タイ自動車市場の二極化が鮮明に ~BEV89%増の裏で続くピックアップ不振~

タイ自動車市場の二極化が鮮明に ~BEV89%増の裏で続くピックアップ不振~ IT
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タイ自動車市場が深刻な二極化を迎えている。2025年6月の新車販売台数は前年同月比5.07%増の50,079台と3ヶ月連続のプラス成長を記録した。しかし、この好調なヘッドラインの裏には、市場の構造的変化が隠されている。

政策主導のBEVブームと経済主導のピックアップ不振

6月のバッテリー式電気自動車(BEV)新規登録台数は15,100台に達し、前年同月比89%という驚異的な増加を記録した。この急成長を牽引しているのは中国メーカーである。BYDが121.6%増、MGが65.1%増、GWM(長城汽車)が225.9%増と、中国ブランドが政府の補助金を活用し、市場をほぼ完全に支配している。

一方で、タイ市場の歴史的基盤である1トンピックアップトラック部門は深刻な不振に陥っている。6月の販売台数は前年同月比20.74%減少し、上半期を通じて17%の急落が続いている。通常であれば月間1万台以上を販売するトヨタといすゞのトップセラーモデルが、今や5,000台を超えるのも困難な状況にある。

政府の矛盾した産業政策

タイ政府は現在、相反する2つの産業政策を同時に推進している。一方では、EV3.5政策により2030年までに国内生産に占めるゼロエミッション車の割合を30%にする「30@30」目標を掲げ、ICE産業の終焉を積極的に加速させている。もう一方では、ピックアップ産業を支えるため50億バーツのローン保証プログラムや廃車インセンティブといった延命措置を講じている。

この政策の矛盾は、長期的な産業転換の管理と、直近の政治的に敏感な社会経済的影響の緩和との間の緊張を露呈している。高水準の家計債務が不良債権の急増を招き、銀行の融資承認基準が厳格化されたことが、中小企業や個人事業主の資金調達に大きく依存するピックアップ部門の危機の直接的な原因となっている。

日本勢の反撃と中国勢の攻勢

最も収益性の高いセグメントにおける存亡の危機を認識し、日本企業はついに動き出した。トヨタは2025年末までにタイで電動ハイラックスの量産を開始する計画である。いすゞもD-MaxのBEVバージョンを投入し、2025年に輸出向け生産を開始、タイ市場での発売は2026年と見込まれている。

これは、ピックアップセグメントにおける絶大なブランドロイヤルティと耐久性への評判を活用し、中国勢に反撃するための直接的なカウンターアタックである。

中国OEMは政策の国内生産要件を満たすため積極果敢に行動している。BYDのラヨーン工場は年間15万台の生産能力を持ち、2024年7月に稼働を開始した。GWMも2024年初頭から現地組立を開始している。彼らは政府補助金を背景とした競争力のある価格で、機能豊富なBEVを提供する戦略で成功を収めている。

サプライチェーンの転換点

EVへの移行は、タイの既存自動車部品産業に深刻な脅威をもたらしている。この産業は約70万人の雇用を支えているが、構造はICE部品に大きく偏っている。EVはICE車よりも部品点数がはるかに少ないため、10万人以上の雇用が失われるリスクに晒されている。

これと並行して、新たなEV中心のサプライチェーンが構築されつつある。中国のSunwodaは10億米ドル以上を投資してEVバッテリーセル製造工場を建設している。デンソーはインバーターの現地生産を2027年に開始予定である。

政府は自国の産業基盤へのリスクを認識し、ICE部品サプライヤーの移行支援措置を打ち出している。生産のアップグレードや転換プロジェクトに対する法人税免除や機械輸入関税免除などが含まれ、申請は2025年末まで受け付けられている。

今後の展望と企業への示唆

市場の二極化は今後も続くと予測される。BEVセグメントの成長は継続するが、2025年以降の補助金段階削減により勢いは穏やかになる可能性がある。2025年から2026年にかけてのトヨタといすゞによるEVピックアップの発売が最も重要な変曲点となるだろう。

タイ企業にとって重要なのは、この変化を単なる製品転換ではなく、産業とインフラの全面的見直しとして捉えることである。EV移行の真の課題は技術的なものではなく、産業、労働、エネルギー、社会政策を同時に調整する国家再開発プロジェクトなのである。

BKK IT Newsとしては、この変革期において企業は二正面戦略が必要と考える。既存事業の効率化と防衛を図りながら、同時に新技術とサプライチェーンへの適応を加速することが生き残りの鍵となる。

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