2025年10月31日、Amazonの株価が12.4%急騰し、史上最高値の250ドルに達した。前日に発表された第3四半期決算が、市場の予想を大きく上回ったことが要因だ。2025年前半まで低迷していたAmazon株が、この決算発表で一気に反転した。クラウド事業AWSの成長率が20.2%に回復したことが、投資家の懸念を払拭した。
決算概要と株価低迷からの脱却
Amazonの2025年第3四半期の業績は以下の通りだ。総売上高は1,802億ドルで前年同期比12%増となり、市場予想の1,777億ドルを上回った。1株当たり利益(EPS)は1.95ドルで、市場予想の1.56ドルを25%上回った。
AWS(クラウド事業)の売上高は330億ドルに達した。前年同期比で20.2%の成長となり、市場予想の325億ドルを上回った。広告事業の売上高は177億ドルで、前年同期比22%増となった。
営業利益は174億ドルだが、FTC(連邦取引委員会)との和解金25億ドルとリストラ費用18億ドルが計上されている。これらを除くと、実質的な営業利益は217億ドルとなる。純利益は212億ドルだったが、Anthropicへの投資から生じた95億ドルの評価益が含まれている。
2025年前半、Amazonの株価は他のハイテク株に比べて低迷していた。年初来の上昇率は5%程度で、他のAI関連銘柄に大きく劣っていた。この低迷の主因は、AWSの成長鈍化に対する懸念だった。第2四半期のAWS成長率は17.5%にとどまった一方、Microsoft Azureは40%、Google Cloudは34%の成長率を記録していた。
AWS成長率の回復とAI戦略
第3四半期、AWSの成長率は20.2%へと回復した。これは2022年以来の高い成長率である。アンディ・ジャシーCEOは、この成長を「AI関連ワークロードと基盤インフラへの需要」によるものと説明した。
成長率で見れば、AWSは依然として競合に劣っている。しかし、売上高の絶対額で比較すると、AWSは330億ドルで、Google Cloudの152億ドルの2倍以上だ。Microsoftのクラウド部門全体(309億ドル)も上回っている。市場が注目したのは、成長率が17.5%から20.2%へと上昇したというトレンドの変化だった。
AWSの営業利益は114億ドルに達し、Amazon全体の営業利益の約65%を占めている。このAWSの成長回復が、投資家の懸念を払拭した。
Amazonは長年、Nvidiaへの依存から脱却するため、独自のAIチップ開発に注力してきた。Amazonが開発したAI学習用チップ「Trainium2」の事業が、数十億ドル規模に成長したと発表した。四半期比で150%の成長を記録している。ジャシーCEOは、Trainium2がNvidia製チップと比較して30%から40%優れた価格性能比を提供すると主張している。
Amazonはインディアナ州に110億ドル規模のAIデータセンター「Project Rainier」を建設している。このキャンパスには、現在50万個のTrainium2チップが搭載されており、年末までに100万個に増強される予定だ。
Anthropicとの戦略的パートナーシップ
AmazonはAnthropicに総額80億ドルを投資している。第3四半期の決算では、この投資から95億ドルの評価益を計上した。ただし、これは未実現の利益であり、Anthropicの企業価値評価が上昇したことによる会計上の利益である。
このパートナーシップの本質は、財務的リターンよりもAWSの競争力強化にある。Anthropicは、AIモデル「Claude」の学習と展開にAWSを使用している。これにより、AWSは大規模なAIワークロードの需要を確保している。
AnthropicのモデルはAWSのAIプラットフォーム「Amazon Bedrock」を通じて提供されている。Amazonは、特定のモデルに依存しない中立的なプラットフォームとして位置づけている。この戦略は、OpenAIと深く統合されたMicrosoftや、独自のGeminiを推進するGoogleとの差別化を図るものだ。
注目すべきは、Microsoftが、OpenAIへの投資により31億ドルの損失を計上した点だ。OpenAIが莫大な研究開発費を支出し赤字を計上しているため、Microsoftは持分法損失を負担している。一方、AmazonはAnthropicから評価益を得ている。会計処理の違いが、両社の財務に異なる影響を与えている。
人員削減とAI投資の並行
好調な決算の裏で、Amazonは重要な経営判断を行っている。決算発表の数日前、Amazonは14,000人規模の人員削減を発表した。主に間接部門(コーポレート)が対象である。
ジャシーCEOは、この人員削減が「AI主導ではない」と説明している。しかし、AIへの1,250億ドルの設備投資引き上げと、人員削減のタイミングを考えると、リソースの再配置が行われていることは明らかだ。
Amazonの2025年通年の設備投資は、従来の1,180億ドルから1,250億ドルへと引き上げられた。CFOは「2026年のCapExはさらに増加する」と予告している。Amazon、Microsoft、Googleの3社は、AIインフラの構築に年間合計3,500億ドル以上を投資している。
かつて、AI開発の参入障壁は優秀な研究者だった。しかし現在、基盤モデル開発における真の障壁は、数十万個のAIチップとデータセンター、そして莫大な設備投資である。この資本集約的な競争は、ごく少数の企業しか参加できない。
AWSの大規模障害と市場の反応
決算発表の約1週間前、AWSは大規模なシステム障害を起こした。バージニア北部の「US-East-1」リージョンで発生し、世界中の数千のウェブサイトやサービスが停止した。原因はDynamoDBのDNS管理システムのバグだった。
この障害により、銀行、病院の電子カルテ、スマート家電など、社会の重要インフラが広範囲にわたり停止した。現代社会が、単一企業のインフラにどれほど深く依存しているかを露呈させる事態となった。
通常、このような大規模障害は株価に重大な影響を与える。しかし、決算発表後の市場は、この問題を完全に無視した。決算説明会でも、ジャシーCEOはこの障害について一切言及しなかった。市場は、AIの成長期待というポジティブな側面にのみ注目した。
AI寡占の進行
Amazon、Microsoft、Googleの3社は、世界のクラウド市場の3分の2以上を支配している。AIブームは、この寡占構造をさらに強化している。
クラウド3社は、既にインフラ層を寡占している。現在、彼らはモデル層も支配下に置こうとしている。MicrosoftはOpenAI、AmazonとGoogleはAnthropicとパートナーシップを結んでいる。さらにAmazonは、Trainium2によってチップ層にまで垂直統合を進めている。
この構造下では、独立したAIスタートアップは厳しい立場に置かれる。インフラの調達先、投資家、そして競合がすべて同じ企業という状況に直面する。FTC(連邦取引委員会)は、クラウド事業者が自社の投資先スタートアップに優先的にGPUを割り当てていると指摘している。
企業が考慮すべき選択肢
AWSの成長回復は、今後も継続する可能性が高い。AI関連のワークロード需要は拡大を続けている。Amazonは、Trainium2とAnthropicとのパートナーシップにより、この需要を取り込む基盤を構築した。
設備投資の増加は今後も続く。AIインフラへの投資競争は激化する。この競争に参加できるのは、莫大な資本を持つごく少数の企業に限られる。人員削減とAI投資の並行は、今後の企業経営の一つの方向性を示している。
クラウド利用を検討する企業は、AI機能の充実度だけでなく、サービスの信頼性も評価する必要がある。障害発生時の影響範囲と復旧体制を確認することが重要だ。AWSを利用する企業は、Bedrockを通じて様々なAIモデルにアクセスできる。自社の用途に最適なモデルを選択できる柔軟性がある。
AIの導入を進める企業は、雇用への影響も考慮する必要がある。AIによる業務効率化は、同時に人員配置の見直しを伴う。長期的な人材戦略とAI戦略を統合して検討することが求められる。
クラウド3社への集中が進む中、分散化やバックアップ体制の構築も選択肢の一つである。ただし、マルチクラウド戦略には、人材コストと運用コストの増大というトレードオフがある。各社のエコシステム内で効率を追求する方が、多くの企業にとって現実的である。
Amazonの決算は、AI時代のクラウド事業の姿を示している。成長機会が拡大する一方で、市場の寡占化と社会インフラとしてのリスクも増大している。企業は、これらの両面を理解した上で、自社のクラウド戦略を検討する必要がある。
参考記事リンク
- Amazon stock skyrockets over 12% to all-time high on Q3 earnings
- Amazon.com Announces Third Quarter Results
- Amazon’s stock soars as earnings show ‘the AI narrative has flipped positive
- AWS opens $11B Project Rainier data center campus built for Anthropic
- Amazon reports strongest cloud growth since 2022 after major outage


