タイの私立学校業界に深刻な変化が起きている。2025学年度において、私立学校セクター全体で生徒数が5.6万人減少し、20校以上が閉鎖に追い込まれた。一方で、インターナショナルスクールは10.2%の成長を続けており、教育市場の「二極化」が鮮明になっている。
私立学校業界の現状
タイの私立学校業界は予想以上に深刻な状況に直面している。今年度は56,000人の生徒数減少を記録し、20校以上が閉鎖された。最も大きな打撃を受けたのは幼稚園レベルで、教育パイプラインの入り口段階で保護者が私立学校という選択肢を断念する傾向が顕著になっている。
この傾向は急激に現れたものではない。カシコンリサーチセンターによると、タイカリキュラムに基づく私立学校は年平均0.7%の割合で縮小を続けている。2012年以降、タイ国内の学校総数も6.6%減少しており、少子化の影響が教育システム全体に及んでいることがわかる。
特に象徴的なのは、バンコクのトンブリー地区の著名な私立学校が閉鎖し、同じ場所でインターナショナルスクールとして再開する計画を発表した事例だ。これは中間層向けのビジネスモデルが立ち行かなくなり、富裕層向けモデルへの転換を図る動きを表している。
対照的に成長するインターナショナルスクール市場
タイカリキュラム校が苦境に喘ぐ一方で、インターナショナルスクール市場は力強い成長を見せている。2024年には生徒数が10.2%増加し、学校数も2023年の236校から2024年には249校へと拡大した。
この市場の規模は2025年までに950億バーツ(約28億米ドル)に達すると予測されている。主要なインターナショナルスクール20校を対象とした調査では、2023年だけで収益が28.04%増加したことが報告された。
成長の背景には、経済的に余裕のある保護者による明確な「質への逃避」がある。年間授業料が90万バーツから110万バーツを超えるインターナショナルスクールが選ばれる理由は、グローバルスタンダードの教育内容、少人数クラス、そして批判的思考を重視する教育環境への期待にある。
二極化を招く三つの根本要因
この教育市場の分断には、三つの構造的要因が影響している。
人口動態の変化が最も根本的な問題だ。タイは世界で最も急速に高齢化が進行している国の一つで、2025年の合計特殊出生率は0.9にまで落ち込んでいる。基礎教育委員会は、管轄下の生徒数が1年間で10万人近く減少したと報告している。
家計の経済的脆弱性も深刻な影響を与えている。タイの家計債務はGDP比91.3%という異常な高水準に達し、その70%は食料品、光熱費、個人ローンといった日々の消費に費やされている。私立学校の授業料のような裁量的支出に回す余裕がほとんどない家庭が増加している。
社会格差の拡大がこの二極化を加速させている。タイの所得ジニ係数は43.3%に達し、最も裕福な10%の層が国富の75%以上を保有している。この深刻な格差により、人口の大半は私立学校市場からの退出を余儀なくされる一方、トップ層はインターナショナルスクールという「高級品」を消費し続けている。
国家教育システムへの不信
インターナショナルスクールへの流出は、単にその教育の質という「引力」だけではなく、タイの国家教育システムに対する不信感という「斥力」によっても駆動されている。
PISA調査では、タイの生徒の約60%が読解力において最低習熟度レベルに達していない。2008年に制定された現行の国家カリキュラムは時代遅れで、実社会で必要とされる知識や批判的思考力よりも、暗記学習に偏重していると批判されている。
公立学校システム自体も深刻な課題を抱えている。地方の小規模校は慢性的な資源不足に悩まされ、STEM教育に特化した重点校は一般の公立学校の生徒一人あたり最大27倍もの予算を受け取る不平等な状況がある。
企業への影響と今後の展望
この教育の二極化は、将来のタイの労働市場に深刻な影響を与える可能性がある。インターナショナルスクールで教育を受けた少数精鋭のエリート層と、21世紀型スキルを十分に育成できていない国内教育システムで学んだ大多数の労働者という、二つの全く異なる人材プールが形成される。
企業にとって、この労働力の二極化は深刻なスキルミスマッチを引き起こす要因となる。大多数の労働者がイノベーションを担うために必要なスキルを欠いていれば、国が「中所得国の罠」を脱し、高付加価値経済へと移行することは極めて困難になる。
BKK IT Newsは、この問題への対応が急務と考えている。政府レベルでは資金配分モデルの見直し、カリキュラムの抜本的改革、教員のエンパワーメントが必要だろう。私立学校経営者には戦略的再ポジショニング、中小企業には新しいビジネスモデルの探求が求められている。
手頃な価格の私立学校という選択肢が消滅することは、社会的上昇の「はしご」の重要な一段が取り外されることを意味する。これにより低・中間所得層の子どもたちは質の低い教育システムに閉じ込められ、世代を超えて貧困が再生産される可能性が高まる。
タイが直面する教育の危機は、単なる教育セクター内の問題ではない。高齢化社会と高スキル経済への移行という21世紀の主要課題に対処するタイの能力を、現在進行形で蝕んでいる深刻な国家的問題として認識すべきだろう。
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