日本企業のAI活用が進まない理由とタイとの比較で見えた文化的課題【2025年最新】

日本とタイのAI活用比較を表すオフィス環境とデジタルネットワークのイメージ AI
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日本では個人の生成AI利用率が26%まで上昇したものの、企業レベルでの本格的なAI活用は依然として遅れている。一方で、東南アジアの主要国であるタイは積極的なAI国家戦略を展開し、急速にAI導入を進めている。両国の比較から見えてきた、日本企業が抱える構造的な課題を分析する。

日本のAI活用の現状と課題

総務省の最新データによると、日本の個人の生成AI利用率は26%となり、昨年の9.1%から大幅に改善した。しかし企業レベルでは状況が異なる。PwCの調査では、何らかの形でAIを活用している企業は65%に達するが、「積極的に活用する方針」を持つ企業はわずか15.7%に留まっている。

この数値は中国の71.2%と比較すると大きな格差がある。特に中小企業では深刻で、大企業の16.5%に対し、中小企業のAI導入率は5.6%と3分の1程度だ。

日本企業のAI活用が進まない理由として、以下の構造的課題が挙げられる。

データ活用の遅れ
日本では個人情報保護に対する意識が非常に高く、企業が顧客データを自由に活用しにくい環境がある。企業や官公庁ごとにデータ形式もバラバラで、横断的な活用が困難な状況が続いている。

IT・AI人材の圧倒的不足
データサイエンティストやエンジニアが圧倒的に不足している。経済産業省の調査では、2030年にはAI人材が最大で12.4万人不足すると予測されている。優秀なAI人材の海外流出も深刻な問題だ。

レガシーシステムと保守的企業文化
多くの日本企業では古いITシステムが残っており、新しいAI技術の導入が困難な状況にある。システム変更に対して消極的で、「現状のままでいい」という考えが根強い。失敗を恐れる企業文化も、AI導入への挑戦を阻んでいる。

タイの積極的なAI戦略

対照的に、タイは国を挙げてAI推進に取り組んでいる。2022年に策定した「国家AI行動計画(2022-2027)」では、2027年までにASEANのAIハブとなる明確な目標を掲げている。

タイのAI導入率は18%だが、73%の企業がAI導入を計画していると回答している。この高い導入意欲の背景には、政府の強力なリーダーシップがある。

首相が議長を務める国家AI委員会を設置し、1000万人のAIユーザー、9万人の専門家、5万人の開発者の育成目標を設定した。Amazon、Apple、Alphabetなどのグローバルテック企業と提携し、GPUクラウドサービスやAIトレーニングプラットフォームの整備を進めている。

注目すべきは、タイの知識労働者の92%が仕事でAIを利用している点だ。この数値は世界平均の75%を大きく上回る。タイ社会が新しい技術に対して比較的オープンであることを示している。

文化的な違いが生む格差

日本とタイの比較から見えてくるのは、AI導入に対する文化的なアプローチの違いだ。

日本企業は変化を避け、失敗を恐れる傾向が強い。年功序列・終身雇用の文化が根強く、新しい技術を持つ若手が活躍しにくい環境がある。AIの開発には試行錯誤が不可欠だが、「失敗を避ける文化」がAI導入への挑戦を阻んでいる。

また、日本企業はAIを「意思決定者」ではなく「サポートツール」と見なす傾向がある。人間中心の価値観や、合意形成に時間をかけるビジネス文化が背景にある。

一方でタイは、政府が明確なビジョンとロードマップを示し、それを実行するための具体的な行動を伴っている。官民連携によるインフラ整備や人材育成を強力に推進し、国際的な連携も積極的に進めている。

日本が取るべき対策

日本企業がAI活用を加速するためには、以下の対策が必要だ。

経営層の意識改革
AIを単なるツールではなく、企業の競争力強化とビジネスモデル変革の核と位置づける必要がある。短期的なROIだけでなく、長期的な企業価値向上の視点から評価すべきだ。

企業文化の変革
失敗を恐れず、新しい技術に挑戦できる企業文化を醸成することが不可欠だ。AI導入に伴う業務プロセスの見直しや、従業員のリスキリング・アップスキリングを積極的に支援する必要がある。

政府の役割強化
政府は「AI推進法」に示されたアジャイルガバナンスの原則を徹底し、イノベーションを阻害しない範囲での法整備を進めるべきだ。国産LLM開発や計算資源の整備への投資も重要だ。

BKK IT Newsは、日本企業が文化的な障壁を乗り越え、AI時代における競争力を確保することが急務だと考える。タイの積極的な取り組みから学び、日本独自の強みを活かしたAI戦略の構築が求められている。