タイの電子取引開発庁(ETDA)が、FacebookやYouTubeなどのOTTプラットフォームを規制対象とするコンピュータ犯罪法(CCA)の改正案を起草している。2025年10月までにデジタル経済社会省(DE)に提出予定のこの改正案は、単なるコンテンツ規制の強化を超えて、タイ政府のデジタル領域における統制戦略の重要な一環となっている。
OTT規制の背景と現状
現在、タイでは動画配信サービスやソーシャルメディアプラットフォームに対する規制権限が曖昧な状況にある。国家放送通信委員会(NBTC)は従来の放送事業を管轄し、DE省はCCAに基づいてデジタルコンテンツ全般を監督している。しかし、インターネット経由でコンテンツを配信するOTTサービスは、この両者の管轄の間に位置する「グレーゾーン」となってきた。
この状況を解決するため、DE省とNBTCは継続的に協議を行っている。NBTCの委員は、NBTC単独ではOTTセクターを効果的に管理できず、CCAの改正を通じてDE省の支援が必要であると公表している。さらに、2025年6月に最高行政裁判所がOTT事業者の規制義務に関する訴訟を受理したことで、この問題は法的な解決が迫られている状況だ。
コンテンツ分類による規制フレームワーク
改正案の中核となるのは、OTTプラットフォーム上のコンテンツを3つの主要カテゴリーに分類する規制フレームワークの導入だ。第1カテゴリーは年齢制限が必要なコンテンツで、児童や青少年に不適切な内容を対象とする。第2カテゴリーは政治または国家安全保障に関連するコンテンツで、社会的対立を煽る可能性や国家の安全を脅かすとみなされる情報が該当する。第3カテゴリーは違法行為に関連するコンテンツで、ギャンブル、著作権侵害、麻薬関連など、タイの法律で禁止されている活動を助長する内容を含む。
プラットフォーム事業者には、事前措置として不適切なコンテンツの拡散を未然に防ぐ予防的・監視的措置が求められる。さらに事後措置として、問題のあるコンテンツが公開された場合の迅速な対応と問題解決のための措置が義務付けられる見込みだ。この構造は、従来の「通知と削除」モデルから一歩踏み出し、プラットフォームにより積極的な監視やフィルタリングの義務を課す方向性を示している。
複層的な規制環境の形成
今回のCCA改正案は孤立した動きではない。2022年以降、タイ政府は包括的なデジタル規制の構築を進めており、複数の法律が相互に連携して複雑なコンプライアンス環境を形成している。技術犯罪に関する非常事態令は詐欺事件における金銭的責任と捜査協力を対象とし、デジタルプラットフォームサービス勅令は事業の透明性や登録義務を定めている。
さらに現在審議中のデジタルプラットフォーム経済法案は、市場における支配的地位や反競争的行為を対象としており、今回のCCA改正案はコンテンツのモデレーションと検閲を担当する。これらの法律が組み合わされることで、政府はプラットフォームの運営、市場地位、責任、コンテンツという4つの側面を包括的に管理下に置くことが可能になる。
オンライン詐欺問題への対応
規制強化の背景には、深刻化するオンライン詐欺問題がある。2024年にタイでは40万件以上のサイバー犯罪が報告され、被害総額は600億バーツを超えた。2025年上半期だけでも16万6,000件の事件が報告されており、詐欺の手口は不正な投資スキームから著名人のなりすまし、偽ブランド品の販売まで多岐にわたる。
この問題は国境を越えた犯罪組織によって引き起こされており、国家的な危機として認識されている。政府は詐欺対策という正当な理由を得て強力な新法を制定する政治的資本を獲得した一方で、詐欺対策と並行して政治的・国家安全保障関連コンテンツの管理強化も進めている。
国際モデルからの影響
タイの規制当局は、シンガポール、EU、オーストラリア、カナダのモデルを研究している。シンガポールからは国家安全保障や公の秩序に基づくコンテンツ規制の概念を、EUからは大規模プラットフォームを対象とする包括的規制の枠組みを借用している。オーストラリアからは迅速な削除要求の正当性を、カナダからは外国プラットフォームに対する経済的負担の根拠を採用している。
ただし、タイは各国のモデルから国家中心的で介入主義的な要素を抽出する一方で、基本的権利の保護や独立した規制機関といったセーフガードは取り入れない独特のアプローチを採用している。これにより、国際的なベストプラクティスに準拠した外観を保ちながら、国家による統制を最大化した規制フレームワークが構築される見込みだ。
企業への影響予測
プラットフォーム事業者は複雑な法規制の網を乗り越える必要がある。運営面では、タイの法的基準に基づいて行動できる高度にローカライズされたコンテンツモデレーションポリシーと執行メカニズムの開発が必要となる。法務面では、どの問題がどの法律に該当するかを理解し、複雑な規制環境での対応が求められる。
BKK IT Newsとしては、今回の改正案は企業のコンプライアンス負担を大幅に増加させると予想している。コンプライアンス違反に対する罰金、モデレーションや法務チームのための運営費増加、詐欺による損害賠償責任のリスクなど、多面的なコストが発生する可能性が高い。
企業の対応策として、個別の法律への個別対応ではなく、タイのデジタル規制戦略全体を理解した統合的コンプライアンス体制の構築が考えられる。規制当局との積極的エンゲージメントを通じて最終的な規制内容の形成に影響を与えること、曖昧な条項に対するリスク軽減策として明確で防御可能な内部ガイドラインの策定も重要となる。今後の規制強化に備えたシナリオプランニングの開始も、長期的な事業継続のために必要な取り組みといえる。
参考記事リンク
- เปิดร่างฯแก้ไขพรบ.คอมพ์ฯฉบับใหม่ จับตา’ดีอี’ดึงบริการ OTT ให้อยู่ภายใต้ …
- Improved ‘over-the-top’ content regulation debated – Bangkok Post
- ETDA เขียนเกมใหม่ คุม OTT ด้วย พ.ร.บ.คอม – ผู้จัดการออนไลน์
- Thailand’s Media Revolution: Navigating Broadcasting, OTT, and Film Laws in 2025
- Thailand ramps up crackdown on online fraud, targeting digital platforms and consumer protection