ビッグテックのAI投資が示す構造変化 ~タイでのクラウド戦略に影響も~(仮)

ビッグテックのAI投資が示す構造変化 ~タイでのクラウド戦略に影響も~ AI
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2025年11月、ウォール・ストリート・ジャーナル紙が「AIがビッグテックを弱体化させている」と報じた。記事は、Microsoft、Alphabet、Amazon、Metaの財務体質が根本的に変化していると指摘する。この変化は、タイでビジネスを展開する企業のクラウド戦略にも影響を及ぼす可能性がある。

財務指標に表れる変化

ビッグテックの財務状況を示す数字は明確だ。Microsoftの現金比率は2020年の43%から2025年第3四半期には16%に低下した。Amazonの設備投資は営業キャッシュフローの88%を占める。AlphabetとAmazonのフリーキャッシュフローは前年比で減少する見込みだ。

この背景には、2023年から2025年までの3年間で、主要3社合計で6,000億ドルを超える設備投資がある。AI開発に必要なデータセンターとGPUへの支出が、財務体質を変えている。

投資銀行やシンクタンクも懸念を示す。Morgan Stanleyは、主要クラウド事業者のフリーキャッシュフロー成長率が今後12ヶ月で約16%縮小する可能性を指摘した。Citigroupは、AI投資の資金調達が「キャッシュフローによる段階」から「負債による段階」に移行したと分析する。

2025年第3四半期決算が示した転換点

2025年10月下旬のビッグテック決算は、市場の見方が変わったことを示した。各社ともAIによる収益成長は好調だった。しかし、市場の反応は設備投資の見通しによって二極化した。

Alphabetは2025年通期の設備投資を910億ドルから930億ドルに引き上げた。2026年もさらなる増加を見込むと述べた。Microsoftは第1四半期の設備投資が350億ドルに達し、2026年度も加速すると発言した。Metaは2026年の設備投資が2025年を大きく上回ると表明した。

MicrosoftとMetaの株価は好決算にもかかわらず下落した。一方、Amazonは「需要のシグナルが見えない限り調達しない」「キャパシティを追加しているのと同じ速さで収益化している」と説明し、株価は上昇した。

投資家は「AIに投資しているか」ではなく「その投資はいつ、どれだけのリターンを生むのか。その支出に終わりはあるのか」を問い始めた。

電力が新たなボトルネックに

2025年後半、AI競争の制約条件が変化した。2023年から2024年のボトルネックはNvidiaのGPU供給だった。しかし2025年後半、制約は電力供給に移った。

Microsoft CEOのサティア・ナデラ氏は「現在の最大の問題はコンピューティングではなく電力だ」と述べた。「電力に接続できないチップの在庫を抱えている。チップの供給問題ではなく、電源と冷却設備が整ったデータセンターの建物がないことだ」と認めた。

米国のAIデータセンターが必要とする電力は、2025年から2028年の間に69ギガワットに達すると推定される。しかし、既存の電力網が供給できるのは25ギガワットに過ぎない。44ギガワットの電力不足が発生する。このギャップを埋めるために必要な電力インフラ投資だけで2.6兆ドルが必要になるとの試算がある。

負債による資金調達への転換

営業キャッシュフローの限界を超える投資を続けるため、ビッグテックは社債発行に踏み切っている。Oracleは2025年9月に180億ドルの社債を発行した。Metaは300億ドルの債券取引を実施した。Amazonは3年ぶりとなる150億ドルの社債を発行した。

2025年11月、著名ヘッジファンドのSaba Capital Managementが、ビッグテックのクレジット・デフォルト・スワップを銀行に売却していることが報じられた。銀行は、債務で資金調達されたAI投資の熱狂が将来破綻するリスクをヘッジし始めた。これまでリスクゼロと見なされてきたビッグテックの信用力が、初めてヘッジ対象となった。

タイ企業への影響

タイでビジネスを展開する企業は、クラウドサービスを利用している。AWS、Microsoft Azure、Google Cloudは、タイ市場で重要な位置を占める。ビッグテックの財務状況の変化は、これらのサービスに影響を及ぼす可能性がある。

第一に、価格政策への影響が考えられる。巨額の投資を回収するため、クラウドサービスの価格が調整される可能性がある。特にAI関連サービスの料金体系が変わるかもしれない。

第二に、サービスの優先順位が変わる可能性がある。各社は「需要に基づく投資」を強調している。これは、収益化が見込めない地域やサービスへの投資が抑制されることを意味する。タイのような中規模市場では、新サービスの展開が遅れる可能性がある。

第三に、電力制約が地域展開に影響する可能性がある。電力確保が困難な地域では、データセンターの拡張が遅れるかもしれない。

タイ企業は、クラウドサービスの選択において、単一ベンダーへの依存リスクを再考する必要があるかもしれない。ただし、BKK IT Newsとしては、マルチクラウド戦略には慎重であるべきと考える。人材コスト、運用コスト、管理の複雑化というデメリットがある。信頼性の高い単一ベンダーを選択し、そのエコシステムを最大限活用する方が合理的だ。

今後の見通し

ビッグテックの「弱体化」は、衰退を意味しない。高収益なソフトウェア企業から、資本集約型のインフラ企業への変化を示す。この変化は戦略的なものだが、同時に新たなリスクを生み出す。

投資銀行の分析によれば、2025年のビッグテックAI関連設備投資は4,050億ドルに達する。この規模は米国GDPの約1.3%に相当する。1990年代のITブームや19世紀末の鉄道ブームに匹敵する国家規模のインフラ投資だ。

歴史的に見ると、インフラブームは過剰投資と過当競争に終わることが多かった。インフラの構築者は資本を破壊し、そのインフラがコモディティ化した後、利用者が利益を得る。

タイ企業は、ビッグテックのAI投資がもたらす便益を享受できる。同時に、財務状況の変化がもたらす価格調整やサービス優先順位の変更に備える必要がある。クラウド戦略は、長期的な視点で慎重に構築すべきだ。

参考記事リンク

  • AI Is Making Big Tech Weaker — Heard on the Street — WSJ – FastBull https://m.fastbull.com/news-detail/ai-is-making-big-tech-weaker–heard-news_7200_0_2025_4_124516_3
  • Big Tech’s $405B Bet: Why AI Stocks Are Set Up for a Strong 2026 https://io-fund.com/ai-stocks/ai-platforms/big-techs-405b-bet
  • AI Capex Amid 2025 Bull Market: What’s Next? | Morgan Stanley https://www.morganstanley.com/insights/articles/ai-spending-bull-market-2025
  • Microsoft Details AI’s Next Barrier: Data-Center Power Availability https://news.bitcoin.com/microsoft-details-ais-next-barrier-data-center-power-availability/
  • Big Tech’s AI Spending—and Borrowing—Will Be Even Higher Next Year https://www.investopedia.com/big-tech-s-ai-spending-and-borrowing-will-be-even-higher-next-year-says-citi-11821812