タイ、EC輸入品への課税を強化 ~2026年1月から1バーツ超に関税・VAT、SME保護~

タイ、EC輸入品への課税を強化 ~2026年1月から1バーツ超に関税・VAT、SME保護~ タイ国際外交・貿易
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タイ税関局が2025年11月5日、重要な政策変更を発表した。Eコマース輸入品への全面的な関税適用だ。2026年1月1日から1バーツを超える輸入品すべてに関税とVATを課税する。

これまで1,500バーツ以下の輸入品は関税を免除されていた。この免税措置はデミニミス制度と呼ばれる。海外からの安価な輸入品の流入を促す仕組みだった。タイ政府はこの制度を完全に撤廃する。国内SMEを保護する方針を明確にした。

段階的な政策変更の経緯

タイ政府は2024年7月から段階的な課税強化を進めてきた。第1段階として、1,500バーツ以下の輸入品に7%のVATのみを課税した。この措置は一時的なものとして開始され、2025年12月31日まで延長された。この期間、関税は依然として免除されていた。

今回の発表は第2段階にあたる。2026年1月1日以降、VATに加えて輸入関税も徴収される。これにより、1,500バーツのデミニミス制度は事実上完全に撤廃される。

この2段階のアプローチは、急激な政策変更による混乱を避けるための措置だった。第1段階のVATのみの徴収により、タイ政府は年間20億バーツの税収増を実現した。第2段階では、さらに年間約30億バーツの関税収入が見込まれる。

国内SMEの強い要請が背景に

この政策変更の最大の推進力は、国内SMEからの強い要請だ。タイの中小企業は、製品にVATを課税し、輸入原材料に関税を支払う義務を負っている。一方で、海外のEコマース事業者は1,500バーツの免税枠を利用し、これらの税負担を回避してきた。

国内SMEは、この状況を「不公正な競争」として政府に是正を求めてきた。特に中国からの安価な輸入品の大量流入が、国内製造業の価格競争力を奪っていた。タイ小売業者協会も、政府に対し公正な競争条件の実現を強く要求していた。

タイ政府は、この国内産業からの圧力に応える形で、デミニミス制度の完全撤廃を決定した。税収増加は副次的な効果であり、主要な目的は国内SMEの保護にある。

プラットフォーム事業者との協力が鍵

新制度の実行には、Eコマース・プラットフォーム事業者の協力が不可欠だ。税関局長官は、年間数億個にのぼる小包を税関職員が物理的に検査することは不可能だと認めている。

このため、税関局は2025年11月7日にShopeeとLazadaを招集し、協議を行うことを発表した。協議の目的は、プラットフォームに対し、輸入商品の詳細なデータを通関前に税関システムと連携させるよう協力を要請することだ。

税関は法的にこのデータ連携を強制する権限を持たない。しかし、協力しない事業者の貨物は通関が大幅に遅延する可能性がある。税関はこのことを示唆している。これは事実上、プラットフォームに協力を促すための圧力だ。

関税率の適用方法

2026年1月1日からの関税率の適用については、短期的なアプローチと長期的な構想が示されている。

施行当初は、現行の関税率表に基づき、品目ごとに個別の関税率が適用される。税関局長官は具体例として、プラスチック製品であれば20%の関税が適用されると述べている。

長期的には、すべての小包に対して一律20%または30%の定額税率を適用する構想も明らかにされた。しかし、この一律課税の導入には法律および省令の改正が必要であり、時間がかかるため、即時の導入ではない。

世界的なデミニミス見直しの潮流

タイの今回の決定は、世界的なデミニミス見直しの大きな潮流の一部だ。Eコマースの拡大により、各国の国内小売業者が不公正な競争にさらされる問題は世界共通となっている。

2025年、米国は800ドルのデミニミスを事実上撤廃した。これは他国に政治的な後押しを与えた。同様の保護主義的な措置を取りやすくなった。タイ税関局長官も、米国や他の多くの国がデミニミスを撤廃している事実に言及している。自国の政策変更を正当化する根拠としている。

ASEAN域内でも、Eコマースに対する規制と課税は強化される傾向にある。インドネシアは関税で3米ドル、税金で0米ドルという非常に低いデミニミスを設定している。ベトナムは2025年7月から、プラットフォーム事業者にVATとPITの源泉徴収義務を課している。

消費者と企業への影響

タイの消費者は、この政策の直接的な影響を受ける。海外から購入する低価格商品の最終価格は、輸入関税とVATの分だけ確実に上昇する。特に価格に敏感な消費者層では、購買行動が変化する可能性がある。

プラットフォーム事業者は、新たな運営上の課題に直面する。関税とVATを品目ごとに正確に計算し、徴収し、税関システムと連携して申告するための大規模なシステム投資が必要となる。管理コストの増大は避けられない。

一方、国内SMEにとっては、長年求めてきた公正な競争条件が実現する。海外事業者にも国内事業者と同等の税負担が課されることで、価格差が縮小する。国内製造業および小売業の価格競争力が回復することが期待される。

企業が取るべき対応

輸入に依存する企業は、2026年1月1日以降のコスト増を価格に反映させる必要がある。価格戦略の見直しと、顧客への説明が求められる。

国内製造業は、この機会を活用して市場シェアを拡大できる可能性がある。公正な競争条件が実現することで、品質やサービスでの差別化が重要になる。

プラットフォーム事業者は、税関とのデータ連携システムの構築を早急に進める必要がある。通関の遅延は、顧客満足度に直接影響する。協力体制を構築することが、事業継続の鍵となる。

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