2025年11月19日から21日まで開催された「DigiTech ASEAN Thailand 2025」は、タイがASEANのデジタルハブとして成長する上で重要な節目となった。バンコクのインパクト展示コンベンションセンターに350社以上のグローバルテックブランドが集結し、8,000人以上の業界関係者が参加した。このイベントは、タイ政府のデジタル政策が市場の具体的な反応と結びついた場となった。
グローバル企業の参加
350社以上の出展企業は米国、日本、韓国、シンガポール、ベトナムなど17カ国から参加した。主要スポンサーには、グローバル企業のリコー、クラウドおよびAI専門企業のGoing Cloud(AWS Generative AI Competency Partner)、GoPomelo、米国公共部門専門のNVS Consulting、ローコードプラットフォームのVBix Innovation、統合ソフトウェアスイートのZoho Corporationなどが名を連ねた。
イベント開幕の前日である11月18日には、マイクロソフトがタイにおけるローカルクラウドリージョンとAIイノベーションセンターへの投資を発表し、市場の注目を集めた。
エージェントAIと垂直統合ソリューション
展示されたソリューションは基礎的なデジタル化を超え、垂直統合型の高度なAI応用へと明確にシフトしている。
東芝はリアルタイム分析とデジタルツインを活用したEtaPROなど産業用ソリューションを展示した。台湾のAvisionは衛星画像とAIモデリングで作物成長指標を実用的な戦略に変換する精密農業ソリューション「FarmiSpace」を紹介した。タイのAXONSは農場管理から生産、物流、小売に至るアグリフード産業のエンドツーエンドソリューションを提供し、タイの基幹産業である農業のデジタル化を推進している。
台湾のBrowan Communicationsは工業環境における作業者の保護とリスク管理を目的とした統合IoT安全ソリューションスイート「B•SAFE」を展示した。センチメートルレベルの精度を提供するUWB技術による追跡機能を含む。
特に注目されたのは「エージェントAI」ソリューションだ。タイのAROUND Enterprise Consultingは、すべてのERPシステム(SAP、Odoo、レガシーシステム)に接続し組織の中央インテリジェンスハブを構築するエージェントAIを紹介した。米国のNVS Consultingは、自律的でリアルタイムな意思決定を行うエージェントAIとポリシーに準拠した生成AI応答を組み合わせたセキュアなRAGを提供するAletyx Intelligent Decision Platformを展示した。
これは市場の関心が基本的なLLM導入を超え、複雑なエンタープライズシステムと自律的に連携し、意思決定と運用の実行を担うAIシステムへと移行していることを示している。
中小企業向けソリューション
タイのDX市場において、中小企業セグメントは2030年まで年平均15.50%の成長が予測される。イベントでは中小企業が低コストかつ迅速にDXを実現するソリューションが多数展示された。
VBix Innovationが紹介したKissflowはローコード/ノーコードプラットフォームで、IT開発チームを持たない中小企業でもドラッグ&ドロップでワークフロー自動化を実現できる。Zoho Corporationは営業、マーケティング、カスタマーサポート、会計など55以上のアプリケーションを含む統合ビジネススイートを提供した。
Classmethodは中小企業が導入しやすい安価なAIソリューションを展示した。AIチャットボットやAIビジネスツールを中心に、初期投資を抑えながらAI活用を始められるソリューションを紹介し、中小企業のAI導入障壁を下げる提案を行った。
Activemedia (thailand) はAIを活用した脅威検出とローカルサポートを備えたESETのサイバーセキュリティソリューションを紹介した。インフラがローカルクラウドに移行し、システム統合が進む中で、ランサムウェアやゼロデイ脅威に対する高度なレジリエンスを優先する姿勢が見られた。
国家戦略との整合性
DigiTech 2025は、タイの「ASEANの主要デジタルハブになる」というビジョンと、タイランド4.0および東部経済回廊構想を推進する場として機能した。イベントは国家AI戦略・行動計画(2022-2027)の主要な要素を反映している。
イベントはタイデジタル経済社会省、デジタル経済推進庁、国家イノベーション庁など複数の政府機関から支援を受けた。地域的な焦点はASEANデジタルマスタープラン2025とも一致し、DigiTechはASEAN域内およびグローバルコミュニティを結びつけるプラットフォームを提供した。
市場成長の見通し
タイのDX市場全体は2025年の100.6億ドルから2030年には156.9億ドルに達すると予測され、年平均9.30%の成長率を維持する。クラウド&エッジコンピューティング分野は年平均21.40%という高い成長率が予測される。中小企業セグメントは年平均15.50%で成長し、雇用創出と包括的な経済成長の最大のエンジンとなる。
世界銀行は2025年7月時点で、タイの年間GDP成長率が2025年に1.8%に減速する見通しを示した。この状況において、デジタル化は生産性を向上させ、雇用を創出し、経済成長を押し上げるための触媒として位置づけられている。
今後の展望
DigiTech ASEAN Thailand 2025は、タイのデジタル政策と市場の具体的な反応が交わる接点として機能した。BKK IT Newsの見解では、今後の持続的な成長には以下の要素が鍵となる。
インフラ投資との連携が重要だ。現地の有力企業が関与する主要プロジェクトとの協力を深めることで、コンプライアンスを確保し市場浸透を加速できる可能性がある。人材投資の戦略的統合も不可欠だ。企業の戦略を政府の人材育成目標と一致させることで、将来的に必要とされるデジタル専門家を確保できる。
タイは2026年に世界銀行グループ・IMF年次総会を主催する準備を進めている。デジタル政策を継続的に推進し、具体的なインフラ投資に裏打ちされた成功事例を示すことが求められる。これにより、タイはASEANの成熟し強靭で魅力的なデジタルハブとしての地位を確固たるものにできる可能性がある。
参考記事
- Transforming Business, Empowering Growth DigiTech ASEAN Thailand x AI Connect 2025, Accelerates Digital Adoption for Enterprises & SMEs
- Microsoft announces landmark strategic commitment to accelerate Thailand’s AI-powered growth and inclusive innovation
- Thailand Digital Transformation Market Size, Share & Research Report 2030
- Thailand’s National AI Strategy and Action Plan (2022-2027) | Digital Watch Observatory
- Thailand’s Digital Future Key to Boosting Growth – World Bank


