タイ中央銀行(BOT)の金融政策委員会(MPC)は2025年8月13日、政策金利を25ベーシスポイント引き下げ、1.50%とすることを全会一致で決定した。これは過去10ヶ月で4度目の利下げとなり、政策金利は2023年2月以来の最低水準に到達した。今回の決定は全体的な経済成長見通しの変化ではなく、中小企業や債務を抱える家計といった特定の脆弱なセクターへの支援を主眼としている。
継続する緩和政策の背景
タイ中央銀行による緩和サイクルは2024年10月に開始され、2025年2月と4月にもそれぞれ25ベーシスポイントの利下げが実施された。6月の会合では「限られた政策余地を維持する」として金利を1.75%で据え置いたが、今回の決定で緩和傾向を再開した。
全会一致での決定は、この措置の必要性について委員会内で強いコンセンサスがあることを示している。これは1人の委員が据え置きに投票した2025年2月の会合とは対照的だ。
米国関税の深刻な影響
利下げの主要な要因の一つは、米国の貿易政策の影響である。米国は2025年8月7日からタイ製品に19%の関税を課している。この税率は当初示唆された36%より低いものの、2024年の水準から大幅な引き上げとなっている。
MPCは、これらの関税が「構造問題を悪化させ、競争力を弱める」と明確に指摘している。特に影響を受けるセクターには機械、自動車部品、ゴム、アパレルが含まれる。エコノミストは、19%の関税でも米国の輸入業者が価格交渉を通じてタイの輸出業者の利益率を圧迫すると指摘している。
二速度経済の現実
タイ経済は2025年上半期に底堅い成長を示した。第1四半期のGDPは前年同期比3.1%成長し、第2四半期も約3.0%の成長を記録した。しかし、この好調なパフォーマンスは主に一時的な要因によるものだった。
好調な電子機器輸出と企業が関税発効前に商品を輸出しようと急いだことによる米国への前倒し出荷が主な要因である。この勢いは衰え、2025年下半期から2026年にかけて大幅な減速が予想されている。
深刻化する構造的問題
家計債務の重荷
タイは新興市場の中でも家計債務の対GDP比が最も高い国の一つである。一貫して90%前後の高水準で推移し、個人消費の大きな足かせとなっている。住宅ローン、自動車ローン、クレジットカードの不良債権が増加している状況だ。
中小企業の窮状
中小企業は長年の構造問題と米国の関税という新たな負担の両方に直面している。信用アクセスにおいて大きな課題に直面しており、中小企業向け融資は2023年第1四半期から減少傾向にある。
信用の機能不全
商業銀行全体の信用成長率はマイナスまたは低迷しており、数四半期連続で縮小している。これは信用リスクの増大により銀行が融資に慎重になっていることが主因だ。
市場の反応と今後の見通し
主要な商業銀行および国有銀行は迅速に貸出金利を引き下げた。クルンタイ銀行、バンコク銀行、カシコン銀行、サイアム商業銀行などが最低貸出金利(MLR)、最低当座貸越金利(MOR)、最低リテール金利(MRR)を0.25%引き下げることを発表している。
利下げに対するバーツの反応は限定的だった。これは市場が今回の利下げを既に織り込み済みと見なしていることを示している。
アナリストはさらなる利下げを見込んでいる。MUFGリサーチとDBSは、金利が2026年初頭までに1.25%あるいは1.00%まで低下すると予測している。
企業への示唆
BKK IT Newsの見解では、今回の利下げは対症療法であり、根本治療ではない。企業は以下の点を考慮すべきだ。
短期的な対応
既存の債務を抱える企業にとって、金利支払いの低下はキャッシュフローを改善する。特に関税の影響を受けた企業にとっては重要な救済措置となる。
長期的な視点
多くの企業にとって中心的な問題は信用のコストではなく、信用へのアクセスである。利下げは銀行が融資をためらわせる高い信用リスク認識の問題を解決しない。
構造改革の必要性
競争力、技術導入、ビジネスモデルに対処するためには、より深い構造改革が必要である。安易な資金供給は、必要な構造的適応を強制することなく、競争力のない企業を存続させるリスクがある。
財政政策との協調、大胆な構造改革、政治的安定性の確保という、より困難な課題への取り組みが、タイ経済の持続可能な成長には不可欠となる。