Google Brain創設者が主張 ~AI時代こそコーディングを学ぶべき理由~

Google Brain創設者が主張 ~AI時代こそコーディングを学ぶべき理由~ AI
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Google BrainとCourseraの共同創設者であるアンドリュー・ン氏が、「AIが進化する中でも、今こそコーディングを学ぶべきである」と発言し、業界に議論を巻き起こしています。一方で専門家からは、基礎原理の重要性を軽視すべきでないという警告も上がっています。

ン氏の主張と「Vibe Coding」

2025年11月、ン氏はZDNETのインタビューで明確な主張を展開しました。「AIがプログラミングを自動化する」という理由でコーディング学習を思いとどまらせるアドバイスを、「史上最悪のキャリアアドバイス」と批判しています。

ン氏は1960年代の例を挙げます。キーボードと端末がパンチカードに取って代わった際、プログラミングは容易になりました。その結果、プログラマーは減少するどころか爆発的に増加しました。AIも同様に、プログラミングを「置き換える」のではなく「容易にする」技術であると主張します。

ン氏が推奨するのは「Vibe Coding」という新しいアプローチです。これは、AIツールを全面的に活用し、コーディングプロセスを促進・支援させる開発手法を指します。「手でコーディングするな。AIにコーディングを助けてもらえ」とン氏はアドバイスしています。

この提言は、従来のソフトウェアエンジニア志望者だけに向けられたものではありません。「CEO、マーケター、リクルーターであれ、コーディングができる人々は、そうでない人々よりも多くのことを成し遂げられる」と述べています。コーディングスキルが、スプレッドシートのように、あらゆる知的労働者のための普遍的なリテラシーへと変化しつつあるという認識です。

専門家からの反論と実証データ

一方で、ン氏の「Vibe Coding」に対しては、ソフトウェア品質やセキュリティに関する深刻な懸念が専門家から提起されています。

2025年に実施された経験豊富なオープンソース開発者を対象とした実証研究では、AIツールを使用した開発者は、使用しない開発者と比較して、タスク完了までに19%長く時間がかかるという結果が報告されました。ITProが引用した調査によれば、開発者の67%が、AI生成コードのデバッグに「以前より多くの時間」を費やしています。

専門家は「アクセシビリティは、基礎原理を消し去らない」と指摘します。データ構造、デバッグ、アーキテクチャといった中核概念をスキップした初心者は、AIが生成したコードが壊れた際に完全に行き詰まることになると警告しています。

労働市場の二極化

スタンフォード大学が2025年に発表した研究は、労働市場の構造変化を明らかにしました。AIに晒される役割に従事する早期キャリア(22~25歳)のエンジニアの雇用が、相対的に13%減少しています。AIは、ジュニア人材が担当していた「定型化された知識」に基づくタスクの自動化を得意とするためです。

一方で、シニアエンジニアが持つ経験に基づく「暗黙知」はAIによる代替が困難であり、シニアの雇用は安定しています。2025年のDice Tech Salary Reportによれば、AIの設計、開発、実装に関わる技術専門職は、そうでない同僚と比較して平均17.7%高い給与を得ています。

開発者の役割は、コードを「書く人」から、AIが生成したコードの品質、妥当性、セキュリティを管理する「AIシステム監督者」へと進化しています。新しいエントリーレベルの開発者に対して、AIは従来はシニアエンジニアの領域だった高度な分析・検証能力を要求するようになりました。

教育システムの変革

米国政府は、AIによる労働力の変容を経済安全保障上の重要課題として認識しています。2025年、米国議会には「AI Education Act of 2025」が提出されました。これは、国家科学財団を通じてAI研究のための奨学金やコミュニティカレッジでの「AIエクセレンスセンター」の設立を国家予算で支援するものです。

大学も変革を余儀なくされています。UCサンディエゴ主導のコンソーシアムに代表されるように、大学はAI時代のCS教育の「ルールブックを書き直す」必要に迫られています。CS教育の焦点は、「コードを書く方法」から、AIにコンパイルさせるための「要求仕様」を設計し、その結果を「検証・妥当性確認」する能力へと移行しています。

必要なスキルとは

ン氏が提唱する「Vibe Coding」のアクセシビリティと、専門家が警告する「基礎原理」の重要性は、矛盾するものではありません。これらは、AI時代のプロフェッショナルに求められるスキルセットの、不可分な「両面」です。

2025年の市場は、「Vibe」だけでも「Fundamentals」だけでも不十分であることを示しています。AIツールを「活用」して開発を加速しつつ、AIの出力を「批判的」に検証し、その品質に責任を負うことができる深い「基礎原理」を併せ持つ人材が求められています。

AI時代における「コーディング学習」の真の価値は、特定の「構文」の習得ではありません。AIに対し「何を、なぜ」作らせるかを論理的に定義し、その出力を「検証」する能力、すなわち「システム思考」と「批判的思考」にあります。

AIはコーダーを「置き換える」のではなく、むしろ「これまで以上に彼らに依存する」ことになります。組織は、AIを「脅威」として恐れるのではなく、「強力なレバレッジ」として使いこなすために、AI時代に即した「システム設計」、「論理的思考」、「批判的検証能力」の育成に取り組む必要があります。

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