タイの化粧品ブランドが中国市場で着実に存在感を高めている。従来の日本・韓国製品が支配していた中国ビューティー市場に、新たな競争軸として「T-Beauty」が登場した。2025年1月から5月までの期間、タイから中国への化粧品輸入額は55億7,000万米ドルに達し、特定カテゴリーでは82%を超える成長率を記録している。
旅行土産から人気商品への転換
タイ化粧品の中国での位置づけは根本的に変化した。これまでは中国人観光客が持ち帰る「お土産」に過ぎなかった。しかし現在では、消費者が積極的に探し求める商品に転換している。
在アモイ・タイ王国総領事館商務部は、この変化を「単なるお土産から、Red Note(小紅書)やDouyin(抖音)で切望される製品への進化」と公式に表現している。中国人消費者がタイでの購入体験をソーシャルメディアで共有することで、有機的な需要拡大が促進されている。
この転換により、タイ化粧品は旅行動向から独立したスケーラブルな市場を獲得した。新型コロナウイルス感染拡大のような外的要因に左右されにくい強固な基盤を確立している。
タイ化粧品の競争力の源泉
T-Beautyの成功には3つの核心的要因がある。第一に、高温多湿な気候に適応した製品開発力だ。タイの気候条件で開発された日焼け止めやメイクアップ製品は、持続性とオイルコントロール機能に優れている。中国南部の消費者や夏場のメイク崩れに悩む全ての消費者にとって実用的価値が高い。
第二に、手頃な価格帯での高品質提供である。高級感のあるパッケージと効果的な処方を、マスマーケット向けの価格で実現している。プレステージ路線に特化する日本ブランドとは異なる戦略的ポジショニングを取る。
第三に、タイのソフトパワー効果が挙げられる。BLドラマや映画といったタイメディアコンテンツが中国で絶大な人気を博している。「Suai Meiku」トレンドに代表されるように、文化的影響力が商業需要へ直接転換されている。
Mistineの成功モデル
タイブランドの中国市場攻略の青写真を示したのがMistineだ。2016年の中国市場参入後、2022年の中国売上は200%以上成長した。同年の中国総収益100億バーツは、タイ本国売上42億バーツを大幅に上回る。
Mistineは日焼け止めカテゴリーに戦略集中した。TmallとDouyinでNo.1ブランドとなり、932億バーツ市場で資生堂ANESSAに次ぐ第2位のシェア6.6%を獲得している。特定ニッチでの支配的地位確立後、他製品カテゴリーへ展開する「橋頭堡」戦略の有効性を実証した。
現地化も成功要因である。中国の人気女優趙露思をブランドアンバサダーに起用し、上海に研究開発センターを設立した。現地消費者向けの製品開発への長期的コミットメントを明確化している。
競合環境の変化
中国市場では既存勢力が転換点を迎えている。資生堂に代表されるJ-Beautyブランドは、プレステージ・ファースト戦略の課題に直面している。資生堂中国事業は2022年に初の赤字を記録し、2019年以降収益成長が鈍化した。
K-Beauty大手のアモーレパシフィックは、中国市場注力を意図的に低下させている。売上減少と競争激化を受け、米国・欧州市場へ軸足を移す戦略転換を進めている。
一方で中国国内ブランド(C-Beauty)の台頭も無視できない。花西子や完美日記といった現地ブランドが洗練度を増し、中国伝統文化に根差したストーリーテリングで市場を確立している。
タイ企業への今後の展望
BKK IT Newsは、T-Beautyの成功が持続的な成長トレンドになると予測する。ただし、継続的な成功には課題への対応が必要だ。
中国市場への輸出には、国家薬品監督管理局(NMPA)への製品登録という複雑な規制プロセスがある。製品あたり10,000元から80,000元の費用と4ヶ月から13ヶ月の期間を要する。小規模ブランドには大きな参入障壁となっている。
C-Beautyブランドの急速なイノベーション力も脅威である。国内市場への深い理解と俊敏なサプライチェーンを武器に、T-Beautyの差別化ポイントを模倣する可能性がある。
企業の戦略的対応
タイ企業は段階的アプローチを取ることが有効だ。まずタイの処方技術が明確な優位性を持つ特定製品カテゴリーで市場リーダーシップを確立する。その後に多角化を図る戦略がリスクを抑制できる。
マーケティング投資では、グローバル画一キャンペーンではなく、超ローカライズされたアプローチが重要だ。DouyinやXiaohongshuの機微を理解する現地チームやKOLとのパートナーシップが成功の鍵となる。
長期的には、価格競争を超えた感情的つながりの構築が不可欠だ。ウェルネス、天然成分、活気あるライフスタイルといったタイ文化の魅力を活用し、持続的なブランド価値を創造する必要がある。
T-Beautyの台頭は、アジアビューティー市場における新しい競争構図を示している。タイ企業にとって、化粧品産業を通じたグローバル市場での存在感確立の重要な機会となっている。
参考記事リンク
- Thai cosmetics win over Chinese consumers, rival Korean and Japanese brands
- เครื่องสำอางไทยครองใจชาวจีน ฮอตไอเท็ม เทียบเคียงเกาหลี-ญี่ปุ่น
- Thai Beauty Brands to Know – Dr Rachel Ho
- MISTINE แบรนด์เครื่องสำอางไทย ที่ยอดขายในจีน เยอะกว่าที่ไทย – ลงทุนแมน
- China’s booming beauty market presents golden opportunity for Thai brands