タイ バーツ高が観光業を直撃~中国人観光客34%減で業界に深刻な打撃

バーツ高でタイ観光業苦戦~34%減の中国人観光客、ウェルネス戦略に活路 タイ政治・経済
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タイの観光業界が2025年に深刻な危機に直面している。バーツ高と中国人観光客の大幅減少により、外国人観光客到着数は前年同期比で6%減少した。業界の収益構造が根本から揺らいでいる状況だ。

過去の経緯と構造変化

タイ観光業界は長年、中国市場を最大の収益源として位置づけてきた。2019年のピーク時には年間1,100万人の中国人観光客が訪れ、観光収入の約30%を占めていた。

パンデミック後の回復期において、政府は2024年の実績3,550万人を維持する目標を設定していた。しかし現実は厳しく、楽観的な予測と市場の実態との間に大きな乖離が生じている。

従来の「量」重視の観光戦略が限界を迎え、業界全体の構造転換が避けられない状況となっている。マスマーケット依存のビジネスモデルでは、もはや持続可能な成長は望めない。

現在の深刻な状況

2025年上半期のデータは業界の危機的状況を明確に示している。外国人観光客到着数は1,669万人で、前年同期の1,770万人から5.6%減少した。

最も深刻なのは中国市場の崩壊だ。中国人観光客数は前年同期比34.1%減の227万人まで落ち込んだ。1日あたりの平均到着者数も1月の21,380人から上半期平均で12,000人へと半減している。

観光収入も同様に厳しい状況にある。8月10日時点で9,380億バーツに留まり、年間目標1.77兆バーツの達成は絶望的だ。政府は観光総収入目標を当初の3兆バーツから2.87兆バーツへ下方修正した。

バーツ高も深刻な影響を与えている。2025年半ばにバーツは米ドルに対して5-6%上昇し、タイの価格競争力を直接的に侵食した。特に円安効果で魅力を増した日本に、多くの中国人観光客が流れている。

ホテル業界のセンチメントも悪化している。観光信頼感指数は第2四半期に70まで急落し、パンデミック前の基準値100を大幅に下回った。パタヤでは平日の客室稼働率が30-40%まで落ち込む一方、週末は国内旅行者により80-90%まで回復する不安定な状況が続いている。

安全保障の問題も観光業界に暗い影を落としている。2025年1月の中国人俳優誘拐事件、4月のバンコク銃乱射事件、8月のマレーシア人観光客襲撃事件などが相次ぎ、タイの安全イメージが大きく損なわれた。

今後の展望

政府は総額39億6,000万バーツの経済刺激策を発表し、中国からのチャーター便に1便あたり35万バーツの補助金を支給する「タイ・サマー・ブラスト」プログラムを開始した。また、3億バーツを投じる「トラステッド・タイランド」キャンペーンで安全なイメージの回復を図っている。

しかし、根本的な解決には戦略転換が不可欠だ。タイ政府観光庁は2026年に向けて「量より価値」を重視する新戦略を打ち出した。高付加価値な旅行者の誘致、観光の均衡、創造的な観光商品の推進、持続可能性の定着という4つの柱を掲げている。

ウェルネス・医療ツーリズムは主要な成長分野として期待されている。タイは既に「世界のトップ・スパ&ウェルネス・デスティネーション」として国際的な賞を受賞しており、この分野での競争優位性は高い。

市場の多様化も急務だ。中国市場への過度な依存を是正し、インド、日本、台湾、ベトナム、インドネシアなどの新興市場開拓を積極的に推進する方針だ。

BKK IT Newsとしては、2026年の回復は可能だが、そのペースは緩やかになると予想する。新戦略の成功と安全・治安状況の改善が絶対条件となるだろう。

企業への提言

観光関連企業は今が事業モデル見直しの重要な時期だ。高付加価値サービスへの転換、ウェルネス・医療ツーリズムへの参入、市場の多様化などが選択肢として考えられる。

製造業企業にとっても観光業界の変化は重要だ。観光客減少による内需の縮小、労働市場への影響、サプライチェーンへの波及効果などを慎重に検討する必要がある。

安全保障リスクの管理も欠かせない。企業は従業員の安全確保、顧客への適切な情報提供、危機管理体制の強化などに取り組むべきだろう。

タイ経済の構造変化を踏まえ、企業は柔軟な対応策を準備することが重要だ。短期的な混乱を乗り切りながら、長期的な成長機会を見据えた戦略的な判断が求められている。

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