G-Able決算好調で露呈するタイDX市場の二極化 ~受注残高過去最高65億バーツの裏に隠れた業界再編の真実

タイDX市場の明暗くっきり ~G-Able純利益28%増の陰でMFEC59%減、業界二極化が鮮明に IT
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G-Able PCLが2025年8月14日発表した第2四半期決算は、純利益28%増と過去最高の受注残高65億3千万バーツを達成し、タイのデジタルトランスフォーメーション(DX)市場における同社の戦略転換成功を印象づけた。しかし、同じ期間にライバルのMFEC社が純利益59%減という対照的な結果を記録したことで、業界内の競争力格差が一層鮮明になっている。この業績差は単なる企業個別の問題を超え、タイのDX市場全体で進行する構造変化の象徴といえるだろう。

巧妙な戦略転換が生んだ「見かけの減収」

G-Ableの2025年第2四半期総収益は14億6千万バーツで、前年同期比25%の減少となった。この数字だけを見ると業績悪化と捉えられかねないが、実態は正反対だ。同社は意図的に利益率の低い大規模ハードウェアプロジェクトから撤退し、より収益性の高いデジタルサービス領域にシフトしている。

この戦略転換の効果は利益率に如実に現れている。売上総利益率は前年同期の15.7%から20.4%に拡大し、純利益は8100万バーツと28%の大幅増を記録した。経営陣によると、前年の一過性ハードウェアプロジェクトを除外した場合、基礎収益は実質15%成長していたという。

量より質を重視するこの転換は、タイのDX市場が成熟段階に入りつつあることの表れでもある。企業の情報化需要が単純なシステム構築から、より高度なデジタル変革支援へとシフトしている現状を、G-Ableは先取りしていたといえる。

Thailand 4.0政策が生む巨大な追い風

同社の受注残高が過去最高を更新した背景には、政府のThailand 4.0政策による強力な後押しがある。2027年までにデジタル経済をGDPの30%に引き上げるという政府目標は、企業のDX投資を大幅に促進している。

タイのデジタルトランスフォーメーション市場は2025年に100億ドルと推定され、年平均9.3%で成長し2030年には157億ドルに達する見込みだ。G-Ableはこの成長市場の中でも、クラウド移行、データ分析、サイバーセキュリティといった高付加価値領域に特化しており、市場拡大の恩恵を最大限享受できる立ち位置にある。

政府系機関のデジタル経済振興庁(DEPA)による積極的な政策支援も、同社事業に追い風となっている。企業向けの税制優遇措置や人材育成支援により、DXプロジェクトへの投資環境が整備されつつある。

競合他社との決定的な差が露呈

同業大手のMFEC社が同期間に純利益59%減という厳しい結果を発表したことで、G-Ableの戦略的優位性がより鮮明になった。両社の業績格差は、単なる好不調の差を超えた構造的な競争力の違いを示している。

G-Ableは2024年8月にERP/CRM専門のRound Two Solutions買収、2025年1月にThai NS Solutionsとの提携など、戦略的な事業拡張を積極的に推進してきた。これに対しMFEC社は従来事業での効率改善に留まっており、新領域への展開で後れを取っている。

この差は受注残高にも表れている。G-Ableが65億3千万バーツという過去最高を記録する一方、MFEC社の受注状況は公表されていないものの、業績悪化から推測すると厳しい状況が続いているとみられる。

株価が示す市場の「理解不足」

G-Ableの好決算発表にもかかわらず、株価は翌日に1.36%下落した。28%の利益成長と過去最高の受注残高という強いファンダメンタルズと対照的な反応だった。

この現象は、市場が表面的な収益減少にのみ注目し、戦略転換の真意を理解していないことを示している。あるいは、好材料が既に株価に織り込まれていた可能性もある。タイの株式市場全体が米国の通商政策への懸念から軟調だったことも影響している。

こうした短期的な株価動向と企業の中長期的な競争力向上は必ずしも一致しない。投資家にとっては、財務指標の背景にある戦略的文脈を正確に理解することが重要だろう。

今後の成長シナリオと課題

BKK IT Newsとしては、G-Ableの成長軌道は当面継続すると予想している。受注残高65億3千万バーツは今後数四半期の収益を確保しており、政府のデジタル政策も継続する見込みだ。

一方で注意すべきリスクもある。タイの経済成長鈍化により企業のIT投資が抑制される可能性、グローバル大手コンサルティング企業の本格参入による競争激化、深刻なデジタル人材不足の長期化などが挙げられる。

特に人材確保は深刻だ。タイでは10万人のAI専門家が必要とされているが、供給は2万1千人に留まっている。この構造的な人材不足は、DX企業の成長制約要因となりかねない。

企業が取るべき戦略的対応

タイ企業、特に製造業にとって、G-Ableのような専門企業の活用は避けて通れない選択肢の一つとなっている。自社でデジタル専門人材を確保できない企業にとって、外部パートナーとの協業は現実的な解決策だ。

ただし、パートナー選択時には慎重な検討が必要だろう。G-AbleとMFECの業績格差が示すように、同業他社間でも競争力に大きな差が生じている。企業は実績、専門性、財務安定性を総合的に評価すべきだ。

また、DXプロジェクトを単なるコスト削減策として捉えるのではなく、収益創出と競争力強化のための戦略投資として位置づけることも重要となる。G-Ableの成功は、この視点転換を早期に実現した企業への需要増を示している。

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