電力制約がクラウド戦争を左右する時代 ~AWS・Azure・Google Cloud、2025年Q2決算で露呈した成長の真実~

電力制約がクラウド戦争を左右する時代 ~AWS・Azure・Google Cloud、2025年Q2決算で露呈した成長の真実~ AI
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サマリー

2025年第2四半期のクラウド決算は、AI投資競争の新たな現実を浮き彫りにした。Microsoft Azure(39%成長)とGoogle Cloud(32%成長)が驚異的な伸びを示す一方、長年の王者AWS(17.5%成長)は電力制約という物理的な壁に直面し、成長が鈍化した。

3社合計で年間2,600億ドルを超える設備投資が計画される中、競争の決定要因は技術力だけでなく「電力と土地の確保」という物理的制約に移行している。これは、クラウド戦争が新たな段階に入ったことを意味する。

過去の経緯

クラウド市場の歴史的推移

過去10年間、AWSは絶対的な市場リーダーとして君臨してきた。2015年時点では市場シェア30%以上を獲得し、「クラウドファースト」戦略を推進する企業の圧倒的な選択肢だった。

しかし、2020年以降、状況は変化し始めた。Microsoftは既存のエンタープライズ顧客基盤を活かしてAzureを急拡大させ、GoogleはAI技術の先進性を武器にクラウド市場に本格参入した。

特に2023年のChatGPT登場以降、生成AI需要が爆発的に増加し、クラウド市場は再び高成長期に突入した。デジタル変革の波は世界規模で加速している。

現在の状況

2025年Q2決算の明暗

今回の決算で最も注目すべきは、各社の成長率格差である。

表:クラウド3社の決算比較(2025年Q2)

項目 Amazon (AWS) Microsoft (Azure) Google (Cloud)
売上高 309億ドル 299億ドル 136億ドル
成長率 17.5% 39% 32%
営業利益率 32.9% 49.5%(IC全体) 20.7%
市場シェア 30% 20% 13%

AWSの成長鈍化は、需要不足ではなく「電力供給の制約」が主因とされる。Amazon CEOのAndy Jassy氏は「現在、キャパシティ以上の需要がある。最大の制約は電力だ」と明言した。

電力危機の深刻度

この問題の深刻さは、データセンターが集中する北バージニア州で顕著に現れている。電力系統運用機関PJMの容量オークション価格は、2024年の28.92ドル/MW-dayから2026年予定分では329.17ドル/MW-dayへと、わずか2年で10倍以上に高騰した。

これは、AI需要がデータセンターの電力消費を前例のない規模で押し上げていることを示している。

AI投資の加速

各社は電力制約を克服するため、史上最大級の設備投資を計画している。

表:2025年設備投資計画

企業 投資額 主な投資先
Amazon 1,000億ドル超 データセンター、電力確保、AI インフラ
Microsoft 800億ドル超 Azure AIインフラ、GPU調達
Google 850億ドル TPU開発、データセンター拡張

AIサービス収益化の違い

成長率格差の背景には、AI収益化戦略の違いがある。

Microsoftは「Copilot」を既存のOffice 365エコシステムに統合し、既存顧客への直接的なアップセルを実現している。BarclaysやUBSなど大企業での全社導入が相次ぎ、これがAzureの消費を直接押し上げている。

Google Cloudは自社開発のGeminiモデルとTPUの垂直統合により、プラットフォーム上でのGemini利用量が前年比35倍に急増した。

一方、AWSはAmazon Bedrockで多様なモデルを提供する「マーケットプレイス」戦略を採用するが、インフラ中心のアプローチは即効性に欠けるとの指摘もある。

今後の予想

電力制約の長期化

新たな発電・送電インフラの本格稼働は2026年以降と予測される。それまでは物理的制約が続き、電力確保が競争力の決定要因となる。

AmazonはTalen Energyとの1,920MW原子力発電契約を締結するなど、エネルギー戦略を事業の中核に据えている。これは、クラウド戦争がエネルギー戦争の側面を強めていることを示している。

AIプラットフォーム競争の激化

2027年以降、電力制約が緩和されれば、競争は再びソフトウェアレイヤーに回帰する。この時点で重要になるのは:

  1. エージェント型AI:単純な生成AIから自律的にタスクを実行するAIエージェントへの進化
  2. カスタムシリコン:NVIDIA依存からの脱却と独自チップによる差別化
  3. エコシステム戦略:パートナー企業との連携強化

市場シェア変動の可能性

BKK IT Newsの見解として、今後2-3年でクラウド市場のシェア構造に大きな変化が起こる可能性が高い。AWSの絶対的優位が揺らぎ、Microsoft、Googleがより大きなシェアを獲得する「三強均衡」時代に突入する可能性がある。

地政学的要因も競争に影響を与える中、タイ企業は、この変化を機会として捉え、各クラウドの強みを理解した戦略的選択が求められる。

企業への影響

タイの企業にとって重要なのは、この競争激化がもたらす恩恵を最大化することだ。各社が顧客獲得に向けて積極的な価格競争と機能拡充を行う現在は、クラウド移行やAI導入の絶好のタイミングと言える。

ただし、長期的な視点から、電力制約やサプライチェーンリスクを考慮したマルチクラウド戦略の検討も必要だろう。

まとめ

2025年Q2決算は、クラウド戦争が「技術競争」から「物理的制約との戦い」へと変化したことを明確に示した。電力確保能力が競争力を左右する新時代において、各社は史上最大級の投資でこの課題に立ち向かっている。

この変化は一時的なものではない。AI需要の拡大は継続し、データセンターの電力消費はさらに増加する。クラウド業界は、持続可能なエネルギー戦略なしには成長できない時代に入ったのである。

参考記事リンク