タイ政府が2024年7月に導入したデスティネーション・タイランド・ビザ(DTV)に重大な欠陥が判明している。政府が約束した180日間の国内延長が実質的に機能せず、外国人長期滞在者は代替手段としてEDビザへの回帰を余儀なくされている。この制度の混乱は、タイのビザ政策における深刻な問題を浮き彫りにしており、経営者が知るべき現実的な選択肢を検証する。
DTVビザ延長問題の深刻化
DTVの最大のセールスポイントは、180日の滞在許可に加え、国内で追加180日の延長が可能という点だった。これにより理論上は360日間の連続滞在が実現できるはずだった。しかし、導入から1年が経過した現在、この延長制度は機能していない。
全国の入国管理局では、DTVの延長申請を処理するための明確なガイドラインが存在しない。現場の担当官は審査基準がわからず、申請受理を拒否するケースが続出している。チェンマイの入国管理局では、タイの銀行口座での預金証明を求めるという、本来の申請要件にない条件を課している事例も報告されている。
この結果、DTV保持者は180日の滞在期限前に一度出国し、再入国する「ビザラン」を強制されている。政府が撲滅しようとしてきた慣行を、最新のビザ制度が自ら助長するという皮肉な状況が生まれている。
EDビザが代替選択肢として台頭
DTVの機能不全により、外国人長期滞在者の間で教育(ED)ビザが再び注目されている。EDビザは本来、タイの認定教育機関で学ぶ学生向けのビザだが、バンコクやチェンマイの語学学校が「EDビザパッケージ」として商品化している。
これらの学校は、タイ語や英語のコースと、EDビザ取得のための包括的なサポートをセットで提供している。教育省への書類提出から入国管理局での手続きまでの煩雑なプロセスを代行し、8ヶ月から14ヶ月の長期プログラムを展開している。料金は年間20,000~50,000バーツ程度で、DTVの延長が機能しない現状では、予測可能な選択肢として需要が高まっている。
各ビザ制度のリスク比較
DTVとEDビザには、それぞれ異なるリスクが存在する。DTVの最大の問題は行政の予測不可能性だ。政府が公式に約束した延長手続きが現場で履行されず、180日ごとの出国を強制される。
一方、EDビザの利用には重大な法的リスクが伴う。本来就学を目的とするこのビザで長期滞在やリモートワークを行うことは移民法違反にあたる。発覚した場合、強制送還やブラックリスト登録といった厳しい処罰が科される可能性がある。また、入国管理局による突然の取り締まりリスクは常に存在している。
政策の根本的問題と経済影響
この混乱の根源は、省庁間の連携不足にある。政策を立案した外務省・観光スポーツ省と、執行する入国管理局との間に深刻な断絶が存在している。DTVは入国管理局に「押し付けられた」政策であり、制度運用のための内部枠組みが構築されていない。
長期滞在者の存在は、短期観光客より一人当たり消費額が大きく、持続的な経済貢献が期待できる。しかし、特定地域への集中は家賃高騰やジェントリフィケーションのリスクもはらんでいる。また、EDビザの悪用拡大は、タイの教育システムの誠実性を損なう懸念がある。
BKK IT Newsの見解
タイ政府は直ちに省庁間の連携を強化し、DTVの延長手続きを当初の政策意図通りに機能させる必要がある。統一された規則の公布と全国の入国管理局での一貫した適用が急務だ。
同時に、EDビザの悪用を防ぐため、一貫した監視体制の導入も求められる。散発的な取り締まりではなく、リスクベースの継続的な監督・監査システムが必要だ。
企業経営者は、この不安定な状況を踏まえ、駐在員の長期滞在計画を慎重に検討すべきだ。法的リスクと行政の不確実性を適切に評価し、最も安定した選択肢を模索することが重要である。
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– タイのDTVビザ導入から1年で35,000件の申請を突破も、約束された180日間の国内延長が機能せず「ビザラン」を強要される実態が明らかに
参考記事リンク
– Thailand’s Digital Nomad Visa Surpasses 35,000 Applicants in Its First Year – IMI Daily
– Thai “DTV Visa Extension Denied”? – Integrity Legal
– DTV extension looks more of a hassle than a new border run – Pattaya Mail
– ED Visa – Rak Thai Language School
– Thailand Student Visa – Application and Requirements – VisaGuide.World