タイのモビリティハブ戦略が加速 ~MobilityTech Asia Bangkok 2025で見えた未来像~

タイ政治・経済
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7月2日から4日にかけて、バンコクのクイーンシリキット・ナショナル・コンベンション・センターで開催されたMobilityTech Asia Bangkok 2025。このイベントは、タイ政府が目指す「地域モビリティハブ」戦略の現在地を示す重要な場となった。

「Electric Vehicle Asia」からの戦略的転換

従来の「Electric Vehicle Asia」から「MobilityTech Asia Bangkok」への名称変更は、単なるリブランディングではない。EV単体から、AI駆動型交通、スマートインフラ、先進運転支援システム(ADAS)、水素技術まで含む総合モビリティ戦略への転換を表している。

この変化は、タイ政府の明確な意図を反映している。単なる自動車製造拠点から、研究開発、技術導入、包括的なモビリティソリューションの提供拠点へ。東南アジア6億人市場への玄関口として、より高度な価値創造を目指している。

急拡大するイベント規模

数字が戦略の成功を物語る。前回のElectric Vehicle Asia 2024は67カ国から28,435人が来場し、「圧倒的な成功」と評価された。今回のMTAB 2025では、65カ国から32,000人以上の来場を見込む。250社以上の企業が出展し、8つの国が国際パビリオンを設置した。

来場者の質も向上している。政策立案者、都市計画者、技術開発者、投資家が一堂に会し、「質の高いセールスリード」を生み出している。これは、タイ市場が単なる展示の場から、実際のビジネス展開のテストベッドへと進化していることを示している。

現地企業の技術力向上

注目すべきは、タイ現地企業の存在感だ。AMR Asiaは「Seamless Smart Solutions」として、スマートテクノロジー、デジタルツイン、AI、EV充電システムを統合した包括的ソリューションを展示した。これは、タイ企業がグローバルな技術トレンドに対応した高度なソリューションを開発できる能力を持っていることを証明している。

現地企業の強みは、政府規制、文化、インフラの特性を深く理解していることだ。グローバル企業が提供しにくい、実践的で統合されたソリューションを提供できる。これは、外国企業にとって重要なパートナーシップ機会を意味する。

技術展示に見る未来のモビリティ

主要企業の展示内容は、モビリティの未来像を明確に示している。Boschは水素関連技術に注力し、CryoPump、水素インジェクター、PEM電解スタックなど、EV以外の脱炭素化ソリューションを提示した。ABB Electrificationは電力供給と自動化技術で、エネルギー管理システムやスマートシティ関連技術を展開している。

これらの技術は、車両単体ではなく、都市全体やエネルギーグリッドと連携する統合的なモビリティエコシステムを構築する方向性を示している。単一のエネルギー源に依存しない「マルチエネルギーパスウェイ」戦略が、持続可能なモビリティの未来において重要になるという認識の表れだ。

成長する市場と浮上する課題

タイのEV市場は急成長を続けている。2024年には東南アジアのEV販売が50%以上増加し、2025年1月から4月のバッテリーEV国内販売は前年比46%増の33,633台を記録した。2025年には新車販売に占めるEVの割合が13%以上に達し、2035年には50%になると予測されている。

しかし、成長の裏側には課題も存在する。中国ブランドがタイEV市場の70%以上を占め、BYDだけで49%のシェアを握る。政府のインセンティブ政策は投資を呼び込んだが、国内生産義務の達成困難や価格競争激化といった副作用も生み出している。

EV保険の収益性問題も深刻だ。バッテリーの高価格がコストを押し上げ、ほとんどの保険会社が損失を計上している。これは、高付加価値部品の国産化が課題であることを浮き彫りにしている。

BKK IT Newsの見解

MTAB 2025は、タイのモビリティハブ戦略が確実に前進していることを示した。政府の強力な支援、現地企業の技術力向上、国際企業の積極的な参加が相乗効果を生み出している。

ただし、真のハブとなるためには課題克服が不可欠だ。バッテリーなど高付加価値部品の現地化、サプライチェーンの強化、保険制度の整備など、エコシステム全体のバランス取れた発展が求められる。

タイ進出を検討する日系企業にとって、現在は重要な局面だ。市場の成長機会を捉えつつ、現地パートナーとの連携強化、多角的な技術戦略の構築、そして持続可能性への貢献が成功の鍵となる。

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