2025年12月1日、米国ニューヨークのRunway AIは最新の動画生成AIモデル「Gen-4.5」をリリースした。独立系評価機関Artificial Analysisの「Video Arena」においてEloスコア1247を記録し、Google Veo 3とOpenAI Sora 2を上回り、世界最高性能の動画生成モデルとなった。従業員数わずか約120名の企業が、時価総額数兆ドル規模のGoogleやOpenAIを技術的に凌駕した。
ベンチマークで証明された技術力
2025年は動画生成AIの競争が激化した年となった。Googleは5月と10月にVeo 3を発表し、OpenAIは9月30日にSora 2をリリースした。そして年末、Runwayが「視覚的忠実度」と「物理シミュレーション」に特化したGen-4.5で競合を上回る結果となった。
独立系ベンチマーク機関Artificial Analysisによるブラインドテストの結果は以下の通りだ。
| 順位 | モデル名 | 開発元 | Eloスコア |
|---|---|---|---|
| 1 | Gen-4.5 (“David”) | Runway | 1247 |
| 2 | Veo 3 | 1226 | |
| 3 | Kling v1.5/2.0 | Kuaishou | ~1225 |
| 7 | Sora 2 Pro | OpenAI | 1206 |
OpenAIの最新モデルSora 2 Proが7位となった点は注目される。同モデルが音声生成やソーシャル機能に注力した結果、純粋な映像品質において専門特化したRunwayに後れを取った形だ。
物理法則を理解するAI
Gen-4.5の最大の技術的達成は、物理現象の再現性にある。従来のAI動画モデルは統計的確率に基づいて「それらしい動き」を生成していた。しかしGen-4.5は、高度な世界モデルの構築により、因果関係と物理法則を理解しているかのような挙動を示す。
水が注がれる際の粘性、飛沫の飛散、水面の波紋などが、実際の流体力学シミュレーションに近い精度で描写される。これは飲料メーカーのCMや映画のVFXにおいて、高価な流体シミュレーションソフトウェアを代替し得る可能性を示している。
またAI動画の長年の課題であった「オブジェクトの永続性」についても改善が見られる。人物が柱の裏側を歩いて通過する際、従来のモデルでは人物が消滅したり別の人物に入れ替わることがあった。Gen-4.5は見えない間もそのオブジェクトが存在し続けていることを計算し、再登場した際に一貫した形状と特徴を維持する。
プロフェッショナル向けの制御性
プロの映像制作者にとって、画質以上に重要なのが「制御性」である。Gen-4.5はこの点において競合を凌駕している。
ユーザーはパン、チルト、ズーム、トラッキングといったカメラワークを正確に指定できる。静止画の構図を参照画像として入力し、その構造を維持したまま動画を生成する機能も強化された。これにより、絵コンテ通りの映像化や特定のキャラクターデザインの一貫性を保ったアニメーション生成が可能となっている。
専門特化戦略の成功
従業員数約120名、評価額35億ドルのスタートアップが、時価総額2兆ドルを超えるGoogleやMicrosoftに勝利した要因は何か。
GoogleやOpenAIは多岐にわたる事業を展開しており、動画生成モデルもそのエコシステムの一部として設計される。Veo 3はYouTube Shortsとの連携が、Sora 2はChatGPTやSNSとの連携が重視された。これに対し、Runwayは「映像クリエイターのためのツール」という一点にリソースを集中させた。
Runwayは映画スタジオLionsgateなどとのパートナーシップを通じて、高品質なプロフェッショナル映像データを学習に使用している。このクリーンで構造化されたデータセットが、物理演算の正確さや映画的なライティングの再現性に寄与している。
Gen-4.5の推論インフラには、NVIDIAの最新アーキテクチャ「Blackwell」および「Hopper」GPUが採用されている。RunwayとNVIDIAの密接なパートナーシップ—NVIDIAはRunwayの投資家でもある—が、この計算資源の確保を可能にした。
IT業界への影響と今後の展望
Gen-4.5のリリースは、AI動画生成技術が「実験的なおもちゃ」から「実用的な産業ツール」へと脱皮したことを示している。
映像制作産業では、低予算でハリウッド級のVFXを実現できる機会となる。インディーズ映画やドラマ制作会社が、Netflixなどのグローバルプラットフォーム向けに高品質なコンテンツを供給する障壁が下がる。
一方で、Gen-4.5のような高精細な動画生成技術は、ディープフェイクによる社会的信頼の侵食というリスクも孕んでいる。従来のディープフェイクよりも遥かに高精細で、物理的な矛盾が極めて少ない映像が生成される。Runway自体は「SynthID」などの電子透かしを導入しているが、技術的に回避される可能性がある。
2025年10月頃から、AIのトレンドは単なるコンテンツ生成から「エージェンティックAI」へと移行しつつある。動画制作においても、Gen-4.5の次世代版では、脚本を渡すだけでAIが監督として機能し、カット割り、カメラワーク、ライティング、演技指導までを自律的に行う未来が予見される。
BKK IT Newsは、2026年に向けてGen-4.5の進化版がエージェント機能を統合し、映像制作のワークフローを根本的に変える可能性があると見ている。
参考記事リンク
- Introducing Runway Gen-4.5 – Runway
- Runway Gen 4.5 surpasses Google and OpenAI in AI video creation – Daily Jang
- Runway unveils Gen-4.5 video generation model that tops Video Arena – Testing Catalog
- Runway’s Gen-4.5 Claims ‘Unprecedented’ AI Video Accuracy – The Tech Buzz
- How “House of David” Used Runway to Become Amazon’s Latest Hit Series – Runway
