フードテックでタイ料理を世界へ ~4社のスタートアップが牽引するイノベーション戦略~

フードテックでタイ料理を世界へ ~4社のスタートアップが牽引するイノベーション戦略~ タイ政治・経済
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タイのフードテック産業が急速な成長を見せている。国家イノベーション庁(NIA)が支援する4社のスタートアップが、タイ料理の世界展開を技術力で推進している。これらの企業は伝統的な食材に最新技術を組み合わせ、新たな価値を創造している。

フードテック4社の事業展開

Chiwadi Products:健康志向の食品開発

Chiwadiはココナッツ花蜜を主原料とした健康食品を開発している。同社の主力製品は低血糖指数のグミと減塩調味料だ。これらの製品はタイ国内で増加する生活習慣病対策に貢献している。

創業者のサラピー・ヨートヨン氏は非感染性疾患への取り組みを事業の柱に据えた。ココナッツビネガーを使った炭酸飲料も働く世代に人気を得ている。

Mallkam:タマリンドの価値向上

Mallkamは家族経営から発展したタマリンド専門企業だ。独自の低温濃縮技術により風味と栄養価を保持したペーストを製造している。

同社は契約栽培、加工技術、マーケティングの3つを「スマート戦略」と位置づけている。ミシュラン星付きレストランとの協業でブランドイメージを向上させている。

Ace Star International:フリーズドライ技術の活用

Ace Starは生鮮果物輸出から加工製品開発に事業転換した企業だ。チャンタブリー県に自社農園を保有している。フリーズドライ技術でタイの代表的果物をスナック化している。

特筆すべきはマンゴーもち米やドリアンもち米のフリーズドライ化だ。伝統デザートを長期保存可能な製品として輸出することで高い付加価値を実現している。

Naive Innova:ナノテクノロジーの応用

Naive Innovaはチュラロンコン大学からスピンオフしたディープテック企業だ。タイハーブの有効成分をナノカプセル化する技術に特化している。

「QminiX Herbal Popping Beads」は5種類のハーブ抽出物をポッピングボバにカプセル化した製品だ。若者が敬遠しがちなハーブを摂取しやすい形態に変える技術革新を行っている。

政府支援体制の強化

タイ政府はフードテック産業を国家戦略の重要分野に位置づけている。国家イノベーション庁は「Thai Kitchen: Crafted Food Tech Accelerator Programme」を運営している。

このプログラムでは有望企業の集中育成を行っている。資金調達からグローバル展開まで一気通貫の支援体制を構築している。

官民学連携のSPACE-Fも重要な役割を果たしている。政府、Thai Union Group、マヒドン大学が連携してスタートアップを支援している。2019年の設立以来、80社以上を育成し20億バーツ以上の投資を誘発した。

タイランド4.0戦略との整合

フードテック推進はタイランド4.0戦略の一環だ。政府は農業を労働集約型からスマート農業に転換することを目指している。20年間で農家の平均年収を7倍に引き上げる目標を掲げている。

タイは9,000社以上の食品加工会社を擁する「世界の厨房」だ。この基盤を活用して「未来の食」創造拠点への転換を図っている。機能性食品、医療用食品、オーガニック食品、新規食品の4分野を重点開発領域としている。

輸出戦略と国際展開

4社の戦略は国内市場に留まらない。海外市場開拓を重要な成長エンジンとして位置づけている。

Chiwadiは国際基準の品質でグローバル市場参入を目指している。Ace Starは収穫期の価格下落問題を輸出で解決する戦略だ。サウジアラビアなど中東市場への展開も視野に入れている。

世界のタイ料理市場は2030年までに272億米ドル規模に成長する予測がある。高付加価値製品でこの成長市場を捉える機会が広がっている。

今後の展望と企業への影響

フードテック産業の成長はタイ経済の構造変化をもたらす。農産物のコモディティ化からの脱却が進む。付加価値の高い製品開発により国際競争力が向上する。

企業にとっては新たなビジネス機会が生まれている。食品関連企業は技術革新による差別化が可能になる。サプライチェーンの近代化も進展する。

一方でスケールアップの課題も存在する。多くのスタートアップはまだシード期にある。量産体制の構築や大規模販路開拓が今後の重要課題だ。

BKK IT Newsとしては、タイのフードテック産業が着実に成長軌道に乗っていると見ている。政府支援、民間投資、技術革新が好循環を形成している。日系企業にとってもオープンイノベーションのパートナーとしての機会が拡大している。

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