2025年12月12日、ウォール街のテクノロジー株が大きく値を下げた。Nasdaq総合指数は1.8%下落し、S&P 500も1.1%の下落となった。引き金となったのはOracleとBroadcomの決算発表だ。両社の業績は堅調だったにもかかわらず、市場の反応は厳しかった。AI投資の膨張と収益化の遅れという構造的な課題が浮き彫りになった。
2つの決算が露呈した現実
AI投資ブームは2023年のChatGPT登場から始まった。Nvidiaの株価は2年で10倍以上に上昇し、市場は「AIなら何でも買う」雰囲気に包まれていた。しかし2025年に入り状況が変わった。AI投資から満足のいくROIを得るまでの期間は平均2〜4年とされ、通常のテクノロジー投資より遥かに長い。この「成果が出るまでのタイムラグ」が今回の調整を引き起こした。
Oracle:500億ドル投資の衝撃
Oracleは12月10日の第2四半期決算で売上高が市場予想を下回った。160.6億ドルに対し予想は162.1億ドルだった。より衝撃的だったのは設備投資の大幅な引き上げだ。
Oracleは2026会計年度の設備投資を350億ドルから500億ドルへ上方修正した。昨年度の2倍以上の金額だ。この結果、第2四半期のフリーキャッシュフローはマイナス100億ドルに転落した。市場予想のマイナス52億ドルを大幅に下回った。
Bloomberg報道によれば、OracleがOpenAI向けに建設中のデータセンターが資材と労働力不足で遅延している。Oracle側は否定したが、市場の不安は消えなかった。Googleやマイクロソフトと異なり、Oracleは巨額投資を有利子負債に依存している。9月には180億ドル規模の社債を発行した。決算発表後、株価は週間で13%下落した。
Broadcom:高成長でも利益率低下
12月11日に決算を発表したBroadcomは、売上高と利益が予想を上回った。AI関連収益は前年同期比74%増の65億ドルに達し、次四半期は82億ドルになるとの見通しも示した。
しかし株価は11.4%も急落した。理由は「粗利益率の低下」だった。経営陣は、AI収益の比率が高まるにつれて全社の粗利益率が1%低下すると警告した。高成長のAIビジネスが利益率を押し下げるという逆説的な状況が明らかになった。
BroadcomのAIチップはGoogleやMeta向けのカスタムASICが中心だ。これらの顧客は強力な交渉力を持ち、価格を厳しく要求してくる。最新のAIチップは製造コストが高く、価格転嫁が難しい。市場は「AI関連=高マージン」と評価していたが、Broadcomの決算はその前提を覆した。
GPT-5.2が示した高コスト構造
市場がAIの収益性に疑念を抱く中、12月11日にOpenAIは新モデル「GPT-5.2」を発表した。数学コンペティションで100%の正答率を達成し、専門的知識タスクでも74%の勝率を記録した。
しかし市場の反応は冷ややかだった。GPT-5.2のAPI価格は入力100万トークンあたり21ドル、出力100万トークンあたり168ドルと極めて高額で、旧モデルから大幅な値上げとなった。性能が上がっても利用コストが高止まりすれば、企業がAIを大規模に導入することは難しい。技術の進化とビジネスの現実の乖離が浮き彫りになった。
「ドットコムバブル」との類似性
市場の不安の核心は「ROIギャップ」だ。AIインフラへの投資は数千億ドル規模に達しているが、収益の規模とタイミングが見合っていない。Gartnerは2025年末までに生成AIプロジェクトの30%がコスト高や不明確なビジネス価値を理由に放棄されると予測している。
市場関係者は2000年のドットコムバブル崩壊との類似性を指摘する。当時、Ciscoは「インターネットは無くならない」という正しい前提の下で株価が高騰したが、顧客企業の収益化が追いつかず暴落した。現在のNvidiaやOracleも同じパターンをたどる可能性が懸念されている。
Cent.Capitalは2026年に向けてAI支出が減速する可能性を警告している。計算能力の供給が過剰になれば価格競争が激化し、利益率が悪化する。半導体メモリ市場では既に歪みが生じている。AIサーバー向けのHBM生産にシフトした結果、従来のDRAMの供給が逼迫し価格が高騰している。
「グレート・ローテーション」の始まり
今回の調整では、Dow Jones指数が週間で1.1%上昇し、伝統的な産業株が資金の受け皿となった。これは「グレート・ローテーション」と呼ばれる資金移動の兆候だ。投資家は高成長・高バリュエーションのAI関連銘柄から、安定・低バリュエーションのオールドエコノミー銘柄へ資金をシフトさせ始めている。
Vanguardの2026年見通しでは、今後10年間の米国株リターンは年率4〜5%に留まる一方、債券が有力な投資先になると予測している。AI関連銘柄は主役であり続けるが、一本調子の上昇は終わり、決算ごとに株価が大きく乱高下する展開が予想される。
BKK IT Newsの見方
市場は「AIという夢」から「AIというビジネス」への冷徹な収支計算を始めた。OracleとBroadcomの決算が示したのは、AIインフラの構築には想像を絶するコストがかかり、その回収には長い時間が必要だという現実だ。
Vanguardは「AI失望」シナリオの確率を25〜30%と見積もっている。一方で、AI主導の生産性向上が実現すれば、GDP成長率が3%台に乗る可能性もある。企業にとっては、実験段階から具体的なROIを生み出す実装へと移る時期に来ている。生き残るのは、AIを使って「いくら稼げるか」を証明できる企業のみだろう。
参考記事リンク
- Tumbling tech stocks drag Wall Street to its worst day in 3 weeks – The Business Journal
- Why Oracle Stock Plunged More Than 12% This Week – The Motley Fool
- Broadcom shares fall as margin warning sparks AI payoff worries – BNN Bloomberg
- AI ROI: The paradox of rising investment and elusive returns – Deloitte
- Closing the ROI gap when scaling AI – Guidehouse

