2025年のタイのコメ輸出は深刻な局面を迎えている。生産量は過去5年平均並みの安定した水準を維持する一方で、輸出量は前年の990万トンから750万トンへと25%の大幅減少が予測されている。これまでタイのコメに依存していた食品関連企業にとって、調達戦略の根本的な見直しが急務となっている。
過去の好調と現在の急変
2024年のタイのコメ輸出は6年ぶりの高水準となる990万~995万トンを記録していた。この好調の背景には、世界最大の輸出国であるインドが国内価格安定のため約2年間、白米の輸出を停止していたことがある。インドの不在により、タイは比較的高値でコメを販売することができ、輸出業界は好況を享受していた。
しかし、2024年後半にインドが輸出を再開すると状況は一変した。世界のコメ価格は急落し、2024年10月から2025年4月にかけて前年同期比で23.4%以上も下落。インドの復帰は、タイを含む他の輸出国にとって熾烈な価格競争の始まりを意味した。
2025年上半期の衝撃的な数字
実際の数字はさらに深刻だ。2025年上半期(1-6月)の輸出実績は、量で373万トン(前年同期比27.3%減)、金額で755億バーツ(同36.4%減)となった。注目すべきは金額の減少率が量の減少率を大幅に上回っていることだ。これはタイが「売る量が減った」だけでなく、「より安い価格でしか売れなくなった」ことを示している。
平均単価は1トンあたり650ドルから606ドルに下落。国際市場におけるタイのコメの価格決定力が著しく低下している状況が数字に現れている。民間調査機関のカシコンリサーチセンターは、2025年通年の輸出額が前年比41.6%縮小し、過去4年間で最低となると予測している。
ベトナムの躍進が示す競争の激化
競争環境はさらに厳しさを増している。2025年上半期、ベトナムは472万トンのコメを輸出し、タイの373万トンを上回って世界第2位の輸出国となった。ベトナムの成功は単なる低価格戦略ではない。国家戦略として開発した香米「ST25」は年2-3回の収穫が可能で、タイの伝統的ホームマリが年1回しか収穫できないのと対照的だ。
ベトナムの平均単収は1ライあたり800-1,000kgで、タイの450kgを大きく上回る。生産コストもタイより50%低いと推定されており、研究開発投資も積極的だ。これらの差は短期間で埋められるものではない。
政府の緊急支援と新戦略
輸出不振による国内価格の急落(前年同月比約45%下落)を受け、タイ政府は総額600億バーツを超える大規模な農家支援策を発表した。収穫期に農家が売り急ぐ必要がないよう融資制度を設け、1ライあたり1,000バーツの補助金支給も決定している。
同時に、商務省は市場の多角化戦略を推進している。中国市場の28万トン輸入割り当ての完全消化、日本・バングラデシュ・香港への輸出拡大、そして最重要市場と位置づける中東・アフリカ市場の開拓だ。南アフリカからは既に40万トン、71億バーツ相当の大型受注を確保している。
BKK IT Newsの予測と企業への影響
2025年後半も厳しい状況が続くと予測される。インドの本格的な市場復帰、世界的な供給過剰、主要輸入国の購買力減退という構造的要因が短期間で改善される見込みは低い。
食品関連の日系企業にとって、この変化は調達戦略の抜本的見直しを迫る。一つの選択肢は、価格下落を機にタイのコメの調達量を増やすことだ。もう一つは、ベトナムや他の供給国からの調達比率を高めることで、リスク分散を図ることである。
長期的には、タイのコメの品質優位性と価格競争力のバランスを慎重に評価し、調達ポートフォリオを最適化する必要がある。タイ政府の支援策により短期的な供給安定は確保されているが、構造的な競争力回復には時間を要する可能性が高い。
企業は現在の市場変動を機に、より柔軟で多様化された調達戦略への転換を検討すべき時期に来ている。
参考記事リンク
- GIEWS Country Brief: Thailand 20-August-2025 – Thailand | ReliefWeb
- Report Name: Grain and Feed Annual – USDA Foreign Agricultural
- Commerce Ministry, exporters discuss strategies for 2025 rice exports amid global market volatility – JIJI PRESS
- Vietnam overtakes Thailand to become world’s second-largest rice exporter
- Rice industry wake-up call – Bangkok Post