本日2025年7月16日、世界的半導体企業のInfineon Technologiesとタイ組み込みシステム協会(TESA)が、国家セキュアAIoTプラットフォーム設立に関する覚書(MOU)を締結した。この戦略的提携は、タイの製造業とIT産業を根本から変革する可能性を秘めている。AIスタートアップの育成支援と、AIoT製品の国際市場への輸出促進を目的とした今回の動き。タイのデジタル経済戦略における重要な転換点となりそうだ。
長期戦略の実行フェーズに突入
タイ政府は長年「Thailand 4.0」戦略を掲げてきた。経済構造を製造業中心からイノベーション主導型へ転換する国家計画だ。さらに国家AI戦略では、2027年までにASEAN地域のAIハブとなる目標を設定している。
これまで政策レベルでの議論が中心だった。しかし今回のInfineonとTESAの提携により、具体的な技術導入が始まる。ハードウェア開発期間を数週間から数日に短縮する技術提供。開発者はプログラミングやAI機能により集中できるようになる。
タイは伝統的な製造業から、知的財産(IP)創出重視のモデルへ移行中だ。このプラットフォームがその加速装置として機能する。
Infineonの戦略的タイ投資が本格化
Infineonは1999年にドイツのシーメンスから独立したグローバル半導体企業だ。自動車メーカーや各種産業向けに半導体を製造し、現在は年間収益約150億ユーロを誇る。
同社は2024年にタイでの大規模投資を発表済みだ。サムットプラカーン県に東南アジア最大の半導体後工程製造工場を建設する。125ライ(約20ヘクタール)の用地で、2026年初頭稼働予定だ。
電気自動車、データセンター、クリーンエネルギー向けのパワーモジュール製造に特化する。このグローバル企業が、タイを単なる生産拠点ではなく戦略的パートナーと位置づけた証拠だ。
2025年2月にはタイ科学研究イノベーション庁(TSRI)とも提携済み。今回のTESA連携は、この流れの延長線上にある。Infineonはタイで製造、研究開発、エコシステム構築の三方面から攻勢をかけている。
TESAの役割と業界ネットワーク
TESAは2001年設立の歴史ある組織だ。テクノロジーサプライヤー100社以上、中小企業100社以上、大学20校以上との幅広いネットワークを持つ。半導体・IC設計、スマートエレクトロニクス、インダストリー4.0、EV自動車、ロボティクスなど多様な産業分野をカバーしている。
民間企業、大学、政府機関の三者連携を促進するハブ機能を果たす。Infineonがタイの技術コミュニティにアクセスする上で、TESAとの提携は戦略的選択だった。
組み込みシステム技術の人材育成も手がける。学生向けプロジェクト開発支援や産業界専門家との交流機会を提供している。今回のプラットフォームでも大学教育への活用が計画されている。
国家セキュアAIoTプラットフォームの具体的インパクト
このプラットフォームは国家安全保障、ヘルスケア、農業、エネルギー、スマートシティ、インダストリー4.0の重要産業をターゲットとする。最新のサイバーセキュリティ基準に準拠した高付加価値スマートエレクトロニクス開発を推進する。
特筆すべきは開発期間の劇的短縮だ。従来数週間かかっていたハードウェア開発が数日で完了する。開発者は概念実証(PoC)を迅速に市場投入できるようになる。これにより知的財産創出のサイクルが加速される。
ハッカソンやコンペティションを通じて、タイ特有の課題を解決するソフトウェア開発企業を数百社規模で育成する計画だ。農業、観光、スマートホームなど、地域に特化したソリューション開発に焦点を当てる。
タイ製造業への波及効果
AI技術は製造業の生産プロセス最適化、品質管理改善、サプライチェーン管理強化に直結する。2030年までにAIが東南アジア地域のGDPを10-18%押し上げる可能性があるとの予測もある。これは約1兆米ドル規模のインパクトだ。
タイの製造業は労働集約型から技術集約型への転換期にある。AIによる自動化で、反復的なタスクが効率化される。従業員はより創造的で戦略的な業務に集中できるようになる。
ただし雇用への影響も無視できない。AIスキルを持たない候補者を採用しないタイ企業経営者が74%に達している。機械学習エンジニアやAIモデル開発者など新たな専門職が生まれる一方、既存職種の自動化も進む。大規模なリスキリング・アップスキリングが急務だ。
今後の展開と課題
BKK IT Newsとして、この提携がタイのデジタル競争力を大幅に向上させると予測する。特に地域特有の課題解決に特化したAIoTソリューションの誕生により、タイ発の技術が国際市場で差別化要因となる可能性が高い。
課題はサイバーセキュリティとデータ主権の確保だ。タイ政府はAI法案の検討を進めており、高リスクAIシステムの透明な監視体制構築を目指している。技術革新と規制のバランスが重要になる。
人材育成も喫緊の課題だ。大学との連携による専門人材育成、中小企業向けのAI理解促進、労働者のスキル転換支援など、多面的な取り組みが必要だ。
日系企業が取るべき行動
タイ進出日系企業の経営者・マネージャーは、以下の点を検討すべきだ。
まず自社の製造プロセスでAI導入の可能性を調査する。特に品質管理、予知保全、サプライチェーン最適化の分野で効果が期待できる。
次に従業員のAIスキル向上計画を策定する。外部研修の活用や、TESAのようなローカル組織との連携も有効だ。
そして地元スタートアップとの協業機会を探る。Infineonが構築するエコシステムを活用し、自社特有の課題解決に特化したAIoTソリューションを共同開発できる可能性がある。
最後にサイバーセキュリティ体制の強化だ。AIoT技術の導入に伴い、セキュリティリスクも増大する。最新の国際基準に準拠した対策が不可欠だ。
参考記事リンク
- Infineon, TESA to create new AI platform – Bangkok Post
- Thailand 4.0 strategy | Digital Watch Observatory
- Infineon teams up with Thailand Science Research and Innovation to drive innovation ecosystem in Thailand – PR Newswire
- About TESA – Thai Embedded Systems Association
- Thailand’s AI bill prioritises responsible use and rights protection – Nation Thailand