日立エナジー、タイに変圧器工場投資~データセンター需要で45億バーツ拡張計画

日立エナジー、タイ変圧器投資45億バーツ~データセンターブーム対応へ タイ政治・経済
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日立エナジーが8月28日、サムットプラカーン県の変圧器工場に4億5,500万バーツの投資を発表した。生産能力を60%増強し、急増するデータセンター需要と再生可能エネルギー統合に対応する。2027年末の完了予定で、タイの電力インフラ強化を支える重要な投資となる。

30年の歴史を持つ戦略的拠点

日立エナジーのサムットプラカーン工場は1990年から操業を続け、同社のグローバル製造ネットワークの主要拠点として位置づけられている。日立エナジーのタイでの歴史は90年以上に及び、1913年の最初のモーター納入から始まった長期的なコミットメントを示している。

同工場は高電圧送電網に不可欠な「油入変圧器」を製造している。世界17カ所の変圧器工場で共通採用されている「TrafoStar」技術プラットフォームに基づく製品は、グローバル品質基準を満たしている。

この技術統一により、Amazon Web Services、Google、Microsoftといったグローバル企業が求める一貫した品質と信頼性を提供できる。タイ工場が他のどの国の工場とも同じ基準で製品を供給できることは、多国籍クライアントのサプライチェーンリスクを低減する重要な要素となっている。

データセンターブームが牽引する需要急増

今回の投資決定の背景には、タイで進行中のデータセンター・ゴールドラッシュがある。タイのデータセンター市場は2024年の350メガワット(MW)から2027年までに約1ギガワット(GW)へと3倍近くに拡大する見通しだ。

この成長はAmazonの50億ドル、Googleの10億ドル投資など、グローバルテクノロジー企業による巨額投資が牽引している。これらハイパースケール施設は小規模なサーバールームとは異なり、極めて電力消費の大きい施設となる。

タイ政府は投資委員会(BOI)を通じて、法人所得税の最大8年間免除、付加価値税免除、機械輸入関税の免除、100%外資所有の許可といった魅力的なインセンティブを提供している。東部経済回廊(EEC)が重点開発地域として指定され、この成長を後押ししている。

AI(人工知能)および機械学習の台頭により、膨大な計算能力と電力が必要となっている。タイ政府は自国を「グローバルデータハブ」として位置づけており、この国家戦略がさらなる投資を呼び込んでいる。

再生可能エネルギー政策が生む長期需要

短期的なデータセンターブームに加え、タイの国家エネルギー政策が長期的な電力インフラ需要を創出している。現在策定中の電力開発計画(PDP)2024草案では、発電量に占める再生可能エネルギーの割合を2024年の約20%から2037年までに51%に引き上げる野心的な目標が設定されている。

太陽光や風力を中心とする再生可能エネルギーの大量導入は、電力系統の安定性にとって大きな課題をもたらす。従来の火力発電所とは異なり、これらの電源は天候に左右され、出力が変動し断続的となる。

既存の送電網は発電所から消費者への一方向で予測可能な電力の流れを前提に設計されているため、新たな状況への対応が必要となる。高品質な電力用変圧器は、再生可能エネルギーを系統に連系し、送電網の信頼性を確保するために不可欠な構成要素となっている。

過去の関連投資との相乗効果

タイのデータセンター投資は着実に積み重ねられている。AWS、Google、Microsoftなど米中両陣営から65億ドルの投資で東南アジアのデジタルハブとしての地位を確立しつつある。今回の日立エナジー投資は、この流れを支える重要なインフラ投資として位置づけられる。

過去記事で報告したように、「タイのデータセンター容量3年で3倍拡大~AI需要急増で投資ラッシュが加速」でも指摘されたデータセンター容量の急拡大は、電力インフラの整備と密接に関連している。

グローバル戦略におけるタイの位置づけ

今回の4億5,500万バーツの投資は、日立エナジーが全世界で進める総額90億米ドルのグローバル投資プログラムの一環である。フィンランドでの新工場建設や、ドイツ、米国、コロンビア、中国、ベトナムでの既存工場増強と協調的に進められている。

特筆すべきは、APMEA(アジア太平洋・中東・アフリカ)ハブとしてのタイの戦略的重要性である。サムットプラカーン工場はタイ国内市場への供給拠点であるだけでなく、より広範な地域への輸出拠点として位置づけられている。

今後の展望と企業への示唆

BKK IT Newsの見通しでは、この投資は好循環を生み出す可能性が高い。電力供給の安定性と信頼性が向上することで、データセンターや先端製造業からのさらなる投資を呼び込む磁石となる。これらの投資が経済成長と技術の高度化を促進し、その果実がさらなるインフラ投資へ還元される構図が期待される。

企業にとっては、エネルギーインフラの潜在的なボトルネックに先手を打って対処することで、タイのFDI誘致における魅力が高まることを意味する。大量の電力を消費するデータセンターや先端製造工場の建設を検討する企業にとって、エネルギーインフラの対応能力向上は投資リスクを低減させる重要な要素となる。

企業の選択肢として、タイの電力インフラ強化を背景とした投資戦略の見直しが考えられる。特にデジタル関連事業やグリーンエネルギー関連の製造業において、タイの競争優位性が高まる可能性がある。

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