YouTube収益化の大転換 ~AIスロップ排除でタイクリエイター淘汰加速、質重視の時代へ~

YouTube収益化の大転換 ~AIスロップ排除でタイクリエイター淘汰加速、質重視の時代へ~ AI
AIITデジタルガバナンス

YouTube が今日(2025年7月15日)から新しい収益化ポリシーを施行した。AI生成コンテンツや大量生産された反復的なコンテンツの収益化を厳格に制限する内容だ。この変更は、タイのクリエイターエコノミーに大きな影響を与える。特に「AIスロップ」と呼ばれる低品質なAI生成コンテンツに依存してきたチャンネルは、収益化停止のリスクに直面している。

背景:AIコンテンツ氾濫への対策

YouTubeは2019年からオリジナル性と信頼性を収益化の基盤としてきた。しかし近年、生成AI技術の普及により状況が一変した。専門知識がなくても大量のコンテンツを制作できるようになり、プラットフォームには「AIスロップ」が氾濫している。

AIスロップとは、AI合成音声がスクリプトを読み上げるだけの動画や、わずかな変更を加えただけのテンプレートベースのコンテンツを指す。これらは人間的な付加価値がほとんどなく、視聴者を疲弊させる原因となっていた。広告主も、自社広告が低品質コンテンツの隣に表示されることへの懸念を強めていた。

YouTube自身もDream ScreenやVeoといったAI生成ツールを提供してきた。しかし技術の進歩が同時に品質低下も招いたため、収益化という強力な手段でバランスを取ることにした。

新ポリシーの詳細内容

今回のポリシー更新は「大量生産された反復的なコンテンツ」と「AIスロップ」を明確に定義している。収益化が停止される具体例は以下の通りだ。

収益化停止対象:
– AI合成音声がブログ記事を読み上げるだけの動画
– わずかな変更を加えただけのテンプレートベースコンテンツ
– 創造的変革を伴わない他者クリップの再利用
– 反復的なスライドショーやコンピレーション

収益化継続可能:
– AIツールを補助的に活用し、人間が明確な価値を加えたコンテンツ
– 人間的な解説や批評を加えたリアクション動画
– 独自の洞察やストーリーテリングを含む動画

重要なのは、AIの利用そのものは禁止されていない点だ。スクリプト作成、編集補助、字幕生成などでのAI活用は引き続き推奨される。問題は、AIが「代替」ではなく「補助」として機能しているかどうかだ。

タイクリエイターへの影響

この変更は、タイのクリエイターエコノミーに直接的な影響を与える。特に以下の層がリスクに直面している。

高リスク層:
– AI合成音声やストック映像を多用する「顔出しなし」チャンネル
– 自動生成コンテンツに依存するコンテンツファーム
– 大量のAI依存チャンネルを抱えるMCN

MilXの調査によると、AIツールを週に利用するクリエイターは74%に上る。しかし完全にAI生成コンテンツを制作しているのは9%に過ぎない。これは多くのクリエイターが既に補助的活用をしていることを示している。

既存チャンネルも過去の動画が新ポリシーに抵触する場合、収益化停止の可能性がある。クリエイターは自身のコンテンツライブラリを能動的に見直し、必要に応じて修正や非公開化が求められる。

新たな機会への転換

一方で、この変更は新たな機会も創出する。低品質なAIスロップが排除されることで、アルゴリズムの「ノイズ」が減り、真に価値のあるコンテンツがより多くの視聴者に届く可能性が高まる。

成功戦略:
– 人間による創造性と付加価値の最大化
– AIの「賢い」活用(自動化ではなく創造性増幅として)
– 視聴者との真のエンゲージメント強化
– 既存コンテンツの監査と改善

東南アジア、特にタイではYouTubeが最も視聴されている動画プラットフォームだ。Googleの調査では、タイのユーザーがYouTubeクリエイターを他のプラットフォームより信頼していることが示されている。この高い信頼性は、質の高いオリジナルコンテンツを制作するクリエイターにとって大きな強みとなる。

タイのAI戦略との連携

YouTubeのポリシーは、タイ政府のAI開発戦略と方向性が一致している。タイ政府は「人間中心のアプローチ」を提唱し、AIが人間の労働を置き換えるのではなく、能力を補完する「力乗数」として機能することを重視している。

タイは2027年までにASEANのAIハブとなることを目指している。AI人材育成やインフラ投資を進める中で、YouTubeの「人間による付加価値」重視の姿勢は、国のデジタルエコシステム全体の品質向上を後押しする。

タイのメディア業界でも、AIを活用したニュースアンカーやライブコマースが導入されている。しかし誤情報や倫理的境界線への懸念も高まっており、YouTubeのポリシーはこれらの課題解決にも貢献する。

今後の展望と戦略

YouTubeは「量」から「質」へのシフトを明確に示した。今後はより洗練された、人間中心のコンテンツが評価されるプラットフォームへと進化していく。

タイのクリエイターが取るべき戦略は明確だ。AIでは代替できない独自の視点、深い分析、個人的なストーリーテリングをコンテンツの中心に据える必要がある。顔出しや自身の声を使うなど、クリエイターの個性を前面に出すことが重要になる。

単なるビュー数稼ぎではない、視聴者との真の対話を深めることも求められる。タイのクリエイターは文化的な共感や個人的なつながりを強みとして、この側面を強化できるだろう。

提言

タイの日系企業経営者やマネージャーにとって、この変化は重要な示唆を与える。デジタルマーケティング戦略において、量より質を重視する姿勢がますます重要になる。

YouTubeでのブランド発信を検討する際は、AIツールを補助として活用しつつ、人間的な要素を強化したコンテンツ制作が求められる。タイの文化や市場特性を深く理解したローカライゼーションが、競争優位の源泉となるだろう。

BKK IT Newsとしては、この変化をタイのデジタルエコノミー成熟の契機と捉えている。AI技術の適切な活用と人間の創造性が融合することで、より持続可能で価値のあるコンテンツエコシステムが構築されることを期待する。

タイのクリエイターには、この挑戦を機会として捉え、東南アジアにおける責任あるAIコンテンツ制作のリーダーとしての地位確立を目指してもらいたい。質重視の時代において、タイの文化的豊かさと技術革新の融合が、新たな価値創造の鍵となるはずだ。

参考記事

  1. YouTube Clarifies Changes to Monetization Rules Around Mass-Produced and Repetitious Content – https://www.socialmediatoday.com/news/youtube-clarifies-monetization-update-inauthentic-repeated-content/752892/
  2. What YouTube’s New AI Policy Means for Your Feed – https://www.movieguide.org/news-articles/youtube-will-no-longer-monetize-mass-produced-ai-content.html
  3. YouTube’s New Authenticity Push: Unoriginal Content Faces Monetization Ban – https://influencermarketinghub.com/youtube-authenticity-unoriginal-content-faces-monetization-ban/
  4. How we’re helping creators disclose altered or synthetic content – https://blog.youtube/news-and-events/disclosing-ai-generated-content/
  5. Google brings AI updates to Search and YouTube in Southeast Asia – https://www.marketingtechnews.net/news/google-brings-ai-updates-to-search-and-youtube-in-southeast-asia/