タイクラウドセキュリティが新段階に ~eCloudvalley・FortiGate・AWS連携が企業DX基盤を強化~

タイクラウドセキュリティが新段階に ~eCloudvalley・FortiGate・AWS連携が企業DX基盤を強化~ クラウド
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タイのクラウドセキュリティ市場で重要な変化が起きている。AWSプレミアティアサービスパートナーのeCloudvalley、セキュリティ大手Fortinet、そしてAWSが戦略的連携を発表した。この連携は単なる製品バンドルではなく、タイ企業のデジタル変革を支える包括的なセキュリティ基盤構築を目指している。

連携の背景

この連携が注目される理由は、タイ市場の構造的変化にある。2025年1月のAWSタイリージョン開設により、データレジデンシー要件が満たされた。これまで規制の制約でクラウド導入を躊躇していた金融機関や政府機関が、本格的な移行を検討できる環境が整った。

同時に、個人情報保護法(PDPA)の本格執行とサイバーセキュリティ法の厳格化により、企業はより高度なセキュリティ対策を求められている。しかし、タイ国内では専門的なサイバーセキュリティ人材が不足しており、多くの企業がマネージドサービスに頼らざるを得ない状況だ。

eCloudvalleyが主催したタイ語ウェビナー「安定かつ安全なクラウド基盤を築く」では、この3社連携の具体的な価値提案が示された。また、Fortinetの「Accelerate Asia 2024 – Thailand」カンファレンスでは、eCloudvalley Thailandのソリューションアーキテクトが実際のユースケースを紹介している。

eCloudvalley Secure Landing Zoneの実力

この連携の核となるのが「eCloudvalley Secure Landing Zone」だ。これは既製品ではなく、専門的なコンサルティングサービスとして提供される。

標準のAWS Landing ZoneやAWS Control Towerは、基本的なガバナンス機能は提供するが、すぐに使える強固なセキュリティ設定は含まれていない。eCloudvalleyは、この基盤に対して防弾レベルのセキュリティ設計と展開を担当する。顧客の環境を単に準備するだけでなく、組織のニーズに合わせて調整された堅牢なシステムにする。

サービスは顧客要件の評価から始まる。その後、業界特有のコンプライアンス要件とリスク許容度に基づいて最適なソリューションを設計する。この設計には、AWS Landing Zoneの基盤とFortiGate CNFのような高度なネットワークセキュリティが組み込まれる。

FortiGate CNFが提供する次世代セキュリティ

FortiGate CNF(Cloud-Native Firewall)は、この連携におけるセキュリティ強制層として機能する。完全管理型のSaaSファイアウォールとして、従来の運用負荷を大幅に軽減する。

侵入防止システム(IPS)、ウェブフィルタリング、アプリケーション制御、マルウェア対策など、包括的なセキュリティ機能を提供する。これらの機能は、FortiGuard LabsのAI駆動型脅威インテリジェンスによって継続的に更新される。

重要な点は、FortiGate CNFがAWSタイリージョンで正式にサポートされていることだ。これにより、データレジデンシー要件を満たしながら、高度なセキュリティサービスを利用できる。

一元化検査モデルの効率性

この連携により実現される「ハブアンドスポーク」型セキュリティアーキテクチャは、極めて効率的だ。Landing Zone内に設置された検査VPCがハブとして機能し、すべてのネットワークトラフィックを一元的に処理する。

AWS Transit Gatewayを介してルーティングされたトラフィックは、AWS Gateway Load Balancerによって透過的にFortiGate CNFサービスに転送される。このモデルにより、複数アカウントの多数のVPCに単一のセキュリティポリシーを適用でき、設定ミスや不整合のリスクが大幅に削減される。

従来の分散型アプローチに比べて、可視性向上、管理簡素化、総所有コスト削減という明確な利点がある。

市場需要の構造変化

この連携が登場した背景には、タイ市場の構造的変化がある。政府の「タイランド4.0」イニシアチブと「ゴークラウドファースト」ポリシーがデジタル化を推進している。

タイのクラウドサービス市場は2032年までに100億米ドルを超え、年平均成長率14%以上と予測されている。特に、コンプライアンス対応のコミュニティクラウド市場は26%以上の成長率を示している。

同時に、ランサムウェアやフィッシング攻撃の増加により、より高度なセキュリティ対策が求められている。教育機関や政府機関が標的となるケースが増加し、AI活用攻撃の台頭が防御側の状況をさらに複雑化させている。

企業への戦略的影響

この基盤的アプローチにより、規制の厳しい業界が事前に構築されたセキュリティアーキテクチャを用いてクラウドに移行できる。これは導入障壁を下げ、プロジェクトのタイムラインを短縮する。

Honda Vietnamの事例では、eCloudvalleyがLanding Zoneアーキテクチャを用いて環境分離と請求管理を支援している。セキュリティインフラの管理をマネージドサービスプロバイダーにアウトソースすることで、社内ITチームはより価値の高いアプリケーション開発やデータ分析に集中できる。

eCloudvalleyのAWSレベル1 MSSPコンピテンシーに代表されるマネージドセキュリティサービスは、国内人材不足を直接的に緩和する。24時間365日のインシデント対応監視など、ほとんどの企業が自社で構築困難な能力へのアクセスを提供する。

今後の展望

BKK IT Newsは、この連携が単なるITセキュリティ問題を超えた意味を持つと見ている。新しいデジタルバンクやスマート工場、AI駆動型ビジネスを構築するための安全な基盤を提供するものだ。

「タイランド4.0」という価値ベース経済への移行は、金融、製造、サービス業の大規模デジタル化を必要とする。これらの取り組みはすべてデータ集約型でクラウドインフラ上で実行される。その持続可能性は、インフラのセキュリティと完全性に依存している。

堅牢なセキュリティ基盤の広範な採用により、タイのデジタルインフラ全体のレジリエンスが向上する。これは消費者、企業、国際パートナー間の信頼を醸成し、活気あるデジタル経済の前提条件となる。

企業への提言

企業は単一ベンダーによる統合ソリューションを検討することが一つの選択肢となる。マルチクラウド戦略は人材コスト、運用コスト、管理複雑化のリスクを伴う。信頼性の高いクラウドベンダーのエコシステム内で統合された利便性を享受する方が効率的かもしれない。

また、社内セキュリティ専門性の構築と並行して、専門的なマネージドサービスプロバイダーとの戦略的パートナーシップを構築することも選択肢の一つだ。これにより、リスクを分散しながら高度なセキュリティ機能にアクセスできる。

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