中国政府がNVIDIA製AIチップの購入停止を指示 ~国内テック企業の技術的自立戦略が加速

中国政府がNVIDIA製AIチップの購入停止を指示 ~国内テック企業の技術的自立戦略が加速 タイ国際外交・貿易
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中国政府が国内大手テック企業に対しNVIDIA製AIチップの購入停止を指示した。この指示は2025年9月に国家インターネット情報弁公室(CAC)により発令され、ByteDance、Alibaba Group、Tencentなどの主要企業が対象となっている。これは単なる貿易摩擦の延長ではなく、中国の技術的自立戦略における重要な転換点を示すものだ。

過去の経緯と長期戦略

中国の技術的自立への取り組みは長期間にわたって進められてきた。2015年に発表された「中国製造2025」政策では、戦略的な基幹部品の自給率を70%に引き上げる目標が設定された。国家集積回路産業投資基金(大基金)を通じた数百億ドル相当の投資により、設計から製造に至る国内サプライチェーンの構築が進行してきた。

一方、米国も2018年以降にHuaweiやZTEのエンティティリスト掲載から始まり、段階的に技術的封じ込め戦略を強化している。2022年10月のバイデン政権による輸出規制では、中国が先端半導体、製造装置、さらに米国の人的資本へアクセスすることを包括的に遮断することが目的とされた。この措置により、中国にとって性能を落としたチップが唯一の選択肢となる状況が生み出された。

今回の購入停止指示の詳細

今回の禁止措置の主な標的は、NVIDIAの「Blackwell」アーキテクチャをベースとし、米国の対中輸出規制に準拠するために特別に設計されたGPU、NVIDIA RTX Pro 6000Dである。指令では、企業に対してすべてのテストを中止し、既存の注文をキャンセルするよう指示が出された。一部の注文は数万ユニット規模に及んでいたとされる。

中国の規制当局は、国内企業と協議を重ねた結果、Huawei、Cambricon、Alibaba、Baiduといった国産AIプロセッサが、米国の輸出規制下で許可されている性能を落としたNVIDIA製品と同等か、それを上回る性能を達成したと結論付けている。

この決定の背景には、中国がNVIDIAの最高性能チップに勝てると主張しているわけではなく、自国の代替品(HuaweiのAscend)が米国が購入を許可しているNVIDIAの最低性能チップよりも優れているという判断がある。これにより、国内製品への切り替えは制約された現実の中での合理的な経済的・性能的選択となる。

中国国内AIハードウェアエコシステムの成熟

中国国内におけるNVIDIAチップの主要な代替品として浮上したのが、HuaweiのAscendシリーズAIアクセラレータである。特にAscend 910Bは、NVIDIA A100の80%の効率を提供し、一部のテストでは20%上回ることもあると報告されている。

また、中国最大のファウンドリであるSMICは、米国のエンティティリストに掲載されているにもかかわらず、Ascend 910Bのようなチップの製造に不可欠な7nmクラスのプロセス技術でブレークスルーを達成している。

ただし、NVIDIAの優位性はハードウェアだけでなく、広範なライブラリと開発者コミュニティを持つ業界標準のCUDAソフトウェアプラットフォームにも支えられている。Huaweiの代替プラットフォームであるCANN(Compute Architecture for Neural Networks)は、まだ成熟度が低く、中国の弱点として残っている。

しかし、今回の国家主導の禁止措置により、Alibaba、Baidu、ByteDanceの優秀なソフトウェアエンジニアたちは、CANNエコシステムの最適化と改善に注力せざるを得なくなり、その成熟が加速する可能性がある。

NVIDIAと市場への影響

NVIDIA CEO のジェンスン・フアン氏は、この決定に対して「失望」を表明しつつも、米中間の地政学的要因が作用していることを認めている。決定的に重要なのは、NVIDIAがすでに金融アナリストに対し、将来の収益予測から中国を除外するよう助言していたことである。これは、同社がこのデカップリングを予期していたことを示している。

報道直後、NVIDIAの株価は急落した。これは、歴史的に収益の大きな割合(推定13%から25%)を占めてきた中国市場を失うことへの投資家の懸念を反映している。対照的に、SMICやAlibabaといった中国国内企業の株価は上昇した。

今後の予想

BKK IT Newsとしては、この決定が世界的なAIエコシステムの二極化を決定的に加速させると考える。今後は西側圏と中国圏の二つの異なるAIエコシステムへの分裂が進むと予想される。

西側圏はNVIDIAのハードウェア、CUDAソフトウェア、そして米国主導のオープンソースモデルによって支配される一方、中国圏はHuawei/SMICのハードウェア、CANN/MindSporeソフトウェア、そして国内データで学習された中国開発の大規模言語モデルを中心に構築される可能性が高い。

この分裂は、技術標準の乖離、ソフトウェアの非互換性、相互運用性の低下を招き、世界の研究開発ランドスケープを分断するだろう。

企業への戦略的示唆

企業は技術的デカップリングの現実を受け入れ、二つのエコシステムの狭間での戦略的選択を迫られることになる。多国籍企業はコストのかかるデュアルサプライチェーン戦略を検討する必要が生じる可能性がある。

また、今後のAI競争の主戦場はソフトウェアエコシステムへと移行する見込みだ。中国のハードウェアが「十分に良い」レベルに達しつつある中、西側が持つ主要なアドバンテージは、CUDAソフトウェアエコシステムの成熟度とネットワーク効果に残されている。

企業は技術選択においてより慎重な検討が求められ、長期的な戦略的観点から投資判断を行う必要がある。特に、サプライチェーンのリスク分散と技術的依存度の管理が重要な経営課題となる。

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