米国36%関税でタイ経済に激震 ~BOI緊急対策5項目で産業防衛へ~

米国36%関税でタイ経済に激震 ~BOI緊急対策5項目で産業防衛へ~ タイ政治・経済
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トランプ政権による36%の関税がタイに与える衝撃が深刻化している。2025年8月1日から発効するこの措置により、タイ経済は最大1.23兆バーツの損失を被り、100万人の雇用に影響が及ぶ可能性がある。

過去の経緯と現在の状況

米国とタイの貿易関係は1833年の友好通商条約まで遡る。現代では2002年の二国間貿易投資枠組み協定(TIFA)のもとで定期的な協議を行い、2003年には包括的な自由貿易協定(FTA)交渉も開始したが、政治的変化により合意に至らなかった。

トランプ政権は2025年、世界的な貿易保護主義政策の一環として各国に関税を課している。関税問題について詳しくは「2025年8月1日発効のトランプ新関税により、タイに36%の関税が課される。ベトナム20%との16%格差が輸出競争力を削ぎ、8000億バーツの損失リスクが懸念される。タイ製造業への影響と対応策を詳しく解説。」で解説したが、今回は政府の具体的対応策に焦点を当てる。

ASEAN諸国に対する米国の主要関税率(2025年8月1日発効)

タイは地域内で最も高い関税率を課されることになった。

国名 米国関税率(%)
タイ 36
マレーシア 25
ベトナム 20
インドネシア 19
シンガポール 10

この格差により、タイ製品は米国市場で著しく不利な立場に置かれる。外国直接投資(FDI)もより低い関税率の国に流れる傾向が強まっている。実際、2015年以降ベトナムのFDIはタイの15倍に達している状況だ。

BOIの戦略的対応5つ

この危機に対し、タイ投資委員会(BOI)は7月16日に包括的な対応策を発表した。

1. 中小企業(SME)の効率性向上への税制優遇

機械のアップグレード、自動化、デジタル技術導入を行うSMEに対し、従来の投資額50%上限・3年間の税免除から、投資額100%・5年間の法人所得税免除に大幅拡充した。タイ企業の99.5%を占めるSMEの競争力強化が狙いだ。

2. EVおよび電化製品の現地調達インセンティブ

タイ産業連盟の「Made in Thailand」認証を受けた現地材料を使用する企業に、追加2年間の法人所得税50%控除を提供する。現地調達比率は以下の通り設定された。

  • バッテリー電気自動車(BEV):40%
  • プラグインハイブリッド(PHEV):45%
  • EV部品:15%
  • 家庭用電化製品:40%

3. 主要生産プロセスの厳格化

貿易迂回を防止するため、原材料から完成品への「実質的な変革」を要件化した。関税分類の4桁以上の変更を必要とし、十分な現地付加価値を確保する。対象は自動車部品、エレクトロニクス、電化製品、金属製品、繊維、家具、バッグなどだ。

4. 脆弱セクターへの投資奨励の調整

米国貿易措置の影響を受けやすい低技術産業への奨励を停止した。太陽光パネル、自動車部品、装飾部品などが対象だ。また、過剰供給状態の鉄鋼下流製品への奨励も中止している。

家具、バッグ、印刷業ではタイ資本による過半数所有を義務化した。金属加工、化学、プラスチック製造業では土地所有権を停止し、工業団地内での操業を義務づけている。

5. 外国人材に関する規則の改定

従業員100人以上の製造業でタイ国民の雇用比率70%以上を義務化した。BOI関連ビザ・労働許可の対象となる外国人材には最低月収基準を設定し、役員は15万バーツ、専門家は5万バーツとした。

今後の予想と対応策

タイが25%程度の関税率に引き下げることができれば、競合国との差を5~6%に抑制でき、民間部門の適応も可能になる。しかし36%が維持されれば、輸出、雇用、FDIに壊滅的な影響をもたらす恐れがある。

世界銀行はタイの2025年GDP成長率予測を2.9%から1.8%に下方修正している。タイ中央銀行も、高い関税が完全実施された場合は1.3%まで成長率が低下するとみている。

企業が取るべき対応

  1. 緊急の交渉支援:政府による米国との交渉を積極的に支援し、25%程度への関税引き下げを目指す
  2. 貿易多様化の加速:ASEAN域内貿易や日本、中国、韓国との連携を強化し、米国依存を軽減する
  3. 現地調達比率の向上:BOIの新インセンティブを活用し、現地サプライヤーとの連携を深める
  4. 高付加価値化への投資:研究開発、イノベーション、人材育成に重点投資し、構造転換を図る

BKK IT Newsの見解として、この関税問題は短期的な貿易政策の範囲を超え、タイの産業構造そのものの変革を迫る重要な転換点になる。政府の迅速な対応と民間企業の戦略的適応が、タイ経済の将来を左右することになるだろう。

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