昨日のタイ投資委員会(BOI)と日本側パートナーによる会談は、単なる定期協議を超えた戦略的意味を持つ。地政学的変動とタイの産業転換が交差する現在、両国の連携強化は必然的な流れとなっている。日本の投資は従来の製造業基盤を維持しつつ、ハイブリッド車、グリーン産業、デジタル技術へと重心を移している。この動きは、タイが目指す高付加価値経済への移行を日本が全面支援する構図を鮮明にした。
過去からの積み重ね
日タイ経済関係は600年の交流史を持つ。近代的な投資関係は1980年代後半のプラザ合意後に本格化した。日本の製造業がタイに大規模移転し、自動車・電子産業を中心とした産業クラスターを形成した。
2007年の日タイ経済連携協定(JTEPA)は制度的枠組みを整備した。現在まで過去10年間で日本からBOIへの投資申請は2,620件、総額7,000億バーツを超えている。この長年の蓄積が、今回の連携強化の土台となっている。
昨日の発表内容
2025年8月14日、BOIのナリット事務局長がJETROバンコク事務所の安倍所長、在タイ日本商工会議所の佐藤会頭と会談した。これは7月23日のJTEPA事業環境整備小委員会の継続協議として位置付けられている。
日本企業の景況感指数は明確な回復を示している。2024年後半の-11から2025年前半には-7へ、さらに2025年後半には-2への改善が見込まれている。米国の関税政策への懸念は残るものの、タイの総合的な投資環境への信頼は維持されている。
今後の重点分野として5つが特定された。自動車(特にハイブリッド車)、電子機器、機械、食品、金属製品である。さらに注目すべきは新興分野への投資拡大だ。繊維、化学、デジタル、サービス業に加え、スタートアップとグリーン産業が明確に言及された。
BOI側は具体的な支援策を提示した。ワンストップサービスの拡充、電子税務システムの開発、電子労働許可証サービスの拡大などが評価された。特に8月に導入されたカンボジアからの機械移転円滑化措置は、地政学的リスクへの実践的対応として注目される。
タイの国家戦略との連動
この連携強化の背景には、タイの野心的な国家戦略がある。「タイランド4.0」は価値創造型経済への転換を目指す。東部経済回廊(EEC)は3県を特区指定し、次世代産業の集積地創出を狙う。バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済は持続可能性と成長の両立を図る。
これらの戦略は日本の技術的優位性と高度に一致している。次世代自動車、スマートエレクトロニクス、ロボティクス、バイオテクノロジーは、いずれも日本企業の強みが発揮できる分野だ。
一方で地政学的要因も重要な推進力となっている。米中対立に起因するサプライチェーン再編で、タイは主要な受け皿として注目されている。2025年4月の米国関税19%適用に対し、BOIはタイの総合的優位性への自信を示している。
今後の展望
BKK IT Newsの見解として、この連携強化は短期的な対症療法ではなく、長期的な構造変化の一環と捉えるべきだ。日本の投資は量的拡大から質的転換へと明確にシフトしている。従来の低コスト生産から高付加価値創出への移行が加速するだろう。
EV化の進展により自動車産業の雇用調整が予想される。タイ政府は5年間で15万人のEV技術者育成を目標に掲げている。この移行期における日本企業の役割は極めて重要だ。
BCG経済の本格展開も期待される。日本の環境技術とタイのバイオマス資源を組み合わせた新産業創出が進むと予想される。2030年までにGDP1.0-1.2%押し上げ効果が見込まれている。
企業が検討すべき選択肢
今回の連携強化を受け、企業は複数の選択肢を検討できる。第一に、既存事業の高度化投資だ。EVやデジタル技術の導入による競争力強化が考えられる。第二に、新分野への参入機会だ。グリーン産業やスタートアップ支援分野での事業展開が可能だ。
人材投資も重要な選択肢となる。現地大学や職業訓練校との連携強化により、サプライチェーン全体の人材育成に貢献する道がある。これは事業の持続可能性向上と社会的受容性確保の両面で効果が期待できる。
政策動向の積極的なモニタリングも選択肢の一つだ。JTEPAの枠組みやJCCの活動を最大限活用し、政策変更の早期察知と対話機会の確保が可能だ。
地理的なリスク分散も検討に値する。EEC集中投資と並行し、BCG経済の文脈で地方のバイオマス関連事業への参入が考えられる。これにより事業リスクの地理的分散と政府の地域格差是正方針への貢献が同時に実現できる。
日タイの戦略的パートナーシップは、従来の垂直的関係から対等な共創関係へと進化している。両国が共通の構造的課題に直面する中、この連携強化は単なる投資促進を超えた意義を持つ。企業にとって、これは新たな成長機会を獲得するための重要な転換点となるだろう。
参考記事リンク
- BOI partners with Japan to drive investment in Thailand’s new trade
- รัฐบาลไทย-ข่าวทำเนียบรัฐบาล-บีโอไอจับมือญี่ปุ่น เดินหน้าลงทุนไทย ใน
- BOI Confident Japanese and Korean Firms Will Maintain Thai Bases Despite US Tariffs
- タイのEV政策の現状―現地調達向上と新たなHEV支援策の導入 | ジェトロ
- Japan supports Thailand 4.0 – The Worldfolio