インド人起業家Ande Aditya氏が、タイで初となるAI搭載B2Bソーシングプラットフォーム「Thai Aesthetics」を2025年10月15日に発表した。同氏が率いるAditya Group Thailand傘下の新事業だ。海外のブランドや販売代理店と、タイの製造業者を結びつける。
ソーシングプラットフォームとは何か
ソーシングプラットフォームとは、製品の調達先を探すための仕組みだ。例えば、日本で販売するアロマキャンドルのブランドを立ち上げたい企業があるとする。この企業は、品質の高いキャンドルを製造できるタイの工場を探す必要がある。Thai Aestheticsは、このような企業と製造業者をマッチングする場を提供する。
従来は、展示会に出向いたり、貿易会社を通じたりして、時間とコストをかけて調達先を探していた。このプラットフォームを使えば、オンラインで効率的に製造業者を見つけられる。
何ができるのか
Thai Aestheticsで扱うのは、タイのライフスタイル製品だ。エコ・サステナブル製品、職人による伝統工芸品、パーソナルケア製品、ホームウェア、バイオイノベーション製品など、11のカテゴリーに特化している。
プラットフォームの特徴は、製品を探すだけでなく、製品開発の段階から支援する点にある。無料で提供される「AI Studio」を使えば、製品コンセプトのアイデア出し、パッケージデザインのモックアップ作成、市場トレンドの分析ができる。
例えば、「サステナブルなホテルアメニティを開発したい」という要望があれば、AI Studioがトレンド分析を行い、デザイン案を提示する。その上で、プラットフォーム上でそれを製造できるタイの工場を探せる。
どんな人が使うと嬉しいのか
このプラットフォームが想定する利用者は、以下のような企業だ。
海外のブランドオーナー: 自社ブランドの製品を製造する工場を探している企業。例えば、欧米のエシカルブランドが、タイの職人技を活かした製品を開発したい場合に利用できる。
販売代理店: 特定の市場向けに製品を仕入れたい企業。例えば、日本市場向けにタイのアロマ製品を輸入したい代理店が、製造業者を探す際に利用できる。
OEMメーカー: 他社ブランドの製品を受託製造する企業。顧客企業に提案するための製品アイデアや製造パートナーを探す際に利用できる。
これらの企業にとって、AI Studioは製品開発のコストとリードタイムを削減するツールとなる。
インド-タイ連携を背景に
Thai Aestheticsのローンチは、インドとタイの二国間関係が「戦略的パートナーシップ」に格上げされた2025年4月から半年後のタイミングだ。両国政府は4月に「デジタル技術分野における協力に関する覚書(MoU)」を締結している。
政府間合意のわずか6ヶ月後に、インド人起業家がタイでAI技術を駆使したプラットフォームを立ち上げる展開は、両国が推進するアジェンダを民間レベルで具現化する動きと言える。
無料AI Studioの戦略
東南アジアのB2B市場において、AI導入の主な障壁は導入コストの高さと専門知識の不足だ。無料のAI Studioは、リソースが限られる中小企業にとって、製品開発のリードタイム短縮とコスト削減に直結する。
この戦略は、プラットフォーム側にも利益をもたらす。バイヤーは製品開発の初期段階からこのツールに依存する。その後のサプライヤー選定も同じプラットフォーム上で行うことが合理的となる。結果として、強力な「ロックイン効果」が期待できる。
垂直型モデルでの差別化
Thai Aestheticsは、あらゆる製品を扱うのではなく、11のライフスタイル関連カテゴリーに特化する。この戦略は、Alibabaやタイ政府が運営するThaitrade.comのような巨大・汎用B2Bプラットフォームとの明確な差別化を図るものだ。
これらの「水平型」プラットフォームが価格競争に陥りがちなのに対し、Thai Aestheticsは「ライフスタイル」「サステナビリティ」「デザイン」といった特定の価値観で製品を絞り込む「垂直型」モデルを採用している。
価格よりも品質、デザイン、そして製品の背景にあるストーリーを重視するグローバルなバイヤー層にとって、魅力的な調達先となる可能性がある。
創業者の信頼が鍵
国境を越えるB2B取引において、最大の障壁の一つは「信頼」の欠如だ。Thai Aestheticsにおいて、この問題を解決する資産は、創業者Ande Aditya氏自身の25年以上にわたるタイでの実績と、両国にまたがる広範なネットワークである。
Aditya氏はタイに25年以上在住している。35年以上にわたるグローバルなビジネス経験を持つ。これまでに21の異なる業界で26以上の事業を立ち上げた。インドのTataグループやZEE TVなど、20社以上のインド企業のタイ市場進出を成功に導いた実績がある。
バイヤーやサプライヤーは、このプラットフォームを「Ande Aditya氏がその評価をかけて率いる事業」として認識する。そのため、安心して取引を開始できる。
今後の成功の鍵
BKK IT Newsとしては、Thai Aestheticsの成功には、いくつかの重要な要素が鍵を握ると考える。
第一に、キュレーションの質の維持だ。プラットフォームのブランド価値は、そこで紹介されるサプライヤーと製品の品質に依存する。品質基準を妥協すれば、高付加価値を求めるバイヤー層は離れていくだろう。
第二に、AI Studioの価値向上だ。無料ツールであるAI Studioが、実際にユーザーにとって価値のあるものとして広く利用されることが重要だ。機能を継続的に改善し、AI技術の進化に取り残されないよう、常に価値を提供し続ける必要がある。
第三に、巨大プラットフォームとの競争だ。市場の魅力が高まれば、AlibabaやLazadaといった巨大プラットフォームが同様のAIツールを導入し、参入してくる可能性がある。
この越境ベンチャーが成功すれば、他のインド人起業家や投資家にとって、ASEAN市場全体で同様のビジネスモデルを展開する際の青写真となる可能性がある。インドの技術系スタートアップが、タイの製造業クラスターと連携して新たな製品を開発・販売するような、より高度な形での経済連携が促進されるかもしれない。
参考記事リンク
- Indian Entrepreneur Ande Aditya Expands Global Footprint with Thai Aesthetics – Thailand’s First AI-Powered B2B Sourcing Platform
- Joint Declaration on the Establishment of India-Thailand Strategic Partnership
- We explore AI adoption and its impact on B2B in Southeast Asia – Tech Collective
- India-Thailand Relations: Enhancing Economic Resilience Through Trade, Investment, and Tourism – Observer Research Foundation
- Indian techies to help upscale Thai tech ecosystem – The Economic Times