タイ、Microsoftがデータレジデンシー対応強化 ~Azure拡張とGULF・CP提携、AWS追撃へ~

タイ、Microsoftがデータレジデンシー対応強化 ~Azure拡張とGULF・CP提携、AWS追撃へ~ クラウド
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Microsoftが2025年11月にデータレジデンシー要件への対応を強化する技術を発表しました。10月に発表されたGULFやCP Groupとのパートナーシップと合わせ、タイ市場での攻勢を強めています。金融・医療・公共部門へのクラウド導入を後押しする戦略が明確になりました。

Microsoftの3層戦略

Microsoftのタイ市場攻略は、物理・法務・技術の3層で構成されます。

2024年5月、サティア・ナデラCEOがタイ国内にデータセンターリージョンを設立すると発表しました。投資規模は10億ドルです。物理的基盤の構築を約束しました。

2025年10月28日には、GULF / AISとのパートナーシップを発表しました。同日、CP Group / Trueとも戦略的提携を結びました。GULFの発電能力とAISの通信インフラを活用します。CP Groupの顧客基盤と政府とのリレーションシップも活用する体制が整いました。

11月15日、Azure Localの機能を拡張しました。サーバー規模が従来の16台から数百台まで対応可能になりました。NVIDIA RTX Pro 6000 Blackwell Server Edition GPUを搭載しています。GPT、Llamaなどの大規模言語モデルを実行できます。データを外部に出す必要はありません。

AWSとの競争状況

AWSは2025年1月8日にタイ国内リージョンを開設し、2037年までに50億ドルの投資を計画しています。Microsoftは9ヶ月以上の遅れを取り戻すため、差別化戦略を採用しています。

AWSはパブリッククラウドの規模と速度で市場を攻略しています。一方、Microsoftは強力なローカルパートナーとの協業を重視します。Azure Localによるプライベート/ハイブリッド・クラウドという技術的優位性も前面に押し出しています。AWSタイリージョンの開設から半年が経過し、市場は次の段階に入っています。

PDPA厳格化が市場を変えた

タイの個人データ保護法(PDPA)は2022年6月に完全施行されました。法律上はデータ・ローカライゼーションを明示的に要求していません。しかし、国境を越えるデータ移転には厳格なハードルが設けられています。

2025年8月、個人データ保護委員会(PDPC)は初の大規模な行政罰(合計約2,150万バーツ)を科し、法執行の本格化を明確にしました。これにより、企業のデータレジデンシーへのニーズは「理論上の課題」から「即時の経営リスク」へと変化しました。

金融、医療、公共部門といった機微データを扱う組織にとって、データをタイ国内に設置することが現実的な選択肢となっています。

規制産業のクラウド移行が加速

タイの金融セクターでは、モバイルバンキングのトランザクションが月間32億件を超えています。しかし、バックエンドシステムの多くは数十年前のメインフレーム上で稼働しています。モダナイゼーションが課題です。

Azure Localは、銀行が自らのデータセンター内にプライベートクラウドを構築できます。データを物理的に国内に留めながら、Azureの最新AIサービスを利用できます。リアルタイムの不正検知やAIによる顧客分析などが導入可能です。コンプライアンスを遵守しながら実現できます。

政府部門では、デジタル政府開発庁(DGA)が政府データの国内保存を強く推奨しています。DGAが発表したクラウド導入ガイドライン草案は、高度保護が必要なデータについて主権クラウドでの国内保存を義務付けています。Microsoftの3層構造は、これらの厳格な調達要件に対応したものです。

医療分野では、PDPAが健康データを最も厳格な「センシティブデータ」として分類しています。Azure Localを活用すれば、電子カルテのクラウド化が可能です。病院間での安全なデータ共有も実現できます。国内でコンプライアンスを保ちながら導入できます。

企業への影響と選択肢

ハイパースケーラー各社は、インフラ投資と並行して人材育成にもコミットしています。Microsoftはタイで10万人以上にAIスキルを提供する計画です。企業がクラウド導入を成功させるには、これらのトレーニングプログラムの活用が重要です。

タイ市場では、AWSが国内リージョンを開設済みです。MicrosoftとGoogleも国内リージョン設立を発表しており、クラウドインフラの選択肢が広がりつつあります。ただし、マルチクラウド戦略には慎重な検討が必要です。複数クラウドの運用は、専門家確保と研修費用、データ転送費用、統一管理の困難という課題を伴います。

AWSパートナーエコシステムが示すように、グローバルクラウドベンダーは内部に強力なエコシステムを持っています。信頼性の高い単一ベンダーへの集中が効率的な選択肢となるケースが多いです。

タイのデジタルハブ化への道筋

データレジデンシーに対応したクラウドインフラは、AI活用の基盤となります。Azure LocalのようなオンプレミスGPU環境により、企業はデータを国内に留めながらAIモデルを実行できます。Kearneyの調査によれば、AIは2030年までにタイのGDPに1,170億ドル(約3.7兆バーツ)の恩恵をもたらすと予測されています。

ハイパースケーラーの投資により、タイのデータセンター市場は2023年の6億5,000万ドルから2030年までに15億ドルを超える見込みです。

PDPAという規制が、海外企業から巨額のインフラ投資と技術移転を引き出す触媒となりました。米国ビッグテックがサプライチェーンを脱中国化する動きも加わります。タイの製造業とデジタル産業の両面で成長機会が広がっています。

BKK IT Newsとしては、この変化が中小企業を含む幅広い産業に波及し、タイの国際競争力を高める契機となる可能性があると考えています。

参考記事