2025年12月8日にタイ政府の経済内閣が承認した「ハーフ・ハーフ・プラス(Khon La Khrueng Plus)」フェーズ2が、わずか数日後の下院解散により実施が不透明な状況に陥っている。総予算220億バーツ、1,000万人を対象とした経済刺激策は、暫定政権下の法的制約により選挙管理委員会(ECT)の承認待ちとなった。
承認から解散まで、わずか3日間
経済内閣は12月8日、エーカニット副首相兼財務大臣を議長として「ハーフ・ハーフ・プラス」フェーズ2を承認した。本来であれば翌週の閣議で正式決定され、12月下旬には登録が開始される予定だった。しかし12月11日、アヌティン首相が下院解散を表明し、翌12日に勅令が発効した。これにより現内閣は「暫定政権」へと移行し、新規プロジェクトの承認権限が厳しく制限されることとなった。
タイ王国憲法第169条の規定により、暫定政権は次期政権を拘束するような新規プロジェクトの承認が禁止されている。フェーズ2は新規予算措置を伴うため、この制約に抵触する可能性が高い。また、中央予備費の使用には選挙管理委員会の事前承認が必須となる。野党や批判勢力は、選挙直前の現金給付に近い本施策を「バラマキ」や「選挙買収」とみなす可能性がある。
「ハーフ・ハーフ」の進化と今回の特徴
「ハーフ・ハーフ」は2020年のパンデミック発生時に、ロックダウンで困窮する小規模事業者と家計を救済するために始まった。政府が消費金額の50%を補助する仕組みで、市民は専用アプリ「パオタン」のG-Walletに自己資金をチャージし、店舗のQRコードを読み取って支払うことで半額の補助を受ける。
フェーズ2の総予算は約220億バーツで、財源は中央予備費の残余分およびフェーズ1からの繰越金約5.75億バーツとなっている。対象者数は合計1,000万件で、1人あたり合計2,000バーツの支援金が提供される。日次使用上限は1日あたり150〜200バーツで、利用可能時間は毎日06:00から23:00までとなっている。
今回の最大の特徴は、支援対象を2つのグループに明確に区分し、特に「脆弱層」への配分を優先している点だ。グループ1は新規登録・優先支援枠で500万件が割り当てられた。対象はこれまでプロジェクトに参加したことがない人、または特定の脆弱な状況にある人々となっている。重点地域として、大規模な洪水被害を受けた南部地域の住民と、カンボジアとの軍事衝突が続く国境沿いの県の住民が挙げられている。
グループ2は既存利用者枠で、こちらも500万件が確保された。フェーズ1に参加し、すでに権利を使い切った一般市民が対象となる。消費習慣の維持と年初の消費落ち込み防止が目的だ。
参加資格は、タイ国籍を有し、登録日時点で満16歳以上であり、有効な国民IDカードを所持している者となっている。重要な除外条件として、2025年10月1日時点で財務省データベース上の「国家福祉カード」保持者は対象外とされている。最貧困層には別途福祉カードを通じた直接給付が行われるため、支援の重複を防ぎ、中間所得層から低所得層をターゲットにする方針だ。
2025年後半の経済状況が背景に
本プロジェクトが承認された背景には、2025年後半のタイ経済の停滞がある。第3四半期のGDP成長率は前年同期比1.2%にとどまり、前期比では0.6%の縮小を記録した。これは市場予想を下回る数値で、第4四半期もマイナス成長となれば「テクニカル・リセッション」入りするリスクが高まっていた。家計債務の高止まりや輸出の伸び悩みにより、民間消費と投資が減速していた。
11月から12月にかけて南部地域が深刻な洪水被害を受け、観光シーズンである年末年始の経済活動が危ぶまれていた。また、タイ・カンボジア国境での武力衝突が再燃し、国境貿易と地域経済が麻痺していた。アヌティン政権は「Quick Big Win」と呼ばれる短期集中型の経済対策を掲げており、解散総選挙が視野に入る中、実績作りと有権者へのアピールとして、国民人気の高い「ハーフ・ハーフ」の復活を急いだ経緯がある。
実施の可否は12月15日の協議次第
法務担当のボウォンサック副首相は12月15日に選挙管理委員会と協議を行う予定だ。副首相は「解散前に閣議や経済内閣で議論されていた継続案件である」としてECTに承認を求める姿勢を示している。しかし財務省やECT事務局長サウェン・ブンミー氏は慎重な姿勢を崩していない。
ECTの判断基準は、本プロジェクトが「選挙に対する不当な影響」を与えるかどうかとなる。国家資源を選挙キャンペーンに有利になるように使用することは禁じられているため、野党や批判勢力からの「選挙買収」との指摘を避ける必要がある。一方で、洪水被災地や国境紛争地域への支援という人道的・緊急的側面も無視できない。
今後想定される3つのシナリオ
現時点で想定されるシナリオは3つある。第一は、ECTが災害支援の緊急性を認め、特例として実施を承認するケースだ。これは経済効果が最も高いが、政治的論争を招く可能性がある。第二は、選挙後の新政権が再承認して実施するケースだ。実施は2026年第2四半期以降となり、即効性が失われる。第三は、政権交代や予算不足により立ち消えとなるケースだ。これは経済への打撃が最大となる。
財務省および民間エコノミストの試算によれば、本プロジェクトは約220億バーツの政府支出と同額の民間消費で約440億バーツの経済効果を生み、2025年第4四半期から2026年第1四半期のGDPを0.2〜0.3%押し上げる効果が期待されていた。これはリセッション回避のための重要なバッファーとして機能するはずであった。
本制度は大手チェーン店ではなく、中小零細店舗や市場での利用を促進する仕組みであるため、資金が地域経済の末端まで循環する効果が高い。特に洪水被災地や国境地域においては、現金の即時注入に近い救済効果を持つ。
一方で、一部の専門家は短期的な現金給付の繰り返しはインフレ圧力を再燃させるリスクや、財政規律の悪化を招き、長期的には国の信用格付けに悪影響を及ぼす可能性を指摘している。
企業が考慮すべき対応策
プロジェクトの実施可否が不透明な状況では、企業は複数のシナリオを想定した準備が必要となる。小売・飲食業では、実施が承認された場合に備えて「パオタン」決済の受付体制を整備しておくことが望ましい。過去のフェーズでは登録開始から数日で枠が埋まる事例もあり、迅速な対応が売上機会の確保につながる。
一方で実施が見送られた場合、2025年第4四半期から2026年第1四半期の消費マインドが冷え込む可能性がある。在庫管理や販促計画において、保守的なシナリオも考慮しておくべきだろう。製造業や物流業では、国境貿易の停滞と南部洪水の影響が長期化する前提で、サプライチェーンの代替ルート確保を検討する時期にある。
参考記事リンク
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