー育成を目標に掲げている。今回の調査結果を踏まえると、この目標は現実的な射程圏内にある。

15億バーツの予算を投じるNAISフェーズ2では、特にThaiLLM(タイ語大規模言語モデル)プロジェクトに注力している。外国製AIへの依存を低減し、国内AIエコシステムの育成を図る戦略だ。この取り組みにより、今後は単なる利用者から開発・提供者への転換も期待される。

労働市場への影響

調査では労働者の意識についても重要な知見が得られている。タイの労働者の83%がAIによって仕事が大きく変革されると予測し、70%が新たなスキル習得に意欲的という結果が出ている。これは世界平均の57%を大幅に上回る数値だ。

一方で27%の労働者がAIによる雇用への影響を懸念している。BKK IT Newsの予測では、こうした不安に対処するためには、政府と民間の連携による大規模な再教育プログラムが不可欠となる。分析スキルと創造性スキルの習得が特に重視されており、従来の定型業務から高付加価値業務への転換が求められている。

企業経営者への示唆

今回の調査結果は、タイ進出企業にとって重要な意味を持つ。従業員の半数以上がAI利用経験を有し、4人に1人が業務で活用している環境では、AI導入の障壁は技術的なものよりも組織的・戦略的なものに移行している。

しかし、91%の利用者が無料サービスを利用している現状は、企業にとって深刻なリスクを内包している。無料AIの代償~企業データが学習に使われるリスクとタイ企業の対応策~で詳しく解説したように、無料AIサービスでは企業の機密データが学習に利用される可能性があり、PDPAコンプライアンス違反や知的財産侵害のリスクを伴う。

特に注意すべきは「シャドーAI」の蔓延だ。従業員が個人的に無料AIサービスを業務で使用することで、組織が把握できない範囲でデータ漏洩リスクが拡大している。タイ企業の経営層は、この見えないリスクを早急に可視化し、適切な対策を講じる必要がある。

BKK IT Newsとしては、積極的なAI活用と情報管理の適切なバランスを強く推奨する。AIによる生産性向上の恩恵を享受するためには、無料サービスではなくMicrosoft Copilot for EnterpriseやAWS Bedrockなどのエンタープライズ向けAIツールの導入が不可欠だ。これらのサービスは、ビジネスデータがモデル学習に使用されない契約上の保証を提供し、PDPAコンプライアンスを支援する機能を備えている。

政府の緩やかな規制方針により、企業は比較的自由にAIを活用できる環境にある。ただし、今後4-5年以内に本格的な法規制が導入される可能性があるため、コンプライアンス体制の準備も並行して進める必要がある。現在の規制緩和期間は、安全なAI活用体制を構築する絶好の機会と捉えるべきだ。

また、労働者の高いスキル向上意欲を活用し、社内研修プログラムへの投資を検討すべき時期に来ている。外部からの専門人材獲得競争よりも、既存人材の能力開発に注力する方が、長期的により高いリターンを期待できる状況だ。ただし、その研修には必ずデータセキュリティとプライバシー保護の観点を含めることが重要である。

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