タイのデータセンター投資ラッシュ ~AI需要拡大で3兆円規模、製造業にも波及効果~

タイのデータセンター投資ラッシュ ~AI需要拡大で3兆円規模、製造業にも波及効果~ IT
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タイが東南アジアのデジタルハブとして急浮上している。AI技術の急速な発展を背景に、Google、Microsoft、Amazon Web Servicesなど世界的なハイパースケーラーがタイに総額3兆円規模の巨額投資を決定した。この投資ラッシュは、タイの製造業を含む幅広い産業に変革をもたらし、日系企業にとって新たなビジネス機会を生み出している。

デジタル経済政策「タイランド4.0」の成果

タイ政府は2016年から「タイランド4.0」戦略を推進してきた。農業・軽工業中心の経済からイノベーション主導型への転換を目指すこの戦略が、今回の投資誘致成功の基盤となっている。

政府は継続的にデジタルインフラを整備してきた。国際海底ケーブルネットワークの拡充により、2030年までに総容量を現在の62Tbpsから334Tbpsに増強する計画だ。このインフラ整備が、データセンターの「低遅延」要件を満たし、ハイパースケーラーの投資を促進している。

東部経済回廊(EEC)は特に重要な役割を果たしている。2025年最初の4ヶ月間で、外国投資全体の30%にあたる108社がEECに投資し、投資総額は313億バーツに達した。これは前年同期比40%の増加を示している。

主要企業の大規模投資と経済効果

タイ投資委員会(BOI)は、データセンターおよびクラウドサービスに対し、総額909億バーツ(約3兆円)の投資を承認した。中国のBeijing Haoyang Cloud&Data Technologyによる727億バーツの300メガワット規模データセンター建設が最大規模となっている。

Googleは2023年にタイへ10億ドルの投資を発表した。バンコクとチョンブリにデータセンターを建設し、2025年から2029年にかけて1万4000人の雇用創出を予定している。この投資だけで40億ドルの経済効果が見込まれている。

Amazon Web Servicesは15年間で50億ドルの投資を計画し、2025年1月にはタイランドリージョンをすでに立ち上げた。Microsoftは東部経済回廊に10億ドルを超えるデータセンターを開設する計画を進めている。

製造業への波及効果と人材育成の課題

データセンター投資は製造業にも大きな影響を与えている。米中対立によるサプライチェーンの再編で、中国や台湾の大手プリント回路基板メーカーの多くがタイへの分散投資を決定している。タイは同産業の新たなグローバルハブとして台頭している。

しかし、急速なデジタル化には課題もある。タイのデジタルビジネスの年間成長率が13%と予測される一方で、デジタルスキルの成長率は年間わずか1.4%に留まっている。労働省によると、タイには14万人以上のデジタル人材が必要とされている。

政府はデジタル経済推進庁(depa)を通じて対策を講じている。税制優遇措置を伴う100以上の公式認定デジタルスキルコースを開始し、2027年までに500コースに拡大する計画だ。企業が従業員を研修プログラムに登録した場合、関連費用に対して最大250%の法人所得税控除が受けられる。詳細については、タイがデジタル人材不足に本格対応 ~DEPA新ロードマップで中所得国の罠脱却を目指す~で詳しく解説している。

環境負荷とサステナビリティへの取り組み

データセンターの運用には膨大なエネルギーと水資源が必要となる。Googleの2024年環境報告書によると、データセンターとAI開発により温室効果ガス排出量が48%増加した。

タイ政府は持続可能性に配慮した政策を導入している。Utility Green Tariff(UGT)やDirect Power Purchase Agreements(Direct PPAs)により、データセンター事業者が最大2GWの再生可能電力を直接購入できる仕組みを整備した。

KDDIの「TELEHOUSE Bangkok」は、タイで初めて100%再生可能エネルギーによるCO2排出量実質ゼロのデータセンターとして開業している。このような取り組みが業界標準となることが期待されている。

地政学的バランスと今後の展望

米中間のテクノロジー競争が激化する中、タイは両大国とのバランスを取りながら投資を誘致している。中国企業からの投資を受け入れる一方で、米国企業との関係も重視し、多角的な連携戦略を採用している。

ASEAN地域におけるデジタル経済協力も重要な要素だ。タイ政府はASEANデジタル経済枠組み協定(DEFA)の2025年末までの最終合意に向けた交渉を加速させており、ASEAN域内でのデジタル貿易活性化を目指している。

企業が取るべき対応策

この投資ラッシュは企業にとって重要な機会となる。まず、デジタル人材の確保と育成が急務だ。政府の税制優遇措置を活用し、従業員のデジタルスキル向上に投資すべきである。

製造業では、データセンター関連の部品供給や冷却システムなど、新たなビジネス機会が生まれている。また、クラウドサービスの普及により、中小企業でもAIや自動化技術の導入が容易になる。

BKK IT Newsとしては、タイのデジタル変革は単なる一過性のブームではなく、構造的な変化であると判断している。日系企業は短期的な対応に留まらず、長期的な視点でデジタル戦略を構築することが重要だ。特に、人材育成とサステナビリティへの配慮が競争力の源泉となるだろう。

参考記事リンク

  • Thailand approves US$ 2.7 billion data center investments: https://w.media/thailand-approves-us-2-7-billion-data-center-investments/
  • Foreign Investment in Thailand Surges in First Four Months of 2025: https://www.khaosodenglish.com/news/business/2025/05/29/foreign-investment-in-thailand-surges-in-first-four-months-of-2025/
  • What The Thailand 4.0 Initiative Means For Your Business – Emerhub: https://emerhub.com/thailand/what-the-thailand-4-0-initiative-means-for-your-business/
  • タイ政府、米IT大手3社の投資誘致に成功と発表 – ジェトロ: https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/11/e115521307e474bb.html
  • 【タイ】米グーグルがデータセンター建設へ、10億米ドル投資 – ワイズデジタル: https://www.wisebk.com/asean_news/291603/