Google Antigravity登場 ~ソフトウェア開発をAIエージェントが代行する時代へ~

Google Antigravity登場 ~ソフトウェア開発をAIエージェントが代行する時代へ~ AI
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Googleが新しい開発プラットフォーム「Antigravity」を発表した。AIエージェントが自律的にソフトウェア開発を行う時代が始まる。開発者の役割は「コーディング」から「AI指揮」へと移行する。

エージェント型開発環境の登場

2025年11月20日、Googleは「Google Antigravity」を発表した。これは従来のAI支援ツールとは異なる。従来のツールはコード補完に焦点を当てていた。Antigravityでは、AIが自律的なエージェントとして計画、実装、検証のすべてを行う。

開発者はエージェントに対してタスクを割り当てる。エージェントはそのタスクを独立して進める。開発者は複数のエージェントを同時に管理し、並行して作業を進めることができる。この「エージェンティック開発」が、Antigravityの核心だ。

Antigravityの技術的基盤はMicrosoftのVS Codeだ。VS Codeをベースにすることで、既存の拡張機能や操作環境をそのまま活用できる。開発者は新しいIDEの学習に時間を費やす必要がない。30秒以内に既存の開発環境を再現できる。

Gemini 3 ProとNano Banana Pro

Antigravityの頭脳として機能するのは「Gemini 3 Pro」だ。このモデルはツール使用と推論の能力に優れている。ターミナル操作能力を測定するTerminal-Bench 2.0では54.2%のスコアを記録した。これにより、自然言語のプロンプトからアプリケーション全体を構築する「Vibe Coding」が可能になった。

GoogleはClaudeやGPT-OSSなど、他社のモデルも利用可能にしている。開発者は特定ベンダーへの依存を避け、ニーズに応じてモデルを選択できる。Antigravityは単なるGoogle製品ではなく、あらゆるAIモデルを活用できるプラットフォームとして設計されている。

また、画像生成モデル「Nano Banana Pro」も統合されている。このモデルはテキストプロンプトから最大4K解像度の画像やUIモックアップを生成する。従来はFigmaなどの別ツールで行っていたUIデザインを、Antigravity内で完結できるようになった。エージェントが生成したデザイン案を承認すれば、即座にコードへ変換される。

透明性を担保する仕組み

自律型エージェントの導入には懸念がある。AIが裏で何をしているか把握できなくなる点だ。Antigravityはこの課題に対し、「Artifacts」という検証可能な記録システムを実装している。

エージェントがタスクを実行する際、実装計画書、コード差分、そして視覚的証拠を生成する。視覚的証拠には、ブラウザ操作のスクリーンショットや動作確認の録画ビデオが含まれる。開発者はコードを一行ずつ確認する代わりに、これらのビデオやスクリーンショットを見て、機能要件が満たされているかを直感的に判断できる。

ユーザーは生成されたArtifactsに対して、Google Docsのようにコメントを直接書き込める。例えばボタンの位置や色について指摘すると、エージェントはそれを読み取り、修正作業に入る。この協調的なフィードバックループが、単なる命令実行型ツールとは異なる作業体験を提供する。

競合ツールとの比較

AI開発ツール市場では、Claude CodeとCursorが主要な競合となっている。Claude CodeはCLIベースのツールで、ターミナル内で完結する。Unix哲学に基づき、既存のコマンドラインツールとパイプで連携できる点が特徴だ。導入のハードルが低く、既存のエディタと併用できるため、熟練開発者に支持されている。

一方、Cursorは「AI時代のVS Code」として既に確固たる地位を築いている。Antigravityが登場する以前から自然言語によるコーディングを実現しており、「Composer」機能は高く評価されている。初期の比較レビューでは、AntigravityはCursorの完成度には及ばないという声もある。ただし、Googleの無料提供戦略は、ユーザーを惹きつける強力な要因となっている。

Antigravityの強みは可視化と検証にある。動画や画像による動作証明、Nano Banana Proによる画像生成、複数モデルの選択の自由が差別化要因だ。UIデザインまで含めた開発ならAntigravity、サーバー操作やスクリプト処理ならClaude Codeという使い分けが想定される。

開発者の役割とリスク

ForresterやGartnerの予測によれば、2026年までにソフトウェア開発の焦点は「Vibe Engineering」へと移行する。これは、AIエージェントに対して「どのようなソフトウェアを作りたいか」という意図を正確に伝え、生成された成果物を検証・修正するスキルだ。

この変化により、従来の「ジュニア開発者」の仕事は、AIエージェントによって代替される可能性が高い。定型的なコード記述や単純なバグ修正といったタスクが消失する。若手エンジニアが経験を積むための足がかりが失われるという指摘もある。逆に、AIの出力を批判的にレビューし、セキュリティやガバナンスの観点から監督できる人材の価値は高騰する。

一方で、セキュリティリスクも存在する。強力なAIエージェントは、攻撃者の能力も増幅させる。Claude Codeの悪用事例では、中国のハッカーグループがツールを操作し、大規模な標的型攻撃を自動化したことが確認されている。企業がAntigravityを導入する際には、厳格なサンドボックス環境での実行やAIエージェントの権限最小化といった「AIガードレール」の構築が求められる。

企業にとっての選択肢

Antigravityは現在プレビュー版として個人利用は無料で提供されている。日本語での指示に対応しており、日本国内から問題なく利用できる。企業が導入を検討する際には、開発チームの特性や既存のワークフローを考慮する必要がある。

UIデザインを含めた統合的な開発環境が必要な場合、Antigravityは有力な選択肢となる。一方、既存のエディタを使い続けたい熟練開発者が多い場合、Claude CodeのようなCLIツールも検討に値する。重要なのは、ツールの選択よりも、開発者がAIとどう協働し、どのように統御するかという組織的な準備だ。

BKK IT Newsとしては、企業はAntigravityのような新しいツールを試験的に導入し、自社の開発プロセスへの影響を評価する段階に入ったと考える。2026年にかけて、ソフトウェア開発の現場は大きく変化する可能性がある。その変化に備えるため、今から検証を始めることが推奨される。

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