MicrosoftがEdgeブラウザに搭載したCopilotモードが、企業の業務効率化に新しい選択肢をもたらしている。AIがユーザーに代わってウェブ上のタスクを実行するこの機能は、情報検索から業務実行へとブラウザの役割を変えつつある。
EdgeのCopilot発表
2025年10月23日、MicrosoftはEdgeブラウザの新機能を発表した。発表の中核となるのが「Copilot Actions」と「Copilot Journeys」という2つのAIエージェント機能である。
Copilot Actionsは、AIがユーザーに代わってウェブ上でタスクを実行する機能である。Eメールの購読解除、フライトやホテルの予約、ウェブ記事へのコメント投稿といったタスクを自動化できる。音声コマンドによる操作もサポートされており、特定のウェブページを開いたり、記事内のトピックを検索したりといった操作がハンズフリーで可能になる。
Copilot Journeysは、ユーザーの閲覧履歴をトピックごとに自動的に整理する機能である。Copilotはバックグラウンドで閲覧中のページ内容の要約を生成し、それを関連するURL、検索クエリ、チャット履歴と組み合わせる。これにより、AIはユーザーの長期的な意図や関心を理解し、より文脈に即したサポートを提供できる。
プライバシー設定とセキュリティ
Microsoftは、これらの機能に対するプライバシーへの懸念に対し、「オプトイン」原則を採用している。ユーザーの明確な同意なしには機能が有効化されず、初期状態ではすべてオフに設定されている。
法人向けには、Edge for Businessで既存のデータ損失防止ポリシーを継承する仕組みが用意されている。企業が定めた情報セキュリティポリシーがCopilotの動作にも自動的に適用される。
AIブラウザ市場の競争激化
Microsoft EdgeのCopilotモードは、ブラウザ市場における新たな競争の幕開けを告げるものである。
Google ChromeはGeminiを搭載し、複数のタブを横断して質問に答える「マルチタブインテリジェンス」を提供している。2025年10月にはAIモード機能を日本語を含む5言語に拡大し、企業のグローバルな情報収集能力向上を支援している。
OpenAIは、AIを中心にブラウザをゼロから構築した「Atlas」を提供している。Atlasはエージェントモードで複雑なマルチステップのワークフローを自動化し、ゼロクリック経済への移行を加速させている。従来のSEOからGEO(Generative Engine Optimization)への転換が企業のマーケティング戦略に重要な影響を与えている。
Appleは、SafariにApple Intelligenceを統合し、プライバシーとセキュリティを強化する形でAIを提供している。オンデバイス処理とプライベートクラウドコンピュートを活用し、インテリジェントな要約や文脈に応じたハイライト表示といった補助的な機能に重点を置いている。
エージェント型ウェブへの移行
AIエージェントを搭載したブラウザの登場は、インターネットの構造とデジタル経済に長期的な変化をもたらす可能性を秘めている。
従来のモデルでは、ユーザーは検索エンジンで情報を探し、表示されたリンクから自らウェブサイトを閲覧していた。新たなモデルでは、ユーザーはエージェントに目的を伝えるだけで、エージェントが直接的な答えを提供したり、必要なアクションを実行したりする。
ユーザーが個々のウェブサイトを訪れなくなると、コンテンツが発見されるためのルールも根本的に変わる。コンテンツの可視性は、検索エンジンでのランキングよりも、機械による可読性に大きく依存するようになる。
これにより、「AI最適化」という新たな概念が生まれる。AIエージェントがコンテンツを容易に解析し、その上で行動できるように、ウェブサイトのデータを構造化する取り組みを指す。Schema.orgのような構造化データマークアップやセマンティックなHTML5タグの使用、機械がアクセスしやすいAPIエンドポイントの提供が重要になる。
企業への影響と対応策
企業は、このエージェント型ウェブへの移行を見据えた対応を検討する時期にきている。
まず、自社のウェブサイトやEコマースプラットフォームを、機械による消費を前提としたデータ構造化に最適化する必要がある。従来のSEOからAI最適化へと焦点を移行させることで、競合他社に対する優位性を確立できる。
次に、従業員の業務効率化の観点から、CopilotやGeminiといったAIブラウザ機能の導入を検討する価値がある。定型的なウェブタスクの自動化により、従業員はより高付加価値な業務に時間を割くことができる。
ただし、プライバシーとセキュリティの管理は慎重に行う必要がある。閲覧履歴や業務データがAIに学習される可能性を考慮し、企業の情報セキュリティポリシーに基づいた適切な設定を行うべきである。
同時に、エージェント型ウェブがもたらす利便性と引き換えに、従業員の批判的思考能力が低下するリスクにも注意を払う必要がある。AIの出力を鵜呑みにせず、批判的に評価するスキルを養うことが重要である。
Microsoft EdgeのCopilotモードは、この歴史的転換における重要な一歩である。企業は、この変化を注視し、適切に対応していくことが求められる。


