Foxconn・Nvidia、AIセンター構築 ~台湾高雄に14億ドル投資、ソブリンAI戦略の要に

Foxconn・Nvidia、AIセンター構築 ~台湾高雄に14億ドル投資、ソブリンAI戦略の要に AI
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台湾が世界のAI産業における役割を大きく変えようとしている。

2025年11月21日、台湾のFoxconn(鴻海精密工業)と米Nvidiaが、台湾・高雄市に14億ドル(約2,100億円)を投じてスーパーコンピューティングセンターを建設すると発表した。2026年前半の稼働を目指すこの施設は、Nvidiaの最新鋭「Blackwell GB300」チップを搭載するアジア初のAIデータセンターとなる。単なる計算能力の増強ではなく、台湾が半導体製造拠点からAI運用の中心地へと役割を拡大する構造的転換を象徴している。

Foxconnのビジネスモデル転換が本格化

FoxconnはこれまでAppleのiPhone組立など電子機器受託製造サービス(EMS)で世界最大手として君臨してきた。しかし、製造業の低マージン体質と特定顧客への依存からの脱却が長年の課題だった。今回のプロジェクトは、新部門Visonbay.aiを通じて、高付加価値なAIプラットフォームオペレーターへの転換を加速させる戦略的な投資となる。

Foxconnの会長であるYoung Liu氏は、同社がAI分野に年間20億ドルから30億ドルを投資する計画を明らかにしている。高雄のスーパーコンピューティングセンターは、この巨額な投資を具現化するものだ。Foxconnは計算リソースのレンタルサービスという高マージンなサービス領域へ進出し、自社のスマート製造の高度化と外部企業への計算能力提供の両方を狙う。

特筆すべきは、FoxconnがすでにNvidiaの主要なAIラック製造パートナーとして、チップ、ケーブル、冷却装置を統合したAIワークロード専用のサーバーラックの設計・製造を担っている点だ。週に1,000台のAIサーバーラックを製造する能力を持ち、来年の増強計画も発表している。この垂直統合能力により、製造で利益を確保しつつ、プラットフォーム運営によるサービス収益も享受できる二重のヘッジ戦略を構築している。

Nvidiaのアジア戦略とGB300の早期展開

Nvidiaにとって、台湾での最先端技術の早期展開は、アジア市場における技術エコシステムの防衛を意味する。米国による対中輸出規制が続く中で、NvidiaはGB300という最先端技術を、地政学的リスクの低い友好地域(台湾)で迅速に実装し、運用する戦略を推進している。

Blackwell GB300は、前世代のHopperアーキテクチャと比較して、性能を最大で10倍向上させるとされる。特に大規模言語モデル(LLM)の推論とトレーニングに特化しており、AIモデルの開発速度を加速させる。GB300 NVL72システムは、複数のサーバーノードに推論を分散させ、数百万の同時ユーザーに対応できる能力を持つ。

このデータセンターの計算能力は27メガワット(MW)に達する見込みで、台湾において先進的なGPUが最も集積されたクラスターとなる。台湾の企業や研究機関は、この最先端リソースを国内で低遅延かつセキュアに利用できる優位性を享受する。台湾国家科学技術会議(NSTC)は、TSMCの研究者、学術機関、R&Dセンターにこのスーパーコンピューターへのクラウドアクセスを付与する計画を持っている。

台湾の「AI主権」戦略と役割拡大

このプロジェクトの中心的な目標の一つは、台湾の「AI主権」を確立することにある。Nvidiaが提唱する「ソブリンAI」とは、国家が自国のインフラ、データ、労働力を用いて人工知能を開発・運用する能力を指す。Visonbay.aiのCEOであるNeo Yao氏は、このプロジェクトが、国内データ、インフラ、人材に基づくAI開発能力を構築するという「ソブリンAI」の推進に不可欠であると明言している。

地政学的な緊張が続く中で、国内に高性能な計算リソースを確保することは、機密性の高い国内データが海外で処理されることによるリスクを低減する。また、米国からの輸出規制が将来的に強化される可能性への備えとして、国内でのAIイノベーションを継続的に進めるための技術的自立性を強化する狙いがある。

同時期に、GoogleがTPUなどのAIプロセッサの統合、マザーボードへの実装、サーバー組み立てのエンジニアリングハブを台北に設立したことは、この構造変化を裏付けている。TSMCが世界最先端のチップを製造し、GoogleがAIシステムを設計・検証し、Foxconn-Nvidiaがその最先端チップを使ってAI Factoryを運用するという、AIバリューチェーンの全てが台湾国内で完結する体制が構築されつつある。これにより、台湾は国際的な「不可欠性」を製造だけでなく、AI運用にも拡大させている。

エネルギー安全保障という重大な課題

高性能AIデータセンターの集中は、台湾の技術的優位性を高める一方で、その脆弱性を増大させている。計算能力は本質的に電力に依存するため、「AI主権」の基盤はエネルギー安全保障に直結する。

Foxconnの高雄センター(27MW)は、台湾のAI戦略における急進的な電力需要の増大を示唆している。台湾の産業電力消費はOECD平均を大幅に上回り、電力需要は既にひっ迫している。台湾のエネルギー供給の大部分は輸入に依存しており、エネルギー政策を巡る国内の政治的対立が、安定供給の不確実性を高めている。

高性能チップの製造拠点(TSMC)に加え、最先端のAI推論・トレーニングハブが台湾に集中することは、地政学的な紛争や海上封鎖が発生した場合に、世界のAIインフラ全体に影響をもたらすリスクがある。AIインフラ投資の増大は、台湾政府に対し、エネルギーインフラの強化と供給源の多様化を優先課題として解決するよう、圧力を与えることになる。

台湾サーバーメーカーの競争構造変化

FoxconnのAIプラットフォームオペレーターへの参入は、他の主要な台湾サーバーメーカー、特にQuanta ComputerやWistronなどに対し、単なるハードウェア販売からの脱却を促す。台湾企業は世界のAIサーバーの約90%を製造し、Nvidiaの需要増の恩恵を受けているものの、利益率はハードウェアの箱売りモデルに縛られがちである。

Visonbay.aiは、計算リソースのレンタルやAIモデル開発・運用支援といったサービスを提供することで、収益源を高マージンのサービス領域へとシフトさせる。これにより、競合他社も同様に、データセンター全体の設計・運用支援や、特定の応用分野に特化したソリューション提供へと付加価値を高める方向に動く可能性がある。

AIサーバー製造における競争は、従来の価格競争から、冷却・統合技術競争へと移行している。GB300のような超高密度チップセットは、極めて高い電力密度と発熱特性を持つため、高度な冷却システム、電源、ケーブルを統合した特殊なAIラックが必須となる。

Foxconnは、自ら設計・製造したAIラックを、自社のデータセンターでGB300を使って運用する。この実地運用経験は、競合他社にはない迅速なフィードバックループを生み出し、製品の設計と信頼性を継続的に改善する。この垂直統合による競争優位性は、台湾のサーバー産業における差別化要因となりつつある。

BKK IT Newsの見方

Foxconn-Nvidia提携は、台湾の経済における位置づけを製造拠点からAI運用とイノベーションの中心地へと構造的に転換させる一歩となる可能性がある。Foxconnは、低マージンのEMSモデルから脱却し、高マージンのプラットフォームオペレーションを通じて成長を加速させる道筋を示した。Nvidiaは、GB300の早期展開を通じて、アジアにおけるエコシステム支配を強化する戦略を実行している。

この提携は、台湾のAI主権を確立し、将来の経済競争力を保証する基盤となる。しかし同時に、エネルギー安全保障という喫緊の課題を浮き彫りにしている。AI競争力を国家戦略の中核と位置づけるならば、27MW級のAIファクトリーの持続的な稼働を保証するため、エネルギーインフラの強化が不可欠となる。

また、台湾に集積する最先端AIリソースへのアクセス方法を確立することは、アジア太平洋地域の企業にとっても重要な課題となるだろう。台湾のAI優位性は、数年以内に明確な技術的・経済的格差として現れる可能性がある。レンタルやクラウド連携を通じて、この計算能力にアクセスできる体制を整えることが、各国企業の競争力の鍵となる。

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