米国の対中半導体規制第3弾 ~日本とオランダへの圧力強化、同盟国が直面する板挟み~

米国の対中半導体規制第3弾 ~日本とオランダへの圧力強化、同盟国が直面する板挟み~ タイ国際外交・貿易
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2025年11月11日、米国政府が日本とオランダに対し、中国への半導体製造装置の輸出規制を強化するよう要請していることが明らかになった。要請は外交ルートを通じて行われた。米国は既存の装置への保守サービス停止を求めている。半導体製造に不可欠な特殊化学物質の輸出制限も要請内容に含まれる。米中技術覇権戦争が新たな局面に入った。同盟国は深刻なジレンマに直面している。

規制強化の具体的内容

米国の要請は二つの重要な「抜け穴」を塞ぐことを目的としている。

第一に、米国はオランダのASML社に対し、既存の規制が発効する2023年9月より前に中国企業が購入した先端半導体製造装置への保守、修理、サービス提供を停止するよう求めている。半導体製造装置は定期的なメンテナンスが必要だ。部品交換とソフトウェアのアップデートがなければ、中長期的に稼働を維持できない。サービス提供が停止されれば、中国の半導体工場は装置を所有していても、稼働を維持できなくなる。

第二に、米国は日本に対し、半導体製造プロセスの根幹をなす特殊化学物質の対中輸出を制限するよう求めている。これには高性能なフォトレジスト(感光材)が含まれる。日本企業はこれらの化学物質で世界市場の圧倒的なシェアを握る。供給が停止すれば、中国の製造ラインは即座に停止する。

日本政府は2023年に東京エレクトロンやニコンなどが製造する23品目の先端製造装置の輸出をすでに制限している。今回の米国の要請は異なる。規制の網を装置という「資本財」から、製造に不可欠な「消耗品(材料)」へと拡大することを目的としている。

規制強化の背景

この要請は2022年10月から始まった米国の対中技術戦争の一部だ。2022年10月、米国商務省産業安全保障局が、中国のAIおよびスーパーコンピュータ能力を制限するため、包括的な輸出規制を発表した。2023年には日本とオランダが協調して規制を導入した。

しかし、2025年9月、状況が一変した。米国が導入した「50%ルール」がオランダの半導体メーカーNexperiaを直撃し、オランダ政府による接収と中国の報復措置が発生した。中国はNexperia製品の輸出を停止し、世界の自動車産業が麻痺の危機に直面した。

この危機により、10月末から11月初旬のAPECで、トランプ大統領と習近平国家主席が「一時的休戦」に合意した。米国は「50%ルール」を1年間停止し、中国はNexperiaチップの輸出と重要鉱物の輸出規制を停止した。

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今回の要請の真意

2025年11月11日の「同盟国への圧力」は、11月1日の「米中休戦」の直接的な結果だ。

米国は、自国の最も強力な規制手段である「50%ルール」を自ら放棄(一時停止)した。しかし、中国の先端技術を止めるという目的は変わっていない。したがって、米国は「50%ルール」の代わりとなる別の対策を緊急に必要とした。それが、今回の日本とオランダへの「サービス停止要請」と「化学物質停止要請」だ。

端的に言えば、米国は、自らが飲んだ「譲歩」によって生じた安全保障上の穴を、同盟国の経済的犠牲によって塞がせようとしている。

日本とオランダが直面するジレンマ

今回の米国の「圧力」は、日本とオランダを深刻な戦略的ジレンマに陥れている。Nexperia危機は、中国が「レガシーチップ」と「レアアース」を武器に、同盟国の産業界を人質に取る能力があることを世界に証明した。日本とオランダは、この「人質」を抱えたまま、米国から「中国をさらに挑発しろ」という要求を突きつけられている。

米国に従う場合、深刻な経済的打撃を受ける。2025年現在、中国市場はASMLの総売上高の約20%を占めると予想されている。東京エレクトロンにとって、中国市場の重要性はさらに高い。2025年度第1四半期において、中国市場は東京エレクトロンの総売上高の49.7%(約半分)を占めていた。

さらに、中国による確実な報復が予想される。Nexperia危機の再来だ。中国は、釜山サミットの「休戦」合意を破棄し、自動車産業やエレクトロニクス産業に不可欠なレアアース、重要鉱物の輸出を再度停止する可能性が極めて高い。

一方、米国に抵抗する場合、米国による報復を受けるリスクがある。トランプ政権は、両国の企業に対し、米国市場からの締め出しや、米国の技術へのアクセス禁止など、何らかの懲罰的措置に出る可能性がある。

報道によれば、両国の政府は「現在の規制の影響をまず評価したい」として、米国に対し時間稼ぎを図っている。

中国の技術的自立の加速

米国の一連の規制がもたらした最大の、そして最も皮肉な長期的影響は、中国の「技術的自立」を不可逆的に加速させたことだ。

米国の規制は、中国にとっての国家の存亡をかけて技術的自立を目指す歴史的な引き金となった。2025年10月から11月にかけて報じられた最新の動向は、その「自立」が西側諸国の予想を遥かに上回る速度で進んでいることを示している。

中国の半導体企業「SiCarrier」が、「3nm(ナノメートル)プロセス」および「5nmプロセス」の設計・テストに対応可能な、完全に国内開発されたEDA(電子設計自動化)ツールを発表した。EDAは半導体設計の「設計図」を描くためのソフトウェアで、この市場は米国のSynopsys、Cadence、ドイツのSiemens EDAの3社が世界市場の約75%を寡占する、西側にとって最強の「チョークポイント」だった。

これらの中国側の発表が、技術的にどこまで真実であるかは、2025年11月現在、第三者による検証が困難だ。しかし、この動向が示す未来は明確だ。今回の米国の「サービス停止」と「化学物質停止」の要請が成功すれば、短期的には中国の既存の先端ファブは壊滅的な打撃を受ける。

だが、その圧力は、中国が「完全な国内サプライチェーン」の確立を、国家の最優先事項として死に物狂いで加速させることを意味する。米国は「短期的な勝利(既存ファブの無力化)」と引き換えに、「長期的な敗北(米国が制御不可能な、西側とは異なる独自の技術生態系の誕生)」のリスクを冒している。

企業への影響とBKK IT Newsの見解

タイ企業にとって、この動向は複数の側面で影響を及ぼす。

第一に、半導体供給の不確実性が高まる。中国の先端ファブが機能不全に陥った場合、短期的に世界的な半導体供給の混乱が生じる可能性がある。

第二に、サプライチェーンの二極化が加速する。中国市場向けと西側市場向けで、異なる技術標準や部品調達戦略が必要になる。

第三に、長期的には中国独自の半導体エコシステムが確立される可能性がある。その場合、中国市場でビジネスを展開する企業は、中国の国産技術への対応を迫られる。

今回の米国の要請は、同盟国に対する「責任転嫁」の性格が強い。米国は、自らが譲歩した「50%ルール停止」の穴埋めを、日本とオランダに求めている。日本とオランダは、米中両国の間で板挟みになっている。どちらの選択肢も、深刻なリスクを伴う。

長期的には、この圧力が中国の技術的自立を加速させ、米国の「チョークポイント戦略」が破綻する可能性がある。2025年10月から11月にかけて報じられた中国のEDAブレイクスルーは、その予兆かもしれない。

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