タイ証券取引委員会（SEC）は7月21日、政府発行デジタルトークン「Gトークン」の規制枠組みを正式に施行した。政府が発行するブロックチェーン技術を活用したデジタル形式の債券として、国民の投資機会拡大と政府の資金調達効率化を目指す。公的債務管理事務局（PDMO）は初回発行額を50億バーツとし、8月下旬から9月上旬の発行を計画している。
長年の準備期間を経た革新的な資金調達
Gトークンの実現は一朝一夕に成し遂げられたものではない。タイは2018年にデジタル資産事業勅令を制定して以来、段階的に規制を整備してきた。昨年5月の閣議決定によりプロジェクト開始が正式承認され、6月には電子証券法案も閣議で承認されるなど、法的インフラの整備と商品開発が一体となって進められた。
この7年間の準備期間において、SECは市場の健全化を重視し、デジタル資産の決済手段利用を禁止するなど厳格な規制を敷いてきた。タイ銀行（BOT）も中央銀行デジタル通貨（CBDC）の研究を通じて技術的知見を蓄積し、今回のGトークン導入に必要な基盤を構築してきた経緯がある。
政府保証による安全な投資商品として設計
Gトークンは暗号資産と明確に区別される。価値は政府の信用力に裏打ちされ、価格変動の激しい投機商品ではなく、安定した貯蓄・投資手段として位置付けられる。商品やサービスの決済手段としての利用は技術的に禁止され、スマートコントラクトにより認可取引所からの外部送金も制限される仕組みだ。
発行プロセスでは、民間企業のICOに必要な発行許可や目論見書提出が免除される。発行体が国という最高の信用力を持つためで、既存の国債と同様の規制アプローチが採用されている。一方で流通市場の監督は強化され、価格操作防止のための参考価格開示義務や不正取引監視が徹底される。
個人投資家層の拡大が最大の狙い
従来の政府債券は高額な購入単位や銀行窓口での手続きが必要で、特に若年層には参入障壁が高かった。Gトークンは最低投資額を100バーツから可能とし、クルンタイ銀行の「Pao Tang」アプリなど既存のスマートフォンアプリを通じて24時間購入できる利便性を提供する。
この取り組みにより、これまで投資機会に恵まれなかった層の市場参入が期待される。低金利環境が続く中、銀行預金より魅力的なリターンを求める個人投資家に新たな選択肢を提供し、「貯蓄から投資へ」の行動変容を促す狙いがある。政府にとっても、より多様で安定した資金調達基盤を確保できるメリットがある。
関係機関の思惑と懸念のバランス
Gトークンを巡っては、政府内各機関の立場が微妙に異なる。財務省とPDMOは資金調達の効率化と若年層へのアピールを重視し、積極的な推進姿勢を示している。SECはイノベーション促進と投資家保護のバランスを取りながら、投機的利用の防止に注力している。
最も慎重なのがBOTだ。中央銀行として金融システム全体の安定性に責任を持つBOTは、Gトークンが事実上の通貨として流通し、金融政策の有効性を損なうことを強く警戒している。大規模展開前の限定的なパイロットプロジェクトでのリスク検証を提言するなど、段階的アプローチを求めている。
今後の展望と課題
BKK IT Newsとしては、Gトークンの成功には国民への継続的な教育とコミュニケーションが不可欠と考える。政府保証の安全な商品であることを明確に伝え、投機的な暗号資産との違いを理解してもらう必要がある。同時に、流通市場での価格変動リスクも正しく認識してもらうことが重要だ。
技術インフラの安定性とサイバーセキュリティ対策も成功の前提条件となる。政府保証は債務履行を保証するが、プラットフォーム自体のセキュリティリスクは別問題だ。堅牢なシステム構築と高度なセキュリティ対策が求められる。
Gトークンは将来的なリテールCBDC導入に向けた社会実験としての側面も持つ。国民がデジタル資産を安全に体験し、デジタルウォレットの利用に慣れることで、本格的なデジタル通貨時代への移行が円滑に進むことが期待される。この観点から、Gトークンの普及度合いはタイのCBDC計画の将来を占う重要な指標となるだろう。
参考記事：
– Thailand Embraces Digital Debt: Government Token Framework Launched – JIJI PRESS
– SEC clarifies rules for upcoming G-Token – Bangkok Post
– สบน. คาด G-Token ออกเร็วสุดปลายสิงหาคมนี้ – THE STANDARD
– Thailand’s G-Token initiative: A bold financial innovation? – Thai PBS World
– ก.ล.ต. ออกเกณฑ์ G-Token ของรัฐบาล – pptvhd36.com
