エクイニクス、バンコクに大型投資 ~5億ドルデータセンターでタイのデジタル基盤強化~

エクイニクス、バンコクに大型投資 ~5億ドルデータセンターでタイのデジタル基盤強化~ IT
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米国のグローバルデジタルインフラ企業エクイニクス(Equinix)が、タイのデータセンター市場に総額5億ドル(約168億バーツ)の大規模投資を発表した。今後10年間でバンコクのバンナー地区に2つのデータセンターを建設し、最大3,375キャビネット以上の容量を提供する計画だ。この投資は、タイが地域デジタルハブとして確固たる地位を築く上で重要な転換点となる。

政府政策がもたらした投資環境の整備

エクイニクスの投資決定は、タイ政府が推進する一連のデジタル政策に強く後押しされている。プータイ政権は「タイランド4.0」戦略の一環として、2025年10月から「クラウドファースト政策」を本格導入する。政府機関220機関の約75,000の仮想マシンがクラウドに移行し、運用コストを30%削減する計画だ。

タイ投資委員会(BOI)は、データセンター事業に対して最長13年間の法人所得税免除、機械・原材料の輸入関税免除、外国人株主による土地所有許可などの手厚い優遇措置を提供している。この政策環境が、Amazon Web Services(AWS)、Google、Microsoftなどの世界的なハイパースケーラーによる相次ぐ投資決定を促している。

2025年第1四半期だけで、デジタルセクターへの投資申請が前年同期比5倍に急増した。政府が市場の成長を積極的に「創造」する状況が生まれており、民間企業にとって安定した需要基盤が確保されている。

シンガポール代替としての地理的優位性

エクイニクスが取得したバンナー地区の土地は、空港と市中心部を結ぶ主要交通路に隣接し、既存の相互接続エコシステムに近接している。タイは、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム(CLMV)諸国への戦略的ゲートウェイとして、合計2億5000万人の市場にアクセスできる立地にある。

シンガポールが土地や電力供給の制約に直面する中、データセンター事業者は新たな拠点を模索している。タイは年平均成長率13%でデータセンター市場が拡大しており、この地域シフトの主要な受益者となっている。

エクイニクスのアジア太平洋地域での事業拡大は、日本、韓国、中国、香港、オーストラリア、インド、マレーシア、シンガポールなど15都市58拠点に続く戦略的な一歩だ。フィリピン市場への参入も発表済みで、東南アジア全域での相互接続エコシステム構築を加速している。

製造業デジタル化の基盤インフラ

データセンターは、それ自体が巨額の収益を生み出すというよりも、他の産業のデジタル化を促進する「イネーブラー」としての役割が大きい。タイの製造業は、生産速度向上のためのロボット工学やインテリジェントなサプライチェーン管理など、高度な技術を支えるデータセンターから大きな恩恵を受ける。

医療分野では、遠隔手術のリアルタイム通信の遅延削減、患者情報のセキュリティ強化、研究開発のための医療機関間協力の促進が可能になる。ゲノミクスや精密医療には膨大なストレージ容量が必要で、これらの技術導入にはデータセンターが不可欠だ。

現代のサプライチェーンはリアルタイムデータ、IoT、AI、自動化に大きく依存している。エクイニクスの投資により、タイがより高度なデジタル製造・サービスハブへと進化するための戦略的基盤が強化される。

今後のデジタルハブ化への期待

BKK IT Newsとしては、この投資がタイのデジタル経済発展における画期的な転換点になると予想している。ASEANデジタル経済フレームワーク協定の進展により、国境を越えたデータフローが円滑化され、地域全体のデジタル経済統合が加速する見込みだ。

タイは2027年までにASEANのAIハブとなる野心的な計画を持っており、AI、IoT、5Gなどの高度な技術をサポートする堅牢なデータセンター網が必要不可欠だ。エクイニクスの参入により、タイが地域全体のデジタルサービス提供基盤としての役割を強化することが期待される。

しかし、IT人材の深刻なスキルギャップは大きな課題だ。人口の1%しか高度なデジタルスキルを持たず、年間3,500人のIT卒業生では今後3年間で必要な177,606ポジションを埋めることができない。政府は今後5年間で28万人の技術専門家育成を計画しているが、民間企業との連携が不可欠だ。

企業が取るべき戦略的対応

データセンター投資の潜在能力を最大限に引き出すには、企業の積極的な関与が必要だ。エクイニクスのようなグローバルプレイヤーが構築するエコシステムの活用、クラウドサービスの導入加速、AI関連技術への投資拡大が重要になる。

タイの個人データ保護法(PDPA)やサイバーセキュリティ法制への対応も欠かせない。国内データセンターの存在により、法規制遵守とデータセキュリティの両立が可能になる。

持続可能性への配慮も重要だ。エクイニクスは5億ドル以上のグリーンボンドを発行し、再生可能エネルギー利用にコミットしている。タイも100%再生可能エネルギー利用を推進しており、環境意識の高い企業を引き付ける競争優位性となる。

人材育成プログラムへの協力も長期的な成功要因だ。政府の技術研修プログラムと連携し、従業員のデジタルスキル向上に250%の税額控除を活用できる。

この投資は、タイがデジタル経済の「高度化段階」へと移行し、ASEAN地域における主要なデジタルハブとしての地位を確固たるものにする強力な推進力となるだろう。企業はこの変革を自社の東南アジア戦略における重要な機会として捉え、積極的に関与することが競争力強化につながる。

参考記事

  1. Equinix Intends to Invest Approximately $500 Million to Bring Future Proof Digital Infrastructure to Thailand
  2. Cloud First policy gets underway on Oct 1 – Bangkok Post
  3. Digital Industry in Thailand : BOI Incentives and Benefits
  4. Thailand attracts large investment in data centers, digital services – The Investor
  5. The Rise (and Risk) of Data Center: Implications – Bank of Thailand