アヌティン・チャーンウィーラクーン新首相の政権で、タイの景気刺激策「コンラクルン(一人半分)」計画の再開が決定した。財務省が準備完了を公式発表し、早ければ2025年10月から実施される見通しだ。過去に高い評価を得た官民共同支払い制度が新たな仕組みを加えて復活し、タイ経済の成長鈍化に対する迅速な対策として注目されている。
即座に実施可能な体制が整備完了
タイ財務省のラワロン・センサニット事務次官は9月8日、アヌティン政権からの正式指示があり次第、「コンラクルン」を即時再開できる準備が完了したと発表した。システム、予算、運用体制のすべてが整っており、2026会計年度の開始となる2025年10月1日からの開始も可能としている。
計画実施には、中央経済刺激基金から250億バーツが既に確保済みだ。新たな議会承認を必要とせずに即座に投入できるため、迅速な経済対策が実現する。予算が不足する場合は、中央予算からの追加資金再配分も可能な体制を整えている。
デジタルインフラの活用が迅速展開の鍵となる。政府系アプリ「パオタン」と店舗向け「トゥン・グン」を全面活用することで、新たな技術開発が不要となった。「パオタン」は既に3,300万人以上のユーザーを抱えており、タイ最大のデジタル決済プラットフォームとして機能している。
新制度「コンラクルン・プラス」を導入
今回の再開では画期的な新制度が導入される。「コンラクルン・プラス」と呼ばれるこの仕組みは、納税者に対して政府負担60%、自己負担40%という優遇措置を適用する。一般国民には従来通りの50:50の比率が維持される。
この階層的優遇制度は、エカニティ・ニティタンプラパート財務大臣が主導し、アヌティン首相が支持する政策だ。納税者であることに対する具体的な報酬を提供することで、国民が自発的に正規の税制システムに参加するインセンティブを創出する狙いがある。
制度は憲法や財政規律の原則に準拠する限りにおいて導入される。単なる景気刺激策の調整を超えて、長期的な税収改善と経済の公式化を促進する戦略的な政策転換を示している。
中小企業への焦点を維持
参加対象は引き続き零細・中小企業に明確に絞られている。法人登記されていない飲食店、飲料店、一般雑貨店などが対象で、大手フランチャイズのコンビニエンスストアは除外される。この設計により、刺激策の恩恵が地域社会の草の根経済に直接届く仕組みが維持されている。
個人参加者は18歳以上のタイ国籍保有者で国民IDカード所持が条件だ。政府福祉カードの保有者は別の支援プログラムの対象となるため、本計画には参加できない。既存の「トゥン・グン」アプリを保持する店舗は即時参加が可能で、新規店舗はオンラインまたはクルンタイ銀行支店で登録できる。
過去の実績が示す高い効果
「コンラクルン」計画は2020年から2022年にかけて5つのフェーズで実施され、顕著な成果を上げた。政府支出の合計850億バーツに対し、国民による支出は878億バーツに達した。経済システム内で循環した資金の総額は4,000億バーツを超えるとされている。
GDPへの影響は0.2-0.4%の押し上げ効果があったと試算されている。タイ開発研究所は1.85倍の経済乗数効果を算出し、1バーツの支出が最大1.85バーツの経済活動を生み出したことを示している。政府機関からは有効性、効率性、インパクトの全てで「大変良い(A評価)」という公式評価を受けている。
最も重要な成果の一つは、デジタル決済の大衆化だった。数千万人の国民と100万以上の小規模事業者が電子ウォレットやQRコード決済を利用するようになり、国の小売決済システムが根本的に近代化された。
経済情勢を反映した政策判断
計画再開の背景には、タイ経済の成長鈍化への懸念がある。世界銀行は2025年のGDP成長率を1.8-2.2%、IMFは2.0%と予測しており、前年からの減速を示している。観光業は回復が期待される一方、世界的な貿易政策の転換により輸出に逆風が生じている。
アヌティン政権は4ヶ月以内に国会を解散するという政治的合意があるため、迅速に実施でき目に見える成果をもたらす政策を優先している。「コンラクルン」はその実績と即時展開可能なプラットフォームにより、この要件に完全に合致する政策として選択された。
今後の展望
タイ商工会議所大学のタナワット・ポンウィチャイ学長は、500億バーツの予算配分が1,000億から1,500億バーツの経済活動を生み出し、第4四半期のGDP成長率を2-3%押し上げる可能性があると試算している。特に小売、ホテル、レストラン、飲食料品関連企業が大きな恩恵を受けると予想される。
一方で財政への影響には注意が必要だ。2026年度予算は既にGDPの4.3%に相当する財政赤字を見込んでおり、公的債務負担の増大や信用格付けの引き下げリスクを回避するため、慎重な財政管理が求められている。
BKK IT Newsとして、本計画の再開はタイ企業にとって短期的な売上向上の機会をもたらすと予想される。特に地域密着型の中小企業にとっては、デジタル決済の普及と消費刺激効果により事業拡大の好機となるだろう。ただし、持続可能な成長のためには、この機会を活用した事業基盤の強化が重要となる。
参考記事リンク
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