「LOCO(AL)」でタイが挑む観光革新 ~デジタルノマド市場で地方経済の活性化図る~

「LOCO(AL)」でタイが挑む観光革新 ~デジタルノマド市場で地方経済の活性化図る~ タイノマド
タイノマド

タイ政府観光庁(TAT)が新たに立ち上げた「LOCO(AL) Working Space」キャンペーンが、デジタルノマド誘致戦略の新たな柱として注目を集めている。リモートワークと地域社会への深い没入を融合させることで、従来の観光とは一線を画した体験を提供する取り組みだ。デジタルノマドの数が過去3年間で1,500万人から3,500万人へと倍増する中、タイは質の高い長期滞在者を誘致し、地域経済の活性化と観光収入の多様化を目指している。

TATは6月25日、このキャンペーンを正式に発表した。デジタルノマドが「グローバルな接続性を維持しながら、本格的なタイのコミュニティ内で生活し、働くこと」を奨励し、「SPACE TONES」と呼ばれる独自の作業環境を通じて、生産性とインスピレーション、全体的な幸福感を高めることを目指している。

3つの地域で展開する「SPACE TONES」

キャンペーンは、チェンマイ、バンコク、プーケットの3つの主要地域で展開される。

チェンマイ(バレー・スペース)では、伝統と現代性が調和した環境を提供する。市内のコワーキングスペースに加え、メー・クラン・ルアンの棚田とカレン族の文化、メー・メーのエコツーリズムと地元コーヒー、メー・サー・ノイの滝とゾウの体験など、穏やかな山岳コミュニティへの没入を促進する。

バンコク(クラシック・スペース)は、歴史と現代性が共存する都市体験を強調する。トロク・ディロックチャンなどの文化的な路地では、何世紀も前の建築が流行のカフェや個性豊かなコワーキングスペースと融合し、創造的な都市の作業環境を提供している。

プーケット(アイランド・スペース)では、穏やかな島の生活に焦点を当てる。コー・ロンの静かなビーチと友好的な地元住民、コー・ナカ・ヤイの人里離れた島とガラスのような湾、プーケット旧市街の植民地時代の建築とトレンディなカフェが、それぞれ異なる魅力を提供する。

長期戦略の一環として位置づけ

LOCO(AL)キャンペーンは、タイ政府の長期的な戦略の延長線上にある。2021年9月には富裕層や専門家を長期滞在者として誘致する措置が閣議承認され、2026年までに100万人を目標とすることが掲げられた。この政策枠組みには「タイで働く専門家」や「デジタル」産業の「高度熟練専門家」が明示されており、リモートワークのトレンドを早期に認識していた。

さらに、2023年2月に承認された「タイのデジタル政府開発計画2023-2027」では、「国民のための便利で透明性のある現代的な政府サービス」というビジョンが打ち出されている。公共部門のデジタル変革、便利でアクセスしやすいサービスの開発、ビジネスへの価値創出といった戦略が、リモートワークを支援する強固なデジタルインフラの構築に貢献している。

DTVで受け入れ体制を整備

短期的な政策調整も着実に進んでいる。2024年6月1日から正式に導入された「Destination Thailand Visa (DTV)」は、デジタルノマドおよびリモートワーカー向けの新しいビザだ。5年間の複数回入国を可能にし、1回の入国につき最大180日まで滞在できる。申請には50万バーツ以上の資金証明と1万バーツの申請料が必要となる。

DTVの対象範囲は幅広く、リモートワーカー、デジタルノマド、フリーランサーに加え、ムエタイ、料理教室、スポーツトレーニング、医療、セミナー、音楽祭への参加者も含まれる。この広範な対象設定は、リモートワークと文化体験の統合を意図したタイ政府の明確な取り組みを示している。

経済効果への期待と課題

デジタルノマドは従来の観光客と比較して、平均6ヶ月という長期滞在と月間約64,000バーツという高額な支出を特徴とする。年間を通じて旅行し、有名な観光地だけでなく地方の隠れた名所も探索する傾向があるため、観光収入源をより安定させ、地理的に分散させる効果が期待される。

実際に「Thailand Nomads」プラットフォームからのデータでは、地域施設における売上や予約の顕著な増加が報告されており、あるゲストハウスでは30%の予約増加を記録している。DTVの導入により、ホームステイ、月間レンタル、コワーキングスペースといった新しい地域ビジネスの機会が創出され、新たなサービスエコシステムの育成が進んでいる。

一方で、他のデジタルノマドハブからの教訓は重要な課題も示している。チェンマイでは、かつて安価だった学生街でコワーキングスペースやカフェの増加により家賃が高騰し、ジェントリフィケーションが進んだという報告がある。バリ島チャングーの事例では、デジタルノマドの流入が経済的利益をもたらす一方で、地元住民は不動産価格や生活費の高騰に直面し、経済的利益の不均等な分配が生じている。

持続可能な成長への道筋

タイ政府は「持続可能なグリーンツーリズム」の推進と「将来にわたって持続可能な目的地」というビジョンを掲げている。LOCO(AL)キャンペーンは、観光客を地方都市に分散させ、本格的な地域社会への没入を促進することで、過剰訪問地域の圧力を軽減し、より責任ある旅行パターンを奨励することを目指している。

キャンペーンの成功は、地域コミュニティが観光計画に積極的に関与し、利益を共有できる仕組みの構築にかかっている。地域主導のビジネスを支援し、観光収入が地域経済に再投資されるメカニズムの確立が不可欠だ。また、デジタルインフラの改善、廃棄物管理システムの強化、持続可能な交通手段の開発といった包括的なインフラ整備も重要な要素となる。

タイのデジタルノマド戦略は、単なる観光促進策を超えて、質の高い長期滞在者を誘致し、地域経済の持続可能な発展を実現する包括的な取り組みとして注目される。LOCO(AL)キャンペーンの成果が、タイの観光業界の新たなモデルケースとなるか、今後の展開が期待される。