Apple「AI危機」の深刻度 ~Metaに主要研究者4名引き抜かれ、Siri強化版は2026年まで延期~

Apple「AI危機」の深刻度 ~Metaに主要研究者4名引き抜かれ、Siri強化版は2026年まで延期~ AI
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AppleがAI開発で深刻な危機に直面している。長年の支持者として知られるWedbush証券のアナリストが、同社を「高速道路の休憩所でベンチに座っている」状態と厳しく評価した。競合他社がAI競争を激化させる中、Appleの株価は年初から15%下落し、市場価値が6300億ドル以上消失した。

Metaによる執拗な人材引き抜き

最も深刻な問題は人材流出だ。2025年夏の1ヶ月間で、Meta Platformsの新設「スーパーインテリジェンス」チームが、Appleの基盤モデルグループ(AFM)から4名の主要AI研究者を引き抜いた。

特に注目すべきは、AFMリーダーのRuoming Pang氏への2億ドル超の報酬提示だ。マルチモーダルAI研究の中心人物Bowen Zhang氏も含め、Appleの中核技術を担う人材が相次いで流出している。

この攻撃的な引き抜きは偶然ではない。Metaは自社AIモデル「Llama 4 Behemoth」の開発遅延を受け、競合他社の技術力を直接取り込む戦略に転じている。Appleにとって、単なる人材の損失を超えた戦略的破壊が進行中だ。

Siri強化版は2026年まで延期

人材流出と並行して、技術開発の遅れも深刻化している。2024年のWWDCで発表された「Apple Intelligence」は市場の期待を大きく下回った。アナリストからは「見かけ倒しで中身がない」と酷評され、投資家の失望を招いた。

決定打となったのは、AI強化版Siriの大幅な遅延だ。当初の予定から2026年まで延期され、Appleエコシステムの中核インターフェースの進化が大幅に遅れることになった。さらに、リリースされたAIニュース要約機能も不正確さから一時停止に追い込まれている。

10年続くSiriの停滞

AppleのAI危機は一夜にして生まれたものではない。2011年にSiriを買収し、AI分野の先駆者となったAppleだが、その後10年間で競合他社に大きく水をあけられた。

原因は同社の厳格な部門間縦割り構造にある。Siriが各OS機能やサードパーティアプリと深く連携し、真に有能なアシスタントへ進化することを阻んできた。Google AssistantやAmazon Alexaがクラウドの力で急速に進歩する中、Siriは機能面で見劣りする状況が続いている。

プライバシー重視がAI時代の足枷に

Appleの強みであるプライバシー重視戦略が、生成AI時代では弱点となっている。同社はユーザーデータを可能な限りデバイス上で処理する「オンデバイスAI」を追求する。

しかし、最先端の大規模言語モデルは膨大なデータと巨大な計算能力が必要だ。Appleのアプローチは原理的に制約があり、競合他社のクラウドベースモデルとの性能差を生んでいる。これは「イノベーターのジレンマ」の典型例と言える。

Perplexity買収提案の是非

危機打開策として、AI検索スタートアップPerplexity AIの買収が提案されている。Wedbushアナリストは140億ドルから400億ドルでの買収を「当然の選択」と主張する。

Perplexityの対話型AI技術でSiriを即座に強化でき、Googleへの年間200億ドルの依存からも脱却できる。しかし、同社には著作権侵害の法的リスクがあり、Apple史上最大規模の買収は文化的統合も困難だ。

市場の厳しい評価

投資家はAppleのAI戦略に厳しい視線を向けている。2025年、同社株価は主要ハイテク企業の中でTeslaに次ぐワーストパフォーマンスを記録した。

Morgan Stanleyは楽観的に、AI機能が7億台の古いiPhoneの買い替えを促進し「スーパーサイクル」を生むと予測する。一方でUBSなど一部は、iPhoneがAIエージェントへのインターフェース変化でコモディティ化するリスクを警告している。

今後の展望

Appleは重大な岐路に立っている。成功すればAIがもたらすハードウェア更新需要で新たな成長軌道に乗れる。しかし対応を誤れば、長年築いた市場支配力を失いかねない。

同社は新たなリーダーシップ体制の下、Private Cloud Computeによるハイブリッド戦略を推進している。プライバシーを保護しながらクラウドの計算能力を活用する技術だが、その成否がAppleの未来を決定する。

BKK IT Newsとしては、AppleがAI時代に適応できるかは企業の変革力にかかっていると考える。従来の成功体験にとらわれず、大胆な戦略転換が求められている。

参考記事

Apple’s $10B AI Crisis. 3 Bold Moves To Reinvent Its Future.

Brain drain: Apple loses fourth AI researcher to Meta Platforms

Why Apple Needs to ‘Rip the Band-Aid Off’ and Make This Move, According to Wedbush

Apple’s AI white whale will drag on earnings & can’t be fixed internally, says Wedbush

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