ADB タイ初のグリーン認証データセンター支援 ~9億バーツ融資でアジアのデジタルハブ戦略が本格化~

ADB タイ初のグリーン認証データセンター支援 ~9億バーツ融資でアジアのデジタルハブ戦略が本格化~ クラウド
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アジア開発銀行(ADB)がタイのGSA Data Center 01 Company Limited (GSA)に9億タイバーツ(約2,680万~2,780万米ドル)のグリーンローンを供与することが決定した。このプロジェクトはADBにとってタイ国内およびより広範な地域におけるデータセンターセクターへの初の融資案件となる。タイ政府が推進する「タイランド4.0」デジタル戦略と「バイオ・サーキュラー・グリーン(BCG)」経済モデルが具体化した重要な事例だ。

タイのグリーンインフラ戦略の転換点

タイ政府は長年にわたり製造業中心の経済構造から、テクノロジーとイノベーションが主導するモデルへの転換を図ってきた。2018年頃に打ち出された国家戦略「タイランド4.0」では、急成長するデジタル経済を支えるためのデジタルインフラの整備が明確に含まれている。一方で、BCG経済モデルは地球規模の持続可能性への圧力に対するタイの戦略的な回答として、バイオエコノミー、サーキュラーエコノミー、グリーンエコノミーの三つの原則を統合したものだ。

今回のGSAプロジェクトは、これまで別々の取り組みとして捉えられがちだった両戦略を「持続可能なデジタルトランスフォーメーション」という一つの首尾一貫した物語に統合した。標準的なデータセンターであればタイランド4.0の目標しか満たせないが、グリーン認証を受け、グリーンローンで資金調達されたデータセンターは、両方の目標を同時に達成する。

GSAプロジェクトの戦略的優位性

GSAプロジェクトの成功は、その背後にいる強力なステークホルダーの組み合わせによって大きく支えられている。運営主体のGSA Data Center 01 Company Limited (GSA)は、タイ最大級の独立系発電事業者Gulf Development、シンガポールを拠点とする地域の通信大手Singtel、タイを代表する通信事業者AISの合弁事業パートナーで構成されている。

この構造は戦略的に極めて優れている。データセンター運営における二大重要要素である「電力」と「接続性」を確保するため、国内のエネルギー最大手、国内通信最大手、そして地域の通信大手が結集している。Gulfはタイの複雑な電力網を熟知しており、電力調達と供給安定性に関するリスクを管理する。一方、AISとSingtelは、データセンターに不可欠なネットワーク接続性を提供し、同時に潜在的な主要テナントとしての役割も果たしうる。

環境認証と国際標準への適合

本プロジェクトが「グリーンローン」の対象となった背景には、検証可能な業界標準に基づいた環境・社会・ガバナンス(ESG)への明確な取り組みがある。施設は設計上のPUE値が1.4となるよう計画されており、これは旧来の施設よりも大幅に優れたエネルギー効率を示す指標だ。

さらに、プロジェクトはTier III認証の取得を目指している。これは99.982%の稼働時間を保証するものであり、ハイパースケールクラウド事業者や大企業にとって不可欠な要件である。持続可能な建物の設計、建設、運営に関する世界的に認知された基準であるLEEDゴールド認証の取得も予定されている。

ADBの「バイオ・サーキュラー・グリーン成長技術支援プログラム」が、本プロジェクトの環境デューデリジェンスや再生可能エネルギー調達オプションの評価において重要な役割を果たした。これらの具体的な環境目標と国際認証の取得計画は、本プロジェクトが名実ともに「グリーン」であることを示している。

地域市場での競争優位性

タイのデータセンター市場は急速な成長を遂げている。市場分析会社DC Byteのレポートによると、バンコクはマレーシアのジョホールに次ぐ地域第2位の市場に急浮上し、総IT容量は2.5GWを超えている。この成長は爆発的であり、バンコクの総IT容量は2019年から2024年の間に20倍以上に増加した。

この成長の背景には、シンガポールにおけるデータセンター新設の一時停止措置があり、投資がタイ、マレーシア、インドネシアといった新興市場へと向かう要因となっている。Amazon Web Services(AWS)、Google、Microsoftなどのハイパースケールクラウド事業者からの大規模な投資コミットメントが、この市場の爆発的な成長を牽引している。

現在、クラウドサービスはタイのデータセンター総容量の約38%を占めているが、人工知能(AI)からの需要が急増しており、その割合は2024年の20%から2025年初頭には28%に上昇すると予測されている。GSAプロジェクトは、このAIブームに対応する高密度・高性能なインフラを提供するように設計されている。

ADBローンの戦略的意義

ADBの民間セクター向け融資戦略は、特に持続可能なインフラ分野において、高い開発インパクトを持つプロジェクトへの民間投資を促進することに重点を置いている。GSAへの融資は、ADBがこの戦略をデータセンターセクターに適用した初めてのケースだ。

この行為自体が強力な裏付けとなり、より広範な民間金融市場に対して、東南アジアにおけるグリーンデータセンターが融資可能で、かつ開発上健全な資産クラスであることを示している。ADBが融資を現地通貨(タイバーツ)建てで実行したことにより、プロジェクトは為替変動リスクから保護される。

今後の予想と課題

BKK IT Newsは、このプロジェクトがタイの持続可能なデジタルハブ戦略にとって重要な概念実証(Proof-of-Concept)になると予想している。データセンター産業の急速な成長は、膨大な電力需要を生み出すため、この需要を信頼性が高く、かつ環境に配慮した形で満たすためのグリーンエネルギーインフラの拡充が最大の課題となるだろう。

国内にデータセンターが設置されることで、通信の遅延(レイテンシー)が大幅に削減される。これは、フィンテック、スマート製造(インダストリー4.0)、遠隔医療、電子政府サービスといった高度なアプリケーションの開発にとって不可欠である。世界クラスのデジタルインフラの存在は、強固なエコシステムを形成し、国内のテック系スタートアップの参入障壁を下げ、中小企業がより効果的に事業をデジタル化することを可能にするだろう。

企業への提言

企業には複数の戦略的選択肢が提示される。まず、高品質なデジタルインフラを活用した新たなビジネスモデルの検討が考えられる。データセンターへの投資流入は、ITオペレーション、サイバーセキュリティ、エンジニアリングといった分野で高度なスキルを持つ雇用の機会を創出する可能性がある。

一方で、データセンターは極めて電力集約的な施設であり、エネルギー消費に対する関心も高まっている。企業は自社のデジタル戦略とサステナビリティ戦略を統合的に検討する選択肢もある。また、グリーン認証データセンターの利用により、企業自身のESG目標達成への貢献も期待される。

タイの「持続可能なデジタルハブ」戦略の成功は、最終的には国のエネルギー政策立案者の手にかかっている。GSAプロジェクトのような取り組みは、巨大で集中した新たな電力需要を生み出すため、企業もこうした国家レベルの政策動向を注視し、長期的な事業戦略に反映させることが重要だろう。

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