2025年8月1日。この日からタイの輸出企業は厳しい現実と向き合うことになる。トランプ米政権が発効する新関税により、タイ製品には36%の関税が課される。一方でベトナムは20%。この16%の差が、タイ経済に深刻な影響をもたらす可能性が高い。
予想以上に厳しい関税率
7月8日、トランプ大統領はSNS「Truth Social」で各国への関税率を発表した。タイの36%という数字は、4月の発表から据え置かれたものだ。タイ政府は5月に米国へ譲歩案を提出していた。しかし結果は変わらなかった。
この36%は周辺国と比較して明らかに不利だ。ベトナム20%、マレーシア25%、インドネシア32%。タイはASEAN主要国の中で最も高い関税率を課されている。税コストだけでベトナムに16%、マレーシアに11%も不利な立場に置かれる。
主力輸出品への集中打撃
タイの対米輸出の中核を占めるのは、コンピューター部品・装置(42.9%)と電話・部品(31.6%)だ。これらの製品群がタイ総輸出の8.2%を占める。36%の関税はこうした主力商品を直撃する。
専門家は「外国投資家が生産拠点をタイから関税率の低い国へ移転させる可能性が高まる」と警告している。特にベトナムへの投資シフトが加速する見込みだ。
タイ政府の対応策
タイ政府は交渉継続を表明している。しかし時間は限られている。8月1日まで3週間を切った状況で、抜本的な関税引き下げを勝ち取るのは困難とみられる。
国内対策として、以下の措置が提案されている:
- 関税影響企業への低金利融資
- 法人税減税による支援
- 国内コンテンツ利用促進
- 市場多角化の推進
8,000億バーツの損失リスク
効果的な対策が講じられなければ、輸出部門への損害は8,000億~9,000億バーツに達する可能性がある。これはタイGDPの約4-5%に相当する規模だ。
短期的には「テクニカル・リセッション」のリスクも指摘されている。ただし直ちに経済危機に陥るものではない。問題は中長期的な競争力低下にある。
外交バランスの再考を迫られるタイ
今回の関税措置は、タイの「兄も弟も愛する」外交姿勢にも影響を与える可能性がある。米国は貿易赤字の是正だけでなく、より広範な地政学的アライアンスを求めているとの見方もある。
BKK IT Newsとしては、タイが経済的実利と外交的バランスを両立させる新たな戦略構築が急務と考える。単なる貿易交渉を超えた、包括的な対米関係の見直しが必要だ。
今後の展望
8月1日の関税発効は避けられない状況だ。タイ企業は短期的な業績悪化を覚悟する必要がある。同時に政府は、市場多角化とFTA活用による輸出先分散を急がなければならない。
RCEP、CPTPP、GCCなど既存の貿易協定を最大限活用すること。EU等との新たなFTA交渉を加速すること。これらの取り組みが、米国依存からの脱却を可能にする。
トランプ新関税は、タイ経済の構造転換を促す契機となるかもしれない。しかしその道のりは決して平坦ではない。企業と政府の連携した対応が、この危機を乗り越える鍵となる。