タイがデジタルノマドビザ要件を厳格化~語学学校除外で本格執行時代に突入

タイがデジタルノマドビザ要件を厳格化~語学学校除外で本格執行時代に突入 タイ政治・経済
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タイ政府がデスティネーション・タイランド・ビザ(DTV)の規制を大幅強化した。語学学校の明確な除外と6ヶ月間のプログラム推奨により、ビザ制度の抜け穴を封鎖する意図が鮮明となっている。この変更は単なる行政的調整ではない。2025年に約10,000件のEDビザ取り消しが行われた組織的乱用への直接的対応であり、長期滞在ビザ制度の正当性確保に向けた戦略的転換点を示している。

EDビザ乱用への先制的対応

タイ当局は2025年8月、教育要件を満たさないEDビザ約10,000件の取り消しを発表した。調査により多くのビザ保持者が授業に全く出席せず、ビザを不法就労や単なる長期滞在の隠れ蓑として利用していた実態が明らかになっている。

この不正行為は偽の語学学校が手数料と引き換えに偽造書類を提供することで助長されていた。さらに入国管理局内での汚職疑惑が問題を深刻化させ、職員が不正な申請を承認するために賄賂を受け取っていたとされる。特に「グレービジネス」に関与する中国系の個人と関連付けられる事例が多数報告されている。

高等教育・科学・研究・イノベーション省と入国管理局は協力し、外国人学生の在籍と出席状況を追跡する中央データベースを構築している。教育機関には毎月の報告が義務付けられ、厳格な監視体制が確立された。

DTV規制強化の具体的内容

DTVの「ソフトパワー」カテゴリーから語学学校への在籍が完全に除外された。語学学習を希望する申請者は今後、より厳格な監視下にある非移民EDビザの経路をたどるよう指示されている。

依然として適格なムエタイや料理教室などの活動については、承認の可能性を最大限に高めるため、プログラム期間が少なくとも6ヶ月であることが公式に強く推奨されるようになった。これより短い期間のプログラムは却下される可能性が高まっている。

これらの変更は洗練された二重戦略を構成している。語学学校の除外は、DTVが次のEDビザの抜け穴となることを防ぐ先制的措置である。一方、6ヶ月間のプログラム推奨は、単にビザを取得したいだけの短期滞在者と真剣で投資額の大きい参加者を区別する正当性フィルターとして機能する。

ソフトパワー戦略との統合

この政策変更はタイ政府の国家ソフトパワー戦略の直接的な手段でもある。政府は食、スポーツ、ウェルネス、観光を含む13の主要セクターを対象とした国家戦略を確立している。

DTVの「ソフトパワー」カテゴリーを長期滞在ビザ取得の主要な経路とすることで、外国人がこれらのターゲット産業に直接資金を投じる強力なインセンティブが創出されている。これは事実上、入国管理政策を経済開発のツールとして活用する戦略的判断である。

ビザ・ポートフォリオでの位置付け

DTVは退職ビザの資格がない50歳未満、LTRの厳しい収入・投資要件を満たせない、エリートビザの高額費用を負担できない個人にとって重要なギャップを埋めている。銀行預金500,000バーツという比較的低い財務要件により、最も広い層を対象とする入り口として機能している。

5年間の有効期間で1回の入国につき最大180日の滞在が可能。さらに1回限り180日の延長により、実質約360日の連続滞在を実現できる柔軟性を提供している。

セクター別の経済変動

DTVからの語学学校除外とEDビザの厳格化により、民間語学学校市場には大幅な縮小圧力がかかっている。真の学生ではなくビザ取得希望者を主要顧客としていた学校は事業継続が困難となる。

対照的に、ムエタイジム、認定料理学校、ウェルネスセンターは大きな恩恵を受ける立場にある。これらは現在、DTV取得のための主要な非就労経路となり、長期滞在の外国人顧客という新たな流れを自らのビジネスに直接導き入れることが可能だ。

今後の展望と企業への影響

多くのデジタルノマドにとって、DTVはタイに居住するための歓迎すべき明確な法的枠組みを提供している。ビザランの不確実性や観光ビザでの不法就労のリスクに終止符を打つ意味で評価される。

しかし現場報告では重大な行政上の摩擦も浮き彫りになっている。大使館ごとに異なる規則の適用、理由不明のビザ取り消し、現地銀行口座開設の困難などが報告されている。一部の銀行はDTVを口座開設のための有効な長期ビザとして認めていない状況もある。

BKK IT Newsでは、この規制強化が長期的にはより成熟した管理されたアプローチへの移行を示すものと見ている。企業としては、DTVを活用する社員や顧客に対して適切な情報提供と支援体制の構築を検討することが重要となる。

タイの入国管理政策は抜け穴と取り締まりのサイクルを繰り返してきた歴史がある。今回のDTV規制強化は、政府が新たな形態の乱用を監視し、必要に応じてさらなる規制強化を行う可能性を示唆している。企業の人材戦略においては、この動向を注視し、柔軟な対応体制を維持することが求められる。

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