PerplexityのAIブラウザ「Comet」の野心と限界 ~月額200ドルで挑むGoogle Chrome牙城~

PerplexityのAIブラウザ「Comet」の野心と限界 ~月額200ドルで挑むGoogle Chrome牙城~ AI
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AI検索スタートアップのPerplexityが2025年7月、革新的なAIブラウザ「Comet」を発表した。「第二の脳」を標榜するこのブラウザは、従来の検索・閲覧からタスク実行へとパラダイムを転換する野心的な製品だ。しかし月額200ドルという高額料金とプライバシー懸念が、普及への大きな壁となっている。

過去の経緯と技術革新の流れ

ウェブブラウザの進化は検索パラダイムと密接に関連してきた。Googleが確立したキーワード検索の時代から、ChatGPTの登場により対話型AI検索へと移行が始まった。2022年に元OpenAI研究者らが設立したPerplexityは、まさにこの変化の申し子として「アンサーエンジン」を提供してきた。

従来のブラウザがAI機能を後付けで追加するのに対し、Cometは設計思想から根本的に異なる。ブラウザの中核に「AIオーケストレーションレイヤー」を配置し、OpenAIのGPT-4o、AnthropicのClaude、Perplexity独自のSonarモデルを使い分ける。これにより単なる情報表示ではなく、ユーザーの意図を理解してタスクを実行する「エージェントAI」の役割を果たす。

Cometの革新的機能と現在の状況

Cometの最大の特徴は「エージェント型ウェブ」の実現にある。ユーザーは複数タブにまたがる製品比較、Eコマースでの購入、メールの要約、会議のスケジュール調整などを音声指示一つで実行できる。ChromiumベースのためChrome拡張機能も利用可能で、移行の障壁を下げている。

現在、Cometは月額200ドルのPerplexity Maxユーザーと招待制ユーザーに限定提供されている。macOSとWindows版が利用可能で、段階的な展開により初期フィードバックを収集している段階だ。

しかし現実のパフォーマンスは理想と大きく乖離している。複雑なタスクでの高い失敗率、情報の「幻覚」、手動操作より時間がかかるケースが多数報告されている。特にニュアンスを伴う要求への対応は困難で、「AI付きChrome」との厳しい評価も受けている。

さらに深刻なのがプライバシー問題だ。CEOが「超パーソナライズされた広告販売」のためのデータ収集意図を示唆した一方、公式ポリシーではローカル保存を謳う矛盾が信頼性を損なっている。出版社との著作権摩擦も継続しており、ブランドの信頼性に影響している。

競争環境と今後の展望

Cometが参入するブラウザ市場は、Google Chromeが世界で約68%という圧倒的シェアを誇る。しかしGoogleはイノベーターのジレンマに直面している。エージェントAIの全面採用は、検索連動広告という主要収益源を自ら破壊することになるためだ。

一方、OpenAIも独自のAIブラウザ開発を進めており、「Operator」と呼ばれるエージェントを搭載予定だ。ChatGPTの強力なブランド力とエコシステムを背景に、Cometの直接的脅威となる可能性が高い。

独占禁止法関連の訴訟がGoogleのデフォルトブラウザ地位を脅かす中、Perplexityはスマートフォンメーカーとのプリインストール契約を積極的に模索している。潤沢な資金力(企業価値140億ドル)を武器に、この好機を最大限活用する戦略だ。

企業が知るべき対応策

Cometの登場は、直接的な普及よりも「触媒」としての役割が重要だ。その脅威により、Googleをはじめとする既存プレイヤーが同様のエージェント機能開発を加速させる可能性が高い。

デジタルマーケティング業界にとって、この変化は長期的な脅威となる。従来のキーワード中心SEOから、AIエージェントが解釈しやすい構造化データやAPI連携への転換が必要だ。「ポストSERP(検索結果ページ)」時代への準備を今から始めるべきである。

投資家は、ブラウザ技術そのものより「エージェント経済」を支える周辺技術に注目すべきだ。APIファーストのサービス、AIネイティブなワークフロー自動化ツール、ローカライズAIモデルなどが有望な投資対象となる。

BKK IT Newsの見解

Cometは画期的なビジョンを示したが、現時点では「先駆的だが欠陥を抱える製品」というのが実情だ。月額200ドルという価格設定、エージェント機能の信頼性不足、プライバシーと著作権に関する信頼の欠如という「三重苦」を抱えている。

最も可能性の高いシナリオは、Cometの脅威が既存プレイヤーの技術開発を促進し、より安価でローカライズされたエージェント機能が既存チャネルを通じて普及することだ。Cometは市場の征服者ではなく、イノベーション競争の引き金を引く触媒として歴史に名を残すかもしれない。

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