タイのデジタルGDP成長 6.2%達成予測 ~データセンター投資とクラウド政策が牽引~

タイのデジタルGDP成長 6.2%達成予測 ~データセンター投資とクラウド政策が牽引~ IT
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タイのデジタル経済社会省は、2025年のタイのデジタルGDPが前年比6.2%の成長を遂げると予測している。この成長率は、タイ全体のGDP成長率予測1.8%の3.4倍に相当する驚異的な数値だ。デジタル経済がタイの経済拡大において、まさに主要な推進力となっていることが明確に示されている。

データセンター投資が最大の成長エンジン

この成長を牽引している最大の要因は、データセンターへの大規模投資である。タイのデータセンター市場は、2023年の6億5200万ドルから2030年には15億4580万ドルへと年平均成長率13.1%で急拡大が予測されている。

外国直接投資も活発だ。Amazon Web Services(AWS)、Google Cloud、Microsoft Azureといった主要クラウドプロバイダーが現地でのデータセンター運営を設立・拡大している。2024年の投資促進申請は1.14兆バーツ(330億ドル)に急増し、2014年以来の最高水準を記録した。

具体的な投資事例も続々と発表されている。シンガポールのDigital EdgeとタイのB. Grimm Power Pclが10億ドル規模の100メガワットデータセンターを建設する。2026年第4四半期に稼働開始予定だ。さらに、GIP-BlackRockは30億〜50億ドルをタイのデータセンター開発に投資する計画を明らかにしている。

クラウドファースト政策の継続推進

政府のクラウドファースト政策も継続されている。この政策により、政府機関はITインフラのニーズに対してクラウドサービスを優先することが義務付けられている。効率性向上、コスト削減、サイバーセキュリティ強化が目的だ。

デジタル政府開発庁(DGA)が政府クラウドサービスの管理機関として任命されており、クラウドサービスプロバイダーの登録、標準の監視・確保、クラウドプロジェクトの監督を担っている。

法的枠組みも整備されている。2022年6月施行の個人情報保護法(PDPA)はEUのGDPRに準拠し、クラウド導入を支援する基盤となっている。また、クラウドサービスはタイ国内設置が推奨されており、データ主権とアクセス権の確保が重視されている。

デジタル政府プロジェクトの具体的進展

デジタル政府プロジェクトも具体的な成果を見せている。ThaIDやPromptPayといったデジタルIDおよび決済システムの普及により、金融包摂とデジタル政府、e-コマースの拡大のための強固な基盤が提供されている。

注目すべき最新の進展として、2025年7月5日にデジタル経済社会省がAI搭載の「WebD」プラットフォームを発表した。このプラットフォームは違法ウェブサイトの特定とブロックのプロセスを31.5倍高速化し、年間10万件以上の違法URLを処理する能力を持つ。

さらに、28の省庁・機関との覚書締結により、障害者や高齢者などの脆弱なグループのデータベース連携・強化も進められている。これにより、より個別化された効果的なサービス提供が可能になる。

デジタル決済の急速な普及

デジタル決済分野も目覚ましい成長を見せている。プリペイドカードおよびデジタルウォレット市場は2025年に186.4億ドルに達し、年率15.8%で成長すると予測されている。

COVID-19パンデミックがデジタル決済の採用を劇的に加速させた。デジタルコマースの取引額は2020年の約1500万ドルから2023年には3100万ドルに急増し、2027年には5100万ドルに達すると予測されている。

モバイル普及率も高い。2023年初頭の時点で141%に達し、1億120万のアクティブな携帯電話接続がある。デジタルウォレットの利用率は2017年の2%から2022年には23%へと急増している。

主要なデジタルウォレットとしては、TrueMoney(52.6%)、Rabbit LINE Pay(24.7%)、ShopeePay(8.1%)などが挙げられる。PromptPayも2023年12月時点で7720万人の登録ユーザーを抱えている。

日系企業への示唆

これらの変化は、タイで事業を展開する日系企業にとって重要な意味を持つ。デジタル化の波に乗ることで、業務効率化やコスト削減、新たなビジネス機会の創出が期待できる。

特に製造業では、IoTやAI技術を活用したスマートファクトリー化により、生産性向上や品質管理の高度化が可能になる。また、デジタル決済の普及により、小売業や飲食業では顧客の利便性向上と売上拡大が見込める。

ただし、デジタル人材の不足という課題もある。タイの人口に占めるデジタルスキル専門家の割合はわずか1%にとどまっている。人材育成への投資と現地人材のスキルアップが重要になる。

今後の展望

タイのデジタル経済は順調な成長軌道にある。政府の強力な政策支援、民間投資の活発化、デジタルインフラの充実により、今後も持続的な成長が期待される。

世界銀行も「デジタル技術がタイの競争力向上、雇用創出、生産性向上を促進する触媒である」と評価している。タイのデジタル経済はASEAN地域で2番目の規模を誇り、GDPの約6%を占めている。

日系企業にとっては、この成長する市場への参入と現地でのデジタル変革が重要な戦略課題となるだろう。早期の対応により、競争優位を築くことが可能になる。


参考記事
Thailand’s Digital Future Key to Boosting Growth – World Bank
Digital Economy Is Driving Thailand’s Economic Growth
Thailand launches AI-powered “WebD” platform to tackle illegal websites